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2022/1 Vol.125

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製品開発のみちのり

地球環境を守れ! 焼却炉の排ガス処理を革新 (株)プランテック

ー日本機械学会優秀製品賞受賞製品の開発物語ー

2020年度優秀製品賞「乾式反応集じん装置」(株)プランテック

創業者の予見

廃棄物焼却炉で発生する排ガスには、ダストの他にHClやSOXなどの酸性ガス、水銀などの重金属類、ダイオキシン類などが含まれているため、大気中に放出する前に除去することが必須だ。廃棄物焼却炉の製造で50年以上の実績を持つ環境プラントエンジニアリング企業の㈱プランテックは、有害物質を高効率で除去する乾式反応集じん装置「プランテック式プレコートバグフィルタ」を開発した(図1、図2)。開発の発端は30年前に遡る。

1990年初頭、廃棄物焼却施設などから排出されるダイオキシン類による汚染問題が注目されるようになった。この状況に、プランテック創業者の勝井征三(現・会長)は、「近い将来、ダイオキシン類の排出濃度に厳しい規制がかかるに違いない」と考えた。当時の排ガス処理は、電気集じん機でダストを取り除き、湿式洗煙装置で酸性ガスを除去、活性炭吸着塔や触媒反応塔などでダイオキシン類を除去するという技術が主流だった。この方式は有害物質の除去には有効だったが、排水処理施設をともなう大規模な設備となり、初期設備費や維持管理費が高く、排水処理で発生する多量の塩分などの課題があった。

一方、乾式排ガス処理方式は、排水処理設備が不要、設備が簡素、建設費や維持管理費が安いなど利点が多い半面、有害物質との反応効率が悪く除去能力が湿式より劣る欠点があった。そこで勝井は「乾式処理で湿式と同等の高効率除去を可能にするバグフィルタ(ろ過式集じん装置)が作れないか」と思い立った。

図1 プランテック式プレコートバグフィルタの外観

図2 内部構造(2室構造になっている)

図3 プレコート式(左)と連続吹き込み式(右)の違い

従来の乾式処理のウィークポイント

従来の乾式処理では、薬品(粉末の消石灰と活性炭)を排ガスダクトの煙道内に連続して吹き込む方式が一般的だ。バグフィルタの内部には、ろ布と呼ばれる筒状のろ過材がたくさん並ぶ。吹き込まれた薬品のうち、強アルカリ性の消石灰は酸性ガスと中和反応を起こしCaCl2やCaSOxを生成、活性炭は水銀とダイオキシン類を吸着する。それらはろ布に付着し(図3右)、堆積層(ダスト・反応生成物・吸着済み活性炭など)を形成する。そして一定の厚さになると、ろ布内側から数分ごとに圧縮空気を噴射し順番に払い落とすのだ。

しかし「連続吹き込み式バグフィルタ」では、堆積層(捕集灰)を落としてから再び形成されるまでの間、ろ布が裸になる時間帯ができる。裸のろ布と、薬品などが厚く堆積した層とでは、排ガスの通過しやすさに圧力差が生まれ、排ガスの流れは層の薄い方へ集中する。このため、十分に堆積層を形成していないろ布が有害物質まで通してしまうという現象が起きてしまう。

その結果、湿式処理では有害物質をほぼすべて除去できるのに比べ、「連続吹き込み式バグフィルタ」ではかなり多くが通過してしまうという性能の差になり、規制が厳しい大都市圏などの焼却施設では湿式処理が採用されていた。

勝井が考えたのは「ろ布表面に厚い薬品層を常に形成し、有害物質との接触効率を高める」方法だった。このアイデアに基づいて、1991年に新たなバグフィルタの開発に着手した。

プレコート式の開発へ

有害物質の反応と吸着には時間がかかる。勝井は、ろ布表面に薬品の厚い層を作り、排ガスが層を通過する間に反応・吸着させる手法を考案した。ヒントになったのは、自社の「竪型ストーカ式焼却炉」に採用した厚焚き燃焼技術。そこでは廃棄物の乾燥、熱分解・炭化、燃焼までの過程を垂直方向の厚い廃棄物層の中で実現する。プレコートバグフィルタにも薬品の厚い堆積層があり、その仕組みは次のようになっている。

約4時間分の排ガス処理に必要な薬品を、バグフィルタ入口の排ガスダクトから空気輸送でわずか10数分間で一気に吹き込む。すると薬品は直ちにろ布表面に付着して均一なプレコート層(反応・吸着層)を形成する(図3左)。排ガスがプレコート層を通過する間に、ダストは分離除去され、有害物質は薬品と高効率で接触し反応と吸着が行われる。しかも一気に均一な層を形成するのでろ布ごとの排ガス通過のばらつきがなく、ろ布が裸になる時間もほぼなくなるため有害物質の吹き抜けが防げる。薬品も無駄なく使え、節約できる。

レコート層での反応が終わるか、ダストの体積によりバグフィルタ内外の差圧が上昇すると、ろ布上のプレコート層を払い落とし、再びプレコート層を形成するサイクルに戻る。これにより湿式処理と同等の高効率除去性能が得られるようになった。

2つの課題

さて、開発には2つの大きな課題があった。1つ目は「いかに薬品をろ布全体に均等に付着させるか」だ。薬品の特性を研究し、空気輸送時の薬品と空気の比率、輸送流速、輸送抵抗、ブロワの動力を調べるなど、手探り状態から開発を始めた。バグフィルタ本体の形状と、入口の排ガスダクトの位置・方向・流速を検証していた時、出口の排ガスダクトの位置・方向・流速も、薬品の均等性に影響していることがわかり、適正化した。

2つ目は「いかに効率良く払い落とすか」だ。ガスの流れと逆方向から、高圧の空気を噴射し、ろ布を膨らませて付着物を払い落とすのだが、適切なタイミングや圧力、空気量を把握することが簡単ではなかった。また、ダストは表面がギザギザした形状なので、一度ろ布に付着すると取れにくい。そこでプレコート層を一気に形成し、その上に付着させることで、簡単に分離出来るようにした。

数か月間でテストプラントを作り、試行錯誤で実験を繰り返し行った。そして、わずか1年でプレコートバグフィルタを開発し、1994年には京都大学医学部附属病院に第1号基を納入したのだ。

構造の簡素化

従来のバグフィルタは多室構造を採用している。同社も1991年の開発当初、6室タイプから開発を始めたのだが、当時は、薬品を各室に均等に分配する装置は世になく、1室ごとに薬品の供給装置と輸送管(ホース)が必要だった。当然、設備費や維持管理費が増えてしまう。同社の技術者考えた末、家で行っている植木の水やりを思い出した。「1本のホースで鉢に順番に水をやるように、薬品も1本のホースで複数室へ順番に供給できるのでは」と思いつき、開発に取り掛かった。そして1996年、ホース1本で複数室に供給できる薬品の噴霧装置を開発したのだ。さらに室数を2室に集約し、装置の安定化を図った。

また、2011年には薬品をさらに有効にろ布に付着させる装置を開発した(図4)。薬品を吹き込む時に、導入する排ガス量が少ないと、薬品がろ布に到達できず落下する。そこで入口の排ガスダクト内にダンパを取り付けて、薬品を吹き付ける室側の排ガス流量を一時的に増やせるようにした。

図4 薬品吹き込み時の風量調整の仕組み

改良また改良

開発から30年の間、改良を続けてきた「プランテック式プレコートバグフィルタ」は、ダスト、酸性ガス、ダイオキシン類、水銀を同時に高効率で除去できる。なんとナノレベルのダイオキシン類を99.9%まで除去できるのだ。また、ろ布が常にプレコート層に保護されているので、ろ布の寿命が長く、維持管理費が削減出来る。その性能の良さは、国内外で163基の販売実績が物語っている。この製品は焼却施設において、環境を守る最後の砦だ。重い責任を背負っている。だからこそ、プランテックの技術者たちは今も「あらゆる有害物質を100%に近い高効率で除去する」と心は熱い。ますます厳しくなるであろう排ガス規制に対応するため、常に一歩先を見て、みんなで問題点を解決していく。その積み重ねが素晴らしい製品を生むのだ。

(取材・文 山田ふしぎ)

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