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2022/1 Vol.125

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研究ストーリー

デジタル技術による設計と生産の有機的統合化を目指して

2020年度日本機械学会賞(論文)

「幾何学的特徴量に対する偏微分方程式系に基づく幾何学的特徴制約付きトポロジー最適(積層造形における幾何学的特異点を考慮したオーバーハング制約法)」

山田 崇恭, 正宗 淳, 寺本 央, 長谷部 高広, 黒田 紘敏

DOI: 10.1299/transjsme.19-00129mej.19-00431


日本機械学会賞(論文)に選出頂きまして誠にありがとうございます。大変光栄に存じます。本研究は、私がフランスに研究滞在時に開始した偏微分方程式による数理モデリングの研究を起点として、北海道大学数学専攻の解析グループとの議論をより発展させた研究になります。

トポロジー最適化は、設計者の経験などに基づく試行錯誤に頼らずに、数学および力学的根拠に立脚して、構造物の最適な形状を創成設計する方法です。トポロジー最適化による設計法は1990年代から多くの研究成果報告があり、私も大学院生であった2008年から関連する研究をしています。これまでに、構造設計問題を中心に、熱流体、電磁場、光、音などのさまざまな現象を対象とした設計問題の研究、自動車や航空機を始めとする工業製品の設計への展開方法に関する研究など、数多くの研究報告があります。近年では、商用のトポロジー最適化ソフトウエアも多数販売されており、産業界でも広く認知されるようになりました。しかしながら、部分的な適用事例はあるものの、トポロジー最適化の持つ幅広い潜在能力が発揮されていないと思います。この課題の主たる要因は、力学的に最適な形状であっても、その生産工程や組立工程などを考慮すると、生産や組立が極めて困難、もしくはコストが大きく増大することにあると考えました。したがって、真に最適な形状設計のためには、力学的見地のみならず、生産などの多角的視点を取り入れた設計法であることが重要と考えるように至りました。

本研究の基本的な考え方は、仮想的な物理現象を考え、仮想的に設定した評価指標の最小化により、結果として、生産工程などの所望の設計要件を満足する設計解を得ることです。つまり、力学的根拠に立脚した設計論の枠組の中で、所望の生産要件を考慮するためには、生産要件に対しても、仮想的な力学として評価が可能となることが重要です。このアイデアのきっかけの一つは、さまざまな物理現象に対するトポロジー最適化の経験を通して、問題設定毎に得られる最適形状の幾何学的特徴に一定の傾向があることを感覚として持っていたことです。逆に考えれば、特定の幾何学的特徴を持つ最適形状を得るためには、どのような物理現象を考えて、どのような評価関数にすれば良いのか、推測できます。しかしながら、これだけでは、過剰な条件を与えてしまうことも考えられます。次に、アイデアの決定的なきっかけは、フランス研究滞在時に行っていた高次均質化法の研究です。高次均質化法は、波動現象の媒質のミクロ構造の大きさが無限小ではなく、有限であることに起因する現象を評価可能とするマルチスケール解析手法です。一見して、全く関係ない研究テーマですが、ミクロスケールの形状の特徴と、マクロ特性の関係性の評価を通して、幾何学的特徴と偏微分方程式の解の関係性に着目するようになりました。

基本的なアイデアの構想の後、具体的な定式化には2年程の時間を要しました。スマートな手法を見いだすことができず、七転八倒しながら試行錯誤的に定式化の検討をしている中で、時間だけが経過する日々でした。2021年現在においても、完全な証明には至ってはいませんが、本論文に関係する項目については、共著者の長谷部さん(北大・数学)を中心に、数学的に証明ができましたので、本論文が投稿できるようになりました。工学者の我が儘に親身に付き合って頂き、異分野連携による成果発表に繋がりました。

今後の展望としては、積層造形を中心として、より多角的な視点からの設計要件を考慮可能とする方法論の拡張と、幾何学的特徴に対する偏微分方程式の基盤理論構築に取り組んでいく予定です。

末筆になりましたが、査読、推薦、選考に関わった皆様に心より感謝申し上げます。また、多くの方々のご理解とご協力により、研究を邁進することができました。今後ともご指導ご鞭撻を頂ければ幸いに存じます。


<正員>

山田 崇恭

◎東京大学 大学院工学系研究科 総合研究機構 戦略研究部門 准教授

◎専門:最適設計、計算力学、数理モデリング

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