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2022/1 Vol.125

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経済で読み解く機械産業

第1回 機械産業はどれだけ貿易黒字を稼いでいるか

日本の自動車、鉄鋼や工作機械の国際競争力は強く、多額の貿易黒字を稼いでいる。特に機械産業の国際競争力は強く日本の貿易黒字の多くを占めている。しかしその機械産業と言っても中身を見ると個々の産業・商品の国際競争力が万遍なく強いという訳ではなく、強い産業・商品、弱い産業・商品が混在している。そこで機械産業の国際競争力を貿易黒字の状況およびその推移を見ることにより、その実態を探ることにしよう。

産業別の貿易収支

日本の産業の国際競争力の実態を探るために産業別の競争力を見る。表1は2018年の日本の産業についての輸出額、輸入額と収支額(貿易収支額)を見たものである。産業の国際競争力は貿易黒字額(輸出額—輸入額)で把握できる。国際競争力が強いと貿易収支額は大きくなる。

 

表1 産業別貿易収支(2018年) (10億円)

ここで扱う輸出額、輸入額、貿易収支額は財務省の貿易統計から数字を得ることができる。貿易統計は、貨物が税関を通過するときに提出される輸出申請書、輸入申請書などの申告書をもとに作成される統計で、通関統計と呼ばれる業務統計である。

輸出は、運賃、保険料を含まないFOB価格(Free On Board)ベース、輸入は運賃、保険料を含むCIF価格(Cost, Insurance and Freight)ベースとなっている(経常収支などの国際収支統計は、輸出、輸入ともFOB価格としている)

貿易統計で採用される商品分類は、国際統一商品分類システム(HS:The Harmonized Commodity Description and Coding System)による。この商品分類は日本標準産業分類や同商品分類と異なる点があり、注意して読まなければいけない。例えば電算機類・同部分品は電気機器ではなくて一般機械に含まれる。

2019年は世界経済の成長率の減速、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で貿易量が低迷したため、国内外の経済が好調に推移した2018年の貿易統計の数字を取りあげる。2018年は日本の輸出と輸入が増加し、貿易収支がほぼゼロの状態で、2019、2020年は輸出、輸入とも減少している。2018年の産業別貿易収支を見ると、食料品や原料品、鉱物性燃料は貿易収支が大きな赤字となっているが、機械産業と鉄鋼は黒字で、特に輸送用機械と一般機械で黒字が大きい。

産業別の貿易収支

次に貿易黒字の大きい機械産業の貿易黒字(2018年)の実態を見ることにしよう(表2)。ここで機械産業を一般機械、電気機器、輸送用機械、科学光学機器の合計とした。機械産業の貿易収支は約26兆円の黒字で、そのうちの6割が自動車をはじめとした輸送用機器が占めており、次いで一般機械が3割強を占めており、電気機器は7%にとどまる。主要商品別では、自動車、自動車部品、原動機、半導体等電子部品、工作機械で黒字額が大きい。

 

表2 機械産業の貿易収支(2018年)(10億円)

 

産業別の国際競争力の背景

次に産業別の競争力の背景を探る。表3は2018年の日本の産業・主要商品についての収支額、貿易額(輸出額+輸入額)と輸出特化係数を見たものである。商品の国際競争力は輸出特化係数でも把握できる。輸出特化係数については次の定義式で示され、数値は−1から1までの値をとる。

輸出特化係数=(輸出額−輸入額)÷(輸出額+輸入額)

主要な輸出商品の輸出特化係数をみると、工作機械0.81、自動車0.79、自動車部品0.60、鉄鋼0.54で高く、半導体等電子部品は0.19となる。産業別にみると輸送用機器は高く、一般機械では0.35。電気機械は0.07と競争力が弱く、化学では0.02。

輸出特化係数に貿易額(輸出額+輸入額)を乗じると(輸出額—輸入額)となるがこれは収支額である。すなわち、

貿易収支額=貿易額×輸出特化係数

であり、貿易額が大きいほど、輸出特化係数が大きいほど、あるいは両者が大きいほど収支額が大きくなる。

 

表3 産業別の国際競争力(2018年)(10億円)

電気機器は輸入額も大きいため貿易額が大きいものの輸出特化係数は小さく、その結果貿易収支額は小さい。特に通信機は携帯の輸入が多く輸出特化係数が大きなマイナスとなり、収支は大幅な赤字である。テレビ・VTRなどの音響・映像機器も赤字となっている。反対に自動車は輸出額が大で、輸入が小さいため輸出特化係数が高くこれが収支額を大きなものにしている。一般機械では工作機械は貿易額が小さいものの(ほとんどが輸出額)輸出特化係数は高く、収支額は比較的大きい。機械以外では、鉄鋼は競争力が強くかなりの黒字である。化学は収支でほぼ均衡しているが、医薬品は輸入額が輸出額を大きく超えるなど競争力が弱く大幅な赤字となっている。

機械産業の貿易収支の推移

機械産業の貿易収支額の推移を見ると(表4)、電気機器の黒字額の減少が顕著である。その減少分を輸送用機器の黒字額の増加で補っている格好であるが十分には補い切れず機械産業の黒字額は緩やかな減少傾向にある。日本の総額で見ると、原油やLNGの輸入額の増加を主因に2018年の貿易収支は若干の赤字となっている。

表4 機械産業の貿易収支の推移(暦年、10億円)

機械の中身を見ると、半導体等電子部品は一部で輸出競争力の強い機種がありプラスを維持しているものの収支額は減少傾向にあり、携帯が主力の通信機は携帯の急激な輸入増加から大きなマイナスに転じ、音響・映像機器も赤字に転じている。電算機は大幅なマイナスが続いている。これに対して、自動車、自動車部品の黒字額は増加傾向にある。またボイラやタービンなどの原動機は底堅く、工作機械は増加傾向にある。

黒字の減少が顕著な電気機器を見ると、2004年から2018年にかけ5.7兆円黒字が減少しているが、このうち通信機が2.7兆円、音響・映像機器が1.6兆円それぞれ減少している。通信機は0.6兆円の輸出で変化はないが、輸入は携帯の輸入増加から0.35兆円から3.1兆円に増え、赤字額が急増している。


近藤 正彦

◎中央大学経済学部兼任講師(元三菱重工業(株))

◎専門:経済統計学、経済分析、日本経済論

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