絶対に絶版させられない!
ボイラ要論 石谷 清幹

石谷 清幹 著、山海堂、1961 年発刊
本稿では筆者の師匠の著書を取上げる。これは身贔屓的で、ある意味禁じ手と思われるかもしれないことを最初にお断りしておく。
1968年に始まった大学紛争の影響も筆者が(故)赤川浩爾教授の研究室に所属した1971年4月頃にはほぼ平常状態に戻っていた。赤川研究室では超臨界圧蒸発管系の動特性について研究することになり、先輩の院生から寺野寿郎著『運輸技術研究所報告』の「強制貫流ボイラの過渡特性」(1957年)を渡された。これ以来、筆者は物理現象を緻密に見つめるというより現実の技術とその展開を志向するようになった。当時、神戸大学にはドクターコース(現在の後期課程)がなく、さらに研究を継続したいとの思いから阪大大学院に入学し、(故)石谷清幹教授の研究室に所属。後に蒸発管系の不安定流動問題で学位をもらうことになる。
1975年4月、学会のついでに訪れた神田の古書店街で筆者は石谷清幹著『熱機関体系 第9巻 蒸気原動機II』(1957年、山海堂)を発見した。表題の『ボイラ要論』の原著である。この『蒸気原動機II』は1961年までの間に2刷まで行ったが、出版社の要望を受けて「…全般的に検討し、誤植や誤記をほぼ完全に訂正し、さらにボイラ技術の最近の進歩を多少とも反映させるためにわずかではあるが資料の補充をした」との改訂版の序とともに、従来の「熱機関体系」の枠組みから外れて単独の著書としての『ボイラ要論』が1961年に初版と同じく山海堂から出版された。この書が他の蒸気工学関連の著書と基本的に異なっているのは、ボイラを題材としてはいるがより包括的な観点からの技術論が展開されていることである。ボイラの史的発展を概観してボイラの本質は水循環であると喝破し(図1)、水循環と密接に関連したボイラ形式および単機出力の展開を見て各型式のボイラには好適範囲が存在すること、そのことは技術一般に当てはまること、そしてその観点から見た将来の発展の方向性について明快な議論が全約380ページの40%強に亘って展開されているのである。もちろん残りの部分で蒸発管内の流動・伝熱問題や、燃焼室熱計算、そしてボイラの自動制御が実例を交えながら議論されている。現在の大学でこのような著書を教科書にはとても使えないが、火力発電のみならず技術一般の方向性を考えるうえでは貴重な示唆をしてくれる好書である。筆者が関係した『蒸汽罐發達史』(2023年、クラフティヴ電子出版)や“Advances in Power Boilers”(2021, Elsevier)の執筆、編集に際して方向性などに迷ったときには必ず手に取ったのがこの『ボイラ要論』である。

図1 水循環形式に基づくボイラの分類と発展過程
このように言えば同書を何度も読んだかのようになるが、原著を購入した1975から2000年代初頭まで実際に手に取って何度も読んだのは原著である。現在筆者が所蔵している図1の『ボイラ要論』は表題の右下にある朱印が示すように中村喜代次大阪大学名誉教授が退官される際にいただいたものである。おそらく蒸気工学特論などと称した修士課程での教科書であったのだろう。このとき古書としても出回っていない『ボイラ要論』をついに手にすることができたのであった。
このような技術書を出しにくい現今の我が国の出版事情は欧米と比較するまでもなく実に憂うべきものである。石谷先生を筆頭にCambridge University Pressから1999年に出版したハードカバーの書籍“Steam Power Engineering”は印刷版がはけてしまった2010年以降、同書の有用性を認めてくれてOn-demandのPaperback版として入手できるようになっている。版権が切れた洋書についてはGoogleなどが無料のアーカイブとして公開しているが、版権が切れていなくても貴重な書籍については学会や国会図書館などが連携して広く活用することができればと思う。
<フェロー・名誉員>
小澤 守
◎関西大学 名誉教授
◎専門:熱工学、混相流、社会安全学
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キーワード:絶対に絶版させられない!

表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)