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2017/10 Vol.120

「ゴミをでんきにリサイクル」
鈴木 偲温 さん(当時8 歳)
このきかいは、どこのくにでもでるゴミを、わたしたちにとってとてもひつよう、でんきにかえるきかいです。せかいの大人たち子どもたちにゆたかな生かつを送ってほしいです。

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特集 日本機械学会のグローバル化~アジア諸国との連携のあり方~

AUN/SEED-Net:アセアン工学系高等教育ネットワーク

小尾 晋之介(慶應義塾大学)

シードネットの概要

本稿では「アセアン工学系高等教育ネットワークAUN/SEED-Net、シードネット)」という(独)国際協力機構JICA によるODAプロジェクトについて紹介する。このプロジェクトは当初5 年間の事業として2003年に開始し、徐々に見直しがなされながら5 年ごとに新しいフェーズに引き継がれ、2017 年現在はフェーズ3が実施されている。事務局はバンコクにおかれ、「アセアン大学ネットワークASEANUniversity Network, AUN」の名のもとにアセアン10 か国の教育省、メンバー大学(1 に示す26 大学)が参加して域内ネットワークを形成し、日本からは214大学が国内支援大学に指定されている1

このプロジェクトの上位目標として定められているのは「東南アジア地域において、産業の高度化とグローバル化、ならびに地域共通課題への取り組みが促進される」ことであり、フェーズ3 では「メンバー大学および本邦支援大学の連携による高度な研究・教育実施体制が整備される」ことが目標とされ、事業事前評価表2によれば5 年間で39.5億円の支出が計画されている。具体的な活動内容としてはメンバー校大学院修士および博士課程における留学プログラム(域内および日本・シンガポール)、域内の共同研究支(産学連携、地域共通課題など)、域内国際学術会議の開催、ASEAN 工学ジャーナルの発行ほか、関連する研修プログラムである。これらのうち、域内大学間での大学院修士課程への留学支援プログラムが規模の上で最大で、フェーズ1から同3までの累計で793 名の学生が学位を取得した。博士課程の学修の一部を日本の支援大学との協力で行うサンドイッチ博士課程プログラムの修了生ならびに日本の大学に直接留学して博士課程で学んだ学生は同期間でそれぞれ261 名、258 名に上る。修了生を仲立ちとした共同研究等も活発に行われていて、フェーズ2と同3の累計で修了生共同研究プロジェクト121 件、地域連携プロジェクト44 件、産学連携プロジェクトは46 件を数える。これらに代表されるように、各国のメンバー大学ではプログラムの出身者が高等教育プログラムの発展に貢献している3

フェーズ3で対象とされる学術分野は3に示す10分野にわたる。機械工学に関連する分野としては、表中7番目の機械製造工学のほか材料工学、エネルギー工学、環境工学などがある。分野ごとに留学生受入れ大学が指定されているが、産学連携共同研究プログラムなどでは分野や参加大学に関する制限は特になく、研究者の個人的なネットワークなどをもとに共同プロジェクトが動いている。

1 シードネットメンバー大学

2 国内支援大学

3 シードネット学位プログラムの対象分野

 

日本のODA事業全般が途上国の社会インフラ整備への貢献として一般に広く認知されているなかで、シードネットは大学の広域ネットワークを活用した高度人材の育成というユニークな取り組みだ。参加大学はいずれも各国政府から推薦された国を代表する工学系高等教育のトップ校であり、これらの大学の学術レベルを高めることは高等教育のみならず産業発展においても極めて重要だ。

シードネット設立当初は工学系の基盤となる学術分野で大学院教育のレベルアップを目標としてきた。フェーズを重ねるにつれて参加大学の希望を取り入れたり地域の課題を見直したりしていくなかで、エネルギー工学、環境工学、自然災害といった複合的な学術分野が加わってきた。そのような環境の中でアセアン地域における「機械工学」はどのような位置づけにあるのだろうか。歴史や文化、社会・産業構造などさまざまな視点からの考察が必要だが、次に筆者の観察を交えながら高等教育セクターの状況を概観する。

機械工学とシードネット

3に示した10分野の中でもさまざまな理由により活動の実態には差がある。例えば、土木工学や地質・資源工学、環境工学分野のように、日本の大学にとってアセアン地域の大学との連携が研究のフィールドとしての意味合いがあるような場合は直接的な研究成果につながり、活発な交流が生まれる傾向にある。その点、機械工学分野では地域性が弱く連携の動機が実ははっきりとは見えにくい。

また、アセアンと一口に言っても域内の格差は非常に大きく大学のレベルもまちまちである。シンガポール国立大学、南洋工科大学のようにアジアの大学ランキングの中でもトップ校として優秀な人材を集め、日本の大学にとって本格的な共同研究相手となりうる大学もあれば、アセアン後発国では国立大学とはいえ施設・設備、人材育成もまだまだ発展途上にある。このような大学では研究交流よりも直接的な留学生の受入れ等が優先される。このように、地域の多彩さに対する正しい認識が、日本の大学・企業に求められる。

元留学生が帰国後に大学等で研究活動を継続し、留学先の元指導教員グループとの共同研究に発展する例は洋の東西を問わず国際連携のテンプレートとして散見される。シードネットではその点に注力して修了生のサポートも視野に入れている。一方、共同研究プログラムはメンバー校所属の研究者に開かれているので、メンバー校に含まれない日本の大学にとっても既存の連携があれば参入の可能性がある。シードネットの共同研究プログラムは産学連携の下で大学院生の共同指導を行う機会ともなるので、日本機械学会関係者にも積極的な活用が期待される。

ASEAN 域内ネットワーク構築の意義

高等教育機関の広域ネットワーク形成は欧米を中心に戦略的に進められてきたが、その傾向はアセアン諸国にも急速に普及しつつある。例えばAUN が主導するAIMSプログラムは域内の大学間で学部学生の流動化(モビリティ)を高める原動力の役割を担っている。アセアン各国政府もそれに呼応するように奨学金制度の整備を進めている。また、欧州共同体のErasmus+ は欧州大学とアジア諸国の大学の間で組織的な留学プログラムを提供している。

さまざまなモビリティの高まりの中でも、シードネットは予算規模や産学連携等を含む多彩さと高度な学術レベルを目指している点で突出しており、良質のネットワークとしての期待が高い。2018 年からフェーズ4 の開始が決定し、日本の大学・企業にとってアセアン地域との連携を深める機会がますます開かれていると言えるだろう。

参考文献:

1AUN/SEED-Net ホームページ, シードネット事務局
http://www.seed-net.org/ja/(参照日2017 6 27 日).
2)AUN/SEED-Net フェーズ3事前評価表, JICA
https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2012_1202997_1_s.pdf(参照日2017 6 27 日).
3)アジア地域の人材育成 ~ AUN/SEED-Net の経験と今後の展望~ , 三木千壽,
http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/11035/2981/1/NISTEP-LT302-Fullj.pdf(参照日2017 6 27 日).


<フェロー>

小尾 晋之

◎慶應義塾大学 理工学部 教授/シードネット国内支援大学委員会 委員長

◎専門:流体工学

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