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2017/10 Vol.120

「ゴミをでんきにリサイクル」
鈴木 偲温 さん(当時8 歳)
このきかいは、どこのくにでもでるゴミを、わたしたちにとってとてもひつよう、でんきにかえるきかいです。せかいの大人たち子どもたちにゆたかな生かつを送ってほしいです。

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巻頭企画

座談会「学会が果たすべきグローバル化の役割とは?」

国際化・グローバル化が求められる今、学会が果たすべきグローバル化とはどのようなものだろうか?
2008 年に始まった東南アジアとの国際連携活動を振り返り、アジアの状況、留学生の就職事情、グローバル人材、日本のものづくりの求心力をキーワードに、本会の課題と役割について、議論を行った。


出席者プロフィール

 

<フェロー> 菱田 公一

・慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科 教授
・2010 ~ 2011 年度国際連携委員会 委員長/創立120 周年記念事業委員会「グローバル化」小委員会 委員長

 

<フェロー> 中曽根 祐司
・東京理科大学 工学部機械工学科 教授
・2016 ~ 2017 年度国際連携委員会 委員長

 

<正員> 福本 英士
・日立建機(株) 執行役 研究本部長
・創立120 周年記念事業委員会 委員

 

<正員> 大野 恵美

・(株)IHI 資源・エネルギー・環境事業領域ボイラSBU基本設計部燃焼技術グループ 主査(課長)
・広報情報理事


アジアにおける国際連携のはじまり

大野:本日は、日本機械学会の国際化の取り組みに携わってこられた方々に集まっていただきました。これまでの本会の国際化・グローバル化の取り組みを振り返り、今後の展望について考えたいと思います。

福本:海外への展開を考えると、まず企業がやることはローカル化です。そういう意味では、企業人からすると「海外での学会の役割」というのは曖昧でよくわからないですね。

菱田: 本会の国際化の取り組みは、2008 年の国際チャプターの設立から始まっています。もともとは海外の支部を作ろうという趣旨で、世界に点在している本会の会員を結ぶネットワークを作ろうというものでした。それからさらに議論が進み、アジアにおける「日本機械学会」の役割について重点的に取り組むことになりました。

大野:実際はどのような活動から始めたのでしょうか?

菱田:当時、東南アジアには機械工学の学会がなかったため、まずはタイとインドネシアを中心に取り組みを進めることにし、各国の工学会と交渉の機会を持ちました。その後、JICA やSEED-Net などの支援もあり、展開を広げることができました。タイに機械学会が設立され、シンポジウムや論文集立ち上げの支援を本会が行うことで、学会としての枠組みができ上がり、活動が広がってきました。そうした支援活動の次のステップとして、本会がアジアの中でどのような役割を担っていけばよいか、皆さんと考える必要があると思います。

グローバル化への課題

福本:国際チャプターを立ち上げて、国際化に取り組み始めてから約10 年ですが、順調だったと言って良いのでしょうか?

中曽根:立ち上げまではある程度うまくいったと評価して良いと思います。しかし、「その後どうするのか?」ということをもう一度考え直す必要があります。本会における国際チャプターの位置付けを再定義しないといけないですね。

菱田:例えば、タイは工業国としての発展が進み、自分たちで設計してモノを組み上げるところまできているので、次の課題は「教育支援」だと思います。そのあたりを展開する中で、日本に留学して母国に戻った方や現地の日本企業で働いている方とのネットワークを構築して、本会が情報のコアになれれば良いですね。そこで伺いたいのですが、日本企業の東南アジアでの採用はどのような状況なのでしょうか?

福本:日立建機での採用は二種類あります。一つは日本に留学経験のある人を雇用するという方法。日本の大学の教育を受けて日本語も話せる人たちに、さまざまなところで橋渡し役になってもらっています。もう一つは、純粋な現地採用。現地の大学から日本と同じ採用プロセスで採用試験・面接して募集しています。やはり日本とのつなぎ役をできる方が上層部になりますね。

大野:IHI の場合は、日本の大学を卒業した留学生を日本人と同様の評価基準で採用するケースが多いですね。インドネシアではローカル採用もしていますが、あまり愛着を持ってくれなくて、キーパーソンが急に退職したり、非常に流動的です。

菱田:留学生からすると、日本の採用プロセスは独特でエントリーシートに苦戦するので、簡素化してほしいという声を聞きます。そういった面では、やはり異文化に優しくない画一的な印象を受けますね。だからこそ、学会がキャリアパスをサポートする役割を担えれば、サポートを受けた留学生は今後も機械学会で活躍してもらえると思うんですが……。

福本:それは思うでしょうね。ただ、当社では留学生枠を特別に作っているわけではなく、日本人と同じ評価基準で選考しているのが実態ですから、そのあたりが難しいですね。

求心力と情報発信

大野:人材に関して言うと、アジアから日本に来ている方は、すごいアグレッシブな人が多いと思うのですが、日本人の若者にはハングリー精神がないですよね。そのモチベーションのギャップが大きいと感じています。

菱田:私の理工学部にいるマレーシア出身の女子留学生は「西洋の知識を勉強して国に帰って、国が豊かになるようにしたい」ってはっきり言うんですよ。

福本:その留学生が日本を選んだ理由は何なのですか?

菱田:「日本に憧れていたから」「日本が好きだから」というのがモチベーションのようです。

大野:「どうして日本の企業来たの?」と聞くと、「日本や日本の文化が好きだから」という答えが多いですね。

福本:それはやはり先人が築いてきた関係の中で、日本を好きな人が多いということですね。

中曽根:日本の魅力は文化もありますが、やはり留学生にとって日本の企業はとても魅力的ですよ。

福本:なるほど、日本企業への憧れなんですね。しかし、日本はこれまでアメリカ、ヨーロッパとナンバーワンを競ってきて、華々しい成果を上げてきた歴史がありましたが、今は負け込んでいる印象が強いですよね。ベンチャーなどでカリフォルニアに憧れる若者が増えていると思います。そういう意味で「求心力」は重要ですね。

大野:機械遺産や学会賞などの学会内のコンテンツを利用して、ものづくりの原点の歴史と現在をきちんと発信できれば、求心力に繋がりそうな気がします。

福本:工学離れが問題だとか言われていますが、一方でほとんど毎週のように機械系の展示会が大型施設で開催されていますよね?機械要素展に行きましたが、身動きが取れないくらいの来場者数でした。まだまだ機械の魅力はあると思うんですよね。自動車技術会では「人と車のテクノロジー展」と講演会を同時開催して、盛り上がっています。あれはオープンイノベーションの一つの形ですので、機械学会でも参考にした方がいいですよ。

グローバル人材の必要性

大野:企業で海外展開を進める上で、感じられている課題はどのようなものでしょうか?
福本:当社は新興国ではエントリーレベルの機械を主要製品に設定していて、現地に合った機械は現地で調達・設計・製造しています。それなりの品質で安く作るんですが、この品質を「それなり」にコントロールするというのは非常に難しいんですよ。例えば、鉄は日本と同じ規格でもばらつきとか品質が全然違ってきます。そのばらつきで、設計して現地で作るノウハウが非常に重要で、日本国内の高品質で長寿命のものづくりとは対照的ですね。これがスタンダードになると、日本がさらにガラパゴスになるんじゃないかと危惧しています。

菱田:ガラパゴス化や求心力の低下といった問題に直面した時に、価値観を変えられるのが「グローバル人材」だと思うのですよ。特に日本の学生を見ていると、偏差値をはじめ、インデックスで決める傾向が強いと感じます。そのような学生が、変化が激しい社会の中でやっていくためには、アジアの人材と一緒に育てていかないと、日本は世界に太刀打ちできないと思います。ベンチャーや新規事業展開を促進するためにも、東南アジアの人材が必ず必要になります。

中曽根:産業界はすでに必要に迫られてグローバル化が進んでいるわけですから、産業界の方に人材という側面から機械学会の活動をうまく取り込んでもらうことが重要だと思います。そうすることで、機械学会のグローバル化の取り組みが繋がっていくのではないでしょうか?

グローバル化はオープン化のための営み

福本:日本のものづくりのパワーはすごいと思いますが、やはりグローバルを牛耳るのはルールメーカーです。そういうルールメーキングをする力は、アメリカが圧倒的ですよね。その下に標準化レギュレーションが付いています。

菱田:アメリカ機械学会は規格・基準が強みですね。

大野:では、日本機械学会はどのような役割を担っていくべきでしょうか?

菱田:海外から来る人材、また海外に行く人材が、学会の中で交流できるメリットを感じて、それぞれがSNS で発信してどんどん膨らんでいくような活動ができるといいですね。自然発生的に活動が広がっていくようなイメージです。

福本:そういう意味では、オープン化が大事ですよ。ただ、「遅れている東南アジアを指導してやろう」みたいなのはオープン化とは言えません。

菱田:それはもう、駄目な典型例ですね……。

福本:仲間としてオープンに誰かと組んで、違う視点を盛り込んでいこうという姿勢が大事ですね。そういう意味では、学会のグローバル化は、オープン化のための営みという理解になるんでしょうね。

中曽根:学会としてアクティビティをうまく回していくためには、企業の方に学会を利用してもらうことが大事だと思います。特別員企業に東南アジアの人材にも注目してもらえれば、キャリア支援や人材交流に繋がるのではないでしょうか?

菱田:ベンチャーや新規事業展開を促進するためには、東南アジアの人材がこれから必ず必要になってきますよ。そこで、まずは留学生のキャリアパスをサポートできないかという試みで、2017 年11 月に開催する創立120 周年記念式典の企画で「アジア諸国と機械学会との役割」と題したシンポジウムを開催することになりました。こういった留学生が集まる場所に日本人の学生が入って相互交流できるような仕組みを、今後構築したいと考えています。

大野:本日お話を伺って、機械学会のグローバル化というのは、機械学会そのものの活性化に直結するということが分かりました。創立120 周年記念式典での取り組みから次のアクティビティに広がっていってほしいと思います。本日は有り難うございました。

(2017 年6 月27 日@日本機械学会)

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