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2017/10 Vol.120

「ゴミをでんきにリサイクル」
鈴木 偲温 さん(当時8 歳)
このきかいは、どこのくにでもでるゴミを、わたしたちにとってとてもひつよう、でんきにかえるきかいです。せかいの大人たち子どもたちにゆたかな生かつを送ってほしいです。

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私の一冊

『嫌われる勇気』

門脇 敏(長岡技術科学大学)


岸見 一郎(著)、古賀 史健(著)
単行本 :296 ページ
出版社 : ダイヤモンド社
ISBN:4478025819
発売日:2013/12


少し前に話題になった本なので、読んだことはなくともタイトルは目にしたり耳にしたりしたことがある、という方も多いのではないでしょうか。『嫌われる勇気』は、心理学者アルフレッド・アドラーの思想であるアドラー心理学が対話形式でまとめられたものです。アドラーはフロイトやユングと並ぶ心理学の三大巨頭の一人ですが、日本では長らく一般には知られていませんでした。ここ数年で『嫌われる勇気』をはじめとするアドラー心理学に関する書籍が複数出版されたことにより、知名度がやっと上がってきたという感じです。かくいう私も、恥ずかしながら数年前までは、アドラーという心理学者の存在すら知りませんでした。

ところで何故、日本で長らくあまり話題になることのなかったアドラー心理学が、最近になって急に注目を浴びるようになったのでしょうか。それはおそらく「社会が原因論(現在から過去)的な考え方から、目的論(現在から未来)的な考え方にシフトしているから」ではないかと考えられます。フロイト心理学やユング心理学では過去に原因を求める原因論的な考え方をしますが、アドラー心理学では過去のトラウマを否定し、現在と未来に目を向ける目的論的な考え方をします。「起こった問題は、過去の出来事が原因で起こったのではなく、何かの目的を実現させるために行われた」と判断するのです。こうしたアドラーの考え方は、「アドラーの死後半世紀以上が経った今も、彼の思想の新しさに、時代は追いついていません。(嫌われる勇気p.291)」と著者の一人の岸見一郎氏があとがきで述べているように、まったく新しい考え方であり、なかなか理解が進みませんでした。それが近年受け入れられつつあることは、これからますます、あらゆる分野で受動的(Reactive)な考え方から能動的(Proactive)な考え方になっていくことの示唆であると推察されます。故にアドラー心理学のブレイクは必然であり、社会の今後の流れを如実に表していると思えて仕方がありません。

最後に、『嫌われる勇気』で取り上げられているアドラーの思想の中から、最も印象的であったものを紹介したいと思います。それは「変えられるもの」と「変えられないもの」を見極める「肯定的なあきらめ」というものです。過去などの「変えられないもの」に注目するのではなく、未来などのこれから自分の力によって「変えられるもの」にスポットを当てる。これが自然にできるようになれば、私たちはもっと、幸福になることができるのではないかと思います。

アドラー心理学に少しでも興味を持たれた方は、ぜひ『嫌われる勇気』を手に取り、アドラーの思想に触れてみてはいかがでしょうか。


<フェロー>

門脇 敏

◎長岡技術科学大学 大学院技術経営研究科 システム安全専攻 専攻長、教授

◎専門:熱工学、安全工学


 

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