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2018/9 Vol.121

【表紙の絵】
何でも作るくん
田中 雄惺くん(当時8歳)
何でも作るくんが何でも人が作りたいぶひんを出しかんせいまで作ってくれる。

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座談会

日本機械学会 若手の会×AI 若手の会 若手ネットワークで変化に対応する

日本機械学会若手の会は、若手技術者にとっての魅力度向上策を若手自らに提案してもらうことを目的に、2015年7月に理事会直下の臨時委員会として設置された。

一方、人工知能学会では、若手の主体性を重視するため、あくまで人工知能学会からは独立した組織であるが、2017年から若手研究者が主体となって「AI若手の会」を運営している。

若手技術者のコミュニティーの必要性やその運営について、また本誌特集に関連して、ものづくりへのAIの応用について、意見交換を行った。

若手の会のミッション

若手ネットワークの必要性

阿部:日本機械学会の若手の会は、2015年から構想が始まりました。特に、企業所属の若手会員が減少しているという課題に対応するためです。人工知能学会の会員数は右肩上がりなので、真逆ですね。

榊:人工知能学会では、近年は全国大会の参加者が増えすぎて、知り合いに会う機会が減ってしまいました。そこで、せめて若手だけでも集まって意見を交わす機会を作ろうかということで、ボトムアップで若手の会が始まりました。

阿部:そのスタート時点が機械学会 若手の会と異なります。

榊:人工知能学会では、以前からMYCOM (Meeting for Youth COMmunity) という若手が集まる合宿形式の研究講演会を開催していました。しかし、運営が負担になってしまい、2012年を最後になくなってしまいました。そういった経緯があるので、今の若手の会は、発表はせずに、まずは懇親の場を設けるところから始めました。

植木:気軽な懇親の場であることを重視しているということですね。機械学会でも、部門講演会では同じ専門分野の人にしか会えないという課題を持っています。

馬場:人工知能学会でも、同様の現象が起きています。分野の細分化が進んでいて、人工知能と一言に言っても、機械学習だけでなく、それ以外もあって多様です。その多様な人たちが集まって触れ合う機会が、特に若手には存在していなかったという課題がありました。

石畠:人工知能という言葉が生まれてまだ半世紀くらいの新しい分野です。コンピューターサイエンスを含んでいるので、みんなとりあえず最初は人工知能学会にいたのですが、その一部の分野が充分に成熟すると別の学会ができました。自然言語処理のようなメジャーな分野が切り離され、新しい学会が生まれていきました。

吉田:機械学会ほどの規模で、若手の集まりのニーズがどれくらいあるのでしょうか?例えば、情報処理学会や電子情報通信学会のような情報系の大きい学会には、若手の会はありません。

阿部:機械学会は部門ごとに分かれているので、全体ではなかなかまとまらないところがあります。まずは、若手技術者が興味を持つコンテンツを増やしていくことが若手の会のミッションの一つだと考えています。

石畠:機械学会から離れた企業の若手技術者は、学会発表しなくなってしまうということですか?

阿部:企業に所属していると、当然ですが学会発表よりも目の前の仕事を優先しなければいけません。また、研究発表をするとなると、どうしても多くの社内手続きを経る必要があります。そういったこともあって、企業所属の若手技術者が学会に参加するというのはハードルが高いですね。

榊:それは論文を書いていなくても、単に話すだけでも手続きが必要なのですか?

植木:もちろんです。例えば、私は今日ここに来るために社外発表に関する手続きを踏みました。情報セキュリティや知財保護のためなのですが、社内手続きのステップを踏むのは、それなりの工数ですね。

石畠:私が所属しているNTTの研究所では機械学習の研究者が12の組織に分散しています。それを是正するために、社内向けに自分の研究を発表する若手研究者のバーチャルな組織が作られました。社外に最新の話をなかなか発表できないのであれば、せめて社内だけでも共有したり、問題を解くときにぶち当たっている壁についてディスカッションしたりできるような基盤をつくるための若手の組織です。

吉田:本当は大学でもそういうことをやりたいのですが、いろいろなところに情報を持っている研究者が散らばっていて、なかなかうまくいかないんですよね。

植木:社内の若手同士で発表できる場というのは参考になります。

馬場:直面している課題をディスカッションできる場はすごくいいですね。

若手の会の運営

気軽に参加できるコミュニティー作り

吉田:人工知能学会の全国大会では、若手の会で懇親の場を企画しています。昼でないと参加できない人が一定数いるため、ランチ会を開催しています。

松岡:ランチ会はどのように運営されているんですか?

榊:参加者が興味のあるテーマを事前に聞いて参加者をテーマごとに分け、話しやすい環境を作るなどの仕掛けを用意しています。テーマはキャリアパスとか、ワークライフバランスとか、海外インターンとか、どうやって技術を世の中に活かすかとか、そういったものです。また、オープンに参加募集しています。

馬場:研究の話をするというよりは、悩みを話し合う場所みたいな感じです。

松岡:どのぐらい集まるのですか?

榊:昨年は約50人集まりました。

吉田:また、全国大会では、学生編集委員の企画で、学生のメンタリングなどのセッションも別にあります。

阿部:機械学会でも学生交流会を実施していますね。学生からのニーズが元々あったのでしょうか?

馬場:それはこの若手の会のニーズにも繋がるのですが、博士課程に進むと急速に横のつながりが減るんです。同じ研究室の人と研究の話はできるけど、身近な悩みを相談できる人がいなくなってしまう。

石畠:私も以前から若手研究者を自主的に集めて飲み会をしていたのですが、モチベーションは二つありました。一つはお互いの悩みを相談する場。もう一つは研究です。機械学習や人工知能の分野はターゲットが全然違っても使っているテクニックは似ていることが多いので、分野横断しやすいんです。そのため、少しでも関連のありそうな人と研究の話をすると、共同研究ができたり、アイデアをもらえたりします。実は、理化学研究所革新知能統合研究センター所長の杉山先生が、若手の頃にT-Primalという会を開き、同世代の研究者が集まって、トップの論文を読んだり、共同研究を行ったりしていたそうです。情報系は分野として若いので、最近40代半ばで教授になり始めた方が多くなってきましたが、そういった方は大体T-Primal出身の人というイメージがあります。

阿部:当時の参加者が、今の日本の機械学習のコミュニティーを作り上げたということですね。

石畠:人工知能の分野は研究のスピードが非常に速いので、それをフォローするだけでも大変です。そのため、若手研究者で集まって論文を読み合う会を開く慣習が以前からありました。

吉田:情報系では、若い時にコミュニティーを作っていて、世代が変わってもそのコミュニティーが生きているという感じですね。その慣習を若い人に引き継ぐためのモデルを作りたいと思っています。簡単に運営できるということがわかれば、みんなどんどん作っていけるので。とりあえず飲み会を企画することから始めて、楽だねと思ってもらえるように。

植木:研究から始めてしまうと、運営がきつく感じてしまいますよね。

阿部:そういう気軽なコミュニティーを何個も作っていけば、それが次の世代を支えていくという流れですね。

榊:盛り上がらないコミュニティーはすぐになくなっても、それはそれでいいと思うんですよ。

研究発表講演会の違い

分野が違うとカルチャーも違う

松岡:人工知能学会は6月に全国大会があるのですね。基礎と応用で分かれるのでしょうか?

吉田:そうです。機械学会の年次大会も分野ごとに分かれていますよね。電子情報通信学会と同じような感じですが、人工知能学会の場合は、一つのソサエティーの中で分かれているだけで、そこまで縦にはっきり分かれているわけではありません。

阿部:機械学会では、予稿やアブストラクトの扱いについて今議論されているのですが、講演発表に関して人工知能学会ではどうでしょうか?

石畠:二重投稿に関連したことでしょうか?これは情報系特有の曖昧さなのですが、国内会議では査読がないため、講演論文は二重投稿に抵触しないことになっています。査読がない講演というのは、私たちの分野では発表ではありません。

馬場:機械学会の年次大会では、査読があるんですか?

阿部:発表概要の査読がありますね。

吉田:人工知能学会では形式的でも査読はありません。査読のない発表はプログレス(途中経過)なので、二重投稿とみなさないと明記されています。

馬場:情報系の講演発表や研究会では、査読なしが一般的ですよ。研究会で発表して意見をもらって、推敲して、ジャーナルまたは査読ありの国際会議に提出するという流れです。

阿部:国内講演会はあくまでも討論の場ということですね。

吉田:全国大会または研究会で6ページぐらいの原稿で発表して、それを仕上げてジャーナルに投稿するというケースもあります。

石畠:人工知能学会の全国大会は、基本的に口頭発表とポスターの2種類があって、組み合わせが選べました。ポスターだけ、口頭発表だけ、両方と。ポスター発表は学生が揉まれるいい機会ですし、他分野の発表を聞けるいい機会でもあるので、結構重要な位置付けだと思っています。

阿部:ポスターのほうが、敷居が高くなくて企業からも参加しやすいと思います。

石畠:人工知能の国際会議でもポスターセッションのない会議のほうが少ないぐらいです。ポスター発表は私たちの中ではとても重要なものです。

ものづくりとAIのこれから

AIを何にどう使うのか

馬場:機械学会の中で、AIに関する発表は現状でどれくらいあるのでしょうか?

植木:2017年の年次大会のプログラムを調べてみましたが、10件もなかったですね。

石畠:AIブームがあって、その応用として数年前は創薬を助けるというバイオインフォマティクス研究がよく話題にされていたのですが、最近はマテリアルインフォマティクスが注目されているようです。例えばどういう材料を混ぜたら比熱がいいものを作れるかとか。

阿部:新材料開発の話ですね。

石畠:バイオインフォマティクス分野で著名な先生が、最近はマテリアルズインフォマティクスの研究をされているんです。バイオインフォマティクスは難し過ぎてなかなか当たらないけど、マテリアルは可能性があると仰っていました。

阿部:新素材の開発は、小さなルツボで数多くの組成を作ったり、いわゆる分子動力学レベルのものを適用したり、親和性が高い領域だと思いますね。

石畠:人工知能分野では、それは「実験計画問題」と言われていて、例えば深層学習を使うときにパラメータがたくさんあるのですが、精度を上げるためにそれを調整します。そのノウハウを材料開発において何をどれくらい混ぜるかということに応用するわけです。それを解くというのは主要なトピックの一つですが、実際にコラボして物質を作ったという人は知り合いにはまだ1組しかいません。

阿部:数か月前ですけど、私の知っている範囲で初めて沸騰熱伝達予測モデルを、深層学習を使ってパラメータを調整して構築したという研究が出ました。

石畠:触媒も機械学習を使ってその比率を探しましょうという話題はよく聞きます。

松岡:先ほどの「バイオは難しい」というお話や、これからの発展を考えると、やはり計算機の性能が上がることが求められているのですか?

石畠:計算が速くなることでできるようになることと、根本的に計算方法を変えないとできないことがあるので、人によってどちらに重きを置くかということだと思います。根本的に当てるのが難しいことは、ただ計算機が早くなれば当たるとは限らないので。

馬場:バイオはまさにその例ですね。

石畠:バイオは、生体内の現象を予測するときに簡易モデルやシミュレーションを使うのですが、そこに現実とギャップがあるため、難しいと言われています。

阿部:でも、人が思いつかない視点で急に新しいことが生まれるんじゃないかという期待はありますよね。

吉田:バイオも材料も、組成や分子に詳しいから、最初に仮説を立てられるということはもちろんあります。数値だけのパラメータで当てるというのは結局やみくもに頑張っているだけで、組成や材料のナノの知識を入れないとうまく進みません。知識を持っている人が機械学習を使うとうまくいくけれども、その逆は難しいです。解きたいゴールが違うというところもあるので。

石畠:さらに医療などの命にかかわる問題は、当てるだけでは駄目で、解釈性という「なぜ当たっているか」も求められます。

馬場:やはり人工知能をどう使いたいかということですよね。人間にはわからないような知見を機械に導いてほしい場合は、その説明も求められる。でも、単純に人間の仕事を機械に代替してもらうことが目的なのであれば、精度さえ高ければ良いということですよね。

機械学習の課題と理解

ブラックボックスに見えてしまう?

石畠:機械学習を使うときに一番難しいのは、問題を定式化できるかだと思います。解きたい問題を機械学習で解くためにどういう数式にして、どういう関数を最小化するかなど、そのギャップを埋める作業が難易度が高くて、どちらかの人間だけではできないですし、両方の人間がいるからといってできるわけでもない。泥臭いですが、必ずインタラクティブな作業が必要になります。まず、こういう関数を作りますと言って1回やってみるのか、そもそも問題設定が合っているのか、ということをやらなければいけません。

吉田:実際に、私と石畠さんは昨年共同研究を行っていたのですが、最初の1週間はその進め方のすり合わせだけで大変でした。石畠さんが定式化を始めると、その定式化に現実的な制約が入っていないから「そもそもおかしい」と私は言うし、石畠さんは「最後まで話を聞け」と言う。2週間やってやっと互いのモチベーションの違いがわかりました。

馬場:人工知能分野には、その2週間を1日にすることが今一番求められているんだと思います。

石畠:結局わかりやすくクエリ化することが大事ですね。「こういうときにこういう問題が解けます」というピースをたくさん用意しておいて、「あなたの問題ではこれを使いたいですか?」と提示するやり方です。

植木:機械学習をどう使うかという点で、世代間ギャップを感じることがあります。さきほど「医療では、解釈性が求められる」という話がありましたが、ものづくりの現場でも「使えればいい」という世代と、「ブラックボックスのそんな怪しげなものに頼るなんて…」と感じる世代があるようです。そのギャップを埋める必要がありますよね。ただ、例えば、材料の試験では実験データをたくさんとって、そのデータに対してフィットする線をプロットして、それを使って寿命を予測する方法はこれまでもやってきました。この考え方は機械学習と同じですよね?

石畠:それはほとんど機械学習ですね。

植木:回帰して、それを使って何かやるって、機械学習ですよね。これまでもそういうことをやってきたのに、機械学習とか人工知能というと、ブラックボックスに見えてしまうようです。

榊:現場に多いのはそこなんですよ。問題解決のプロセスの半分は、社内の説得にかかってしまいますね。コミュニケーションスキルが最重要になっているのが現状です。

植木:私も機械学習のことを勉強して理解できてから抵抗がなくなりましたが、それまでは少し怪しく感じていたところは正直ありました。

石畠:それは、ブラックボックスとして見えてしまって信用できないってことですか?

植木:そういう感じです。

馬場:人工知能のリテラシーが求められているわけですね。

植木:やはり基本的な教育ということでしょうか?

馬場:そうでしょうね。機械学習のことを学ぶための良い教材とか、機会がないことが原因なのでしょう。

植木:でも、実験データをとって、エクセルで線型近似をやるのと同じわけですよね?

馬場:似ていますが、厳密には少し違います。機械学習は、フィッティングではなくて、あくまでも予測なんです。

植木:使い方の面として、将来的にはどうなるのでしょうか?

石畠:クエリ化することで、使いやすくなる方向に進むと思いますが、私は適用すべきではない手法を適用してしまうことを危惧しています。例えば、連続データなのに離散データのクエリを使ってしまうといった、適用する手法を誤ると何個試しても結局どれもうまくいかなくて、信頼できないとなってしまいます。

馬場:そこをサポートできる技術が今求められているんですよ。オートML(Automated Machine Learning)のような機械学習のモデルを自動的に作る研究が今盛んに行われているのですが、そのためには前提としてデータ自体の情報(説明)が不可欠になります。逆にいうと、データ自体の情報があれば、あとはもう機械のほうで勝手に適切なモデルを選んでくれる技術を作ることが可能になります。

植木:それはすごいですね。私も少しだけ最適化のアルゴリズムを作りましたが、結局最適化のパラメータをうまく選べないと解にたどり着けませんでした。そのパラメータをどう最適化するのかという問題です。

石畠:それがさきほど言った「実験計画問題」を解く手法です。最適化問題を解く手法のパラメータを調整するということです。

馬場:何層にするかとか、間を何ユニットにするかとか、その辺の構造を全部自動的に、実験計画法を用いて決めてくれるというものです。

松岡:それは実験計画法を学べば、自分にとって良いパラメータを選べるようになるということでしょうか?

馬場:もう学ぶ必要すらなくて、「こういう予測を解きたい」というデータを入力しさえすれば、自動的にモデルやパラメータを選ぶ技術が進みつつあります。

吉田:ブラックボックスというと手法の話になりがちですが、実はデータ自体がブラックボックスだという問題もあって、データをうまく作ることが必要になってきます。

石畠:それぞれのエキスパート、領域が違う人を集めて取り組む基盤や仕組みが求められてきますね。

阿部:機械学習を適用するためには、領域を超えて新たなフレームを作っていく仕組みが重要だと認識しました。そういった仕組みに対応するためには、横のつながりやコミュニティーが求められる時代だと感じます。人工知能学会の取り組みを参考に、機械学会でも若手のコミュニティーを活性化できるように、進めていきたいと思います。本日は有難うございました。

 

(2018年5月25日 トヨタ産業技術記念館にて)