日本機械学会サイト

目次に戻る

2018/9 Vol.121

【表紙の絵】
何でも作るくん
田中 雄惺くん(当時8歳)
何でも作るくんが何でも人が作りたいぶひんを出しかんせいまで作ってくれる。

バックナンバー

ほっとカンパニー

極東開発工業(株) 社会を支える“はたらく自動車”の総合メーカー

コンクリートポンプ車「ピストンクリート® PY165-39」

日本にはこんなすごい会社がある

極東開発工業は、ダンプトラック、タンクローリ、ごみ収集車など、あらゆる「はたらく自動車」をつくる、日本を代表する特装車の総合メーカーだ。創業は1955年。戦後、米軍払下げトラックやジープを修理していた創業者が、特装車に注目して創業したことにさかのぼる。現在のシェアは、コンクリートポンプ車と粉粒体運搬車、タンクローリは国内1位、ダンプトラックおよびゴミ収集車は2位を占めている。

中でも約7割のシェアを占めるコンクリートポンプ車の存在は大きい。製造を始めた1966年は、日本はまさに高度成長期。東海道新幹線や東名高速道路を筆頭に、急速にインフラ整備が進められていた時代だった。しかし、現場でコンクリートを運ぶ際は人手を使い、手押しの一輪車で何度も何度も運ばれていたという。一度に大量のコンクリートを送ることができるポンプ車の登場は、建設現場にとって画期的な機械の登場だった。また、1967年にはセメントや石灰、炭酸カルシウムなどの粉粒体を運搬する「ジェットパック®」も完成し、以来圧倒的な地位を占めている。

いずれも建設現場には欠かせないもの。半世紀以上、他社に負けない地位を築いているのは、先行者としてアドバンテージを掴んで以降、たゆまぬ努力で進歩を続けてきたからにほかならない。

主力製品「コンクリートポンプ車」の技術

主力製品であるコンクリートポンプ車は、建設現場でミキサートラックが運んでくる生コンクリートを、配管やホースを通して、打設現場に圧送する特装車だ。その圧送の方式には、ピストン式(押し出し式)とスクイーズ式(絞り出し式)の2種類がある。

ピストン式は、コンクリートピストンが後退する時に、ホッパ内の生コンクリートをシリンダ内に吸い込み、ピストンの前進とともに流し込む仕組み。主に、高層ビル建設や大規模な土木建築現場で使用されている。一方、スクイーズ式は円筒ドラムの内周に、ポンピングチューブがセットされ、ローラで絞り出して圧送する仕組みだ。「実は、スクイーズ式が主流となって現場に定着しているのは日本だけです。その中で極東開発は圧倒的シェアをもっています。社内で製造するコンクリートポンプ車の約6割がこの形式です。万能だが構造が複雑なピストン式に比べ、スクイーズ式は構造がシンプルで、取り扱いが容易。低層のビルや一般の住宅に使われています」(同社取締役執行役員特装事業部長・布原達也)

「ピストン式、スクイーズ式ともに特装車の中では、技術的にさまざまな要素が入っている」(同社取締役常務執行役員技術本部長・米田卓)とされ、いずれの形式にも、コンクリートを高所など離れた場所に圧送するためのブームが付くものがほとんどだ。

コンクリートピストンの構造

 

車両総重量や転倒角度など、日本の法規制は厳しい。しかし、ブームが乗れば当然、重心が高くバランスは難しくなり、総重量も重くなる。「規制のある中で、どれだけブームを長くし、さらに軽量化も叶えるか。そこが技術的に大きなハードルになります」と米田が語ると、布原がこう継いだ。「ブームの場合、コンクリートを圧送する際の振動もある。疲労限度をいかに抑えるかの限界設計も必須。解析も重要です」。

例えば、同社が現在のフラッグシップ機に据える「ピストンクリート® PY165-39」では、39mの長さの5段屈折ブームが付いている。これを実現するためには、既存のモデルと設計を根本から見直さなければならなかった。ブームは形状と配管レイアウトを工夫し、車両全体のコンパクト化と重量バランスの最適化を実現。さらに強度を保ちながら軽量化を実現するため、ブームや旋回台、アウトリガには、高張力鋼板を採用した。そしてブーム屈折部のリンク構造も大きく変えた。従来は内側にあったリンクを外側に付け、さらに小型にすることで、スリム化・軽量化を図った。構造だけではない。新開発の「閉回路方式」の油圧システムや大型油圧ポンプの採用などにより、作業時の効率性や快適性も大きく変えたという。「まさに、あの手この手で(笑)」(布原)、「技術が好きな方は、どんどんハマっていくと思いますよ」(米田)と、二人の顔には、実に楽しそうな笑顔が広がった。

多岐にわたる特装車のラインナップ

開発者に継がれる“やってみたらいいんじゃない?”精神

こうした開発・設計の中心は、主に30代の若手・中堅の社員だという。「彼らにアイデアがあれば『やってみたら? ダメだったらやり直したらいいんじゃない?』くらいの感じで開発している雰囲気はありますね。若い子たちは最新技術への感度が高い。そこから出てきたアイデアに対し、年長者がアプリケーションを作ってあげたり、今ある製品とのジョイントを考えてみたり。チームとしても非常に達成感のある経験ができています」(米田)。

「 “やりたいことはやらせてみる”のは、自分たちもそう育てられてきたから」と、米田と布原は口を揃える。機械系学部出身の布原は20代後半に、当時、新しい技術としてもてはやされていたエレクトロニクスの必要性を感じ、大学院へ通ったという。「その頃、社内に電子制御系の部署はなく、内製化を目指しました。当時の社長にも『やってみたら』と背中を押してもらって。そんな雰囲気ですね(笑)」。このトライはその後、同社の振動抑制装置の開発につながり、さらには無線リモコン、パワーユニットなどさまざまな製品の内製化につながっている。

一方の米田は、趣味であるレーシングカーの運搬時に感じた不便さをきっかけに、1台積車輌運搬車「フラトップ®」を開発した。従来はボデーが傾斜したままの状態で車輛を積み込まなくてはいけなかったところを、ボデーを地面に降ろしたフラットな状態で車を積めるため、安全性や作業性が格段に進化した。

米田が開発を手がけた「フラトップ®」の最新モデル「フラトップZeroII」

 

「私は車が好きで、この会社に入社したのですが、今振り返ると、乗用車メーカーじゃなくてよかったなと(笑)。特装車をまるまる一台作らせてもらえるし、お客様の顔も見える。寒冷地などでのテストも自分の目で確認する。もちろん大変なこともありますが、やりがいは大きいですね」(米田)。

開発や技術について語る二人は、実にいきいきとして、明るく楽しく開発する同社の社風が伝わってきた。「特装車は社会の土台を支えているもの」──同社の社員に浸透するそんな誇りも感じた。

 

今回取材にご協力いただいた米田さん(左)と布原さん(右)

 

(取材・文 横田 直子)


極東開発工業株式会社

本社所在地 兵庫県西宮市http://www.kyokuto.com/

キーワード: