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2018/9 Vol.121

【表紙の絵】
何でも作るくん
田中 雄惺くん(当時8歳)
何でも作るくんが何でも人が作りたいぶひんを出しかんせいまで作ってくれる。

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機械屋の数学

第8回 摂動法の基礎Part 2 特異摂動法とマルチスケール解析

前回は,外部領域と内部領域で近似的に満たされる微分方程式を導出したところまで説明した。今回は,その続きを説明する。

i)外部領域では,

\[\frac{{\rm d}u_{\rm out}}{{\rm d}x} = -\frac{3}{2} e^{-3x} \text{より,}\qquad u_{\rm out} (x) = \frac{1}{2} e^{-3x} + C_1\]

遠方での境界条件$u(\infty) = 1$を用いると,次式を得る。

\[u_{\rm out} (x) = \frac{1}{2} e^{-3x} + 1\] (20)

ii)内部領域では,

\[\frac{{\rm d}^2 u_{\rm in}}{{\rm d}x^{*2}} + \frac{{\rm d}u_{\rm in}}{{\rm d}x^*} = 0 \text{より,}\qquad u_{\rm in}(x^*) = C_2 e^{-x^*} + C_3\] (21)

境界条件$u_{\rm in}(0) = 0$より,次式を得る。

\[C_2 + C_3 = 0\] (22)

さて,式(22)には,二つの係数$C_2$,$C_3$が存在するため,係数を決定するためにはもう一つ他の式が必要となる。この式を得るために,内部領域の解の十分遠方での振舞いが,外部領域の原点近傍での振舞いに結びつくように,解の接合(Matching)を行う。すなわち,$\displaystyle\lim_{x \to 0} u_{\rm out} = \displaystyle\lim_{x^* \to \infty} u_{\rm in}$とする。

ここで注意すべき点は,内部領域の解の十分遠方での極限値を求める際に$\displaystyle\lim_{x^* \to \infty} u_{\rm in}$としており,$x^* \equiv x/\varepsilon$に関して,$x^* \to \infty$での極限値を用いている点である。すなわち,境界層内での振る舞いを記述するために用意された変数${x^*}$に関して無限遠での極限値を考えている点である。この操作により,$x = 0$の近傍にある境界層に関して,境界層外縁付近における境界層内部からの漸近値と,境界層外部からの漸近値が接合されることになる。具体的には,

\[\begin{split}
& \text{式(20)より,} \qquad \lim_{x \to 0} u_{\rm out} = u_{\rm out} (0) = \frac{3}{2} \\
& \text{式(21)より,} \qquad \lim_{x^* \to \infty} u_{\rm in} = C_3
\end{split}\]

したがって,$C_3 = \dfrac{3}{2}$,また,式(22)より,$C_2 = -\dfrac{3}{2}$,ゆえに,

\[u_{\rm in}(x^*) = \frac{3}{2} \left( -e^{-x^*} + 1 \right)\] (23)

$x^* \equiv x/\varepsilon$を考慮して,以上をまとめると,

\[\left\{ \begin{array}{@{}ll@{}}
\displaystyle u_{\rm out} (x) = \frac{1}{2}{e^{ – 3x}} + 1 & \text{(外部領域)}\\[2mm]
\displaystyle u_{\rm in} (x) = \frac{3}{2} \left( -e^{-\frac{x}{\varepsilon}} + 1 \right) & \text{(内部領域)}
\end{array} \right.\]
(24)

となる。ちなみに,この例題では,与えた方程式が線形であるため厳密解が存在し,

\[u_{\rm exact} = \frac{1}{2} e^{-3x} + 1 – \frac{3}{2} e^{-\frac{x}{\varepsilon}}\] (25)

となる。$\varepsilon \ll 1$のもとで

\[\begin{split}
& x\text{が十分大きな値で} \quad u_{\rm exact} \cong \frac{1}{2} e^{-3x} + 1, \\
& x\text{が0の近傍では} \quad u_{\rm exact} \cong \frac{1}{2} + 1 – \frac{3}{2} e^{-\frac{x}{\varepsilon}} = \frac{3}{2} \left( 1 – e^{-\frac{x}{\varepsilon}} \right)
\end{split}\]

となり,それぞれ外部領域,内部領域での近似解と一致しているのを確認できる。

さてここで,外部・内部を分けずに,全領域で有効となるような解の表現について考えてみる。最も単純なモデルとして,解の接合が行なわれる領域では,内部領域,外部領域の両方が同じ値$u_{\rm match}$に漸近していくことを考慮し,

\[u_{\rm unify} = u_{\rm out} + u_{\rm in} – U_{\rm match}\] (26)

を考えることができる。

\[U_{\rm match} = \lim_{x \to 0} u_{\rm out} (x) = \lim_{x^* \to \infty} u_{in} (x) = \frac{3}{2}\,,\]

より,$U_{match} = \dfrac{3}{2}$として,

\[u_{\rm unify} \cong u_{\rm out} + u_{\rm in} – U_{\rm match} = \frac{1}{2} e^{-3x} + 1 – \frac{3}{2} e^{-\frac{x}{\varepsilon}}\] (27)

とする。この問題では,構成された合成解は,式(25)で与えられる真の解と一致している。一般的には,合成解は真の解と一致しないが,$\varepsilon$が小さな値の場合は,多くの場合に良い近似値を与える。

なお,境界層内外の解をさらに高次の項へと展開していくことも可能である。高次の項の求め方については補足資料(4)を参照のこと。

2-2 多重時間スケール問題と特異摂動法

前節では,最高階微分の項が微小なパラメータを係数として持つ場合の特異摂動問題について説明し,境界条件のすべてを満たすために,片側の境界付近に最高階微分の項の影響が無視できない境界層が生じることを説明した。ここでは,異なる時間スケールを持つような多重時間スケール問題で有効となる特異摂動法について説明する。

図1に示すような単振り子を考える。図に示すように角度$\theta$,振り子の長さ$\ell$,質量$m$,重力加速度$g$で運動しているとき,振り子の運動方程式は,$\ddot{\theta} \equiv \dfrac{{\rm d}^2 \theta}{{\rm d} t^2}$と表して,次のようになる。

\[m \ell \ddot{\theta} = -mg \sin \theta\] (28)

すなわち,$\omega_0 \equiv \sqrt {g/\ell}$として,

\[\ddot{\theta} + \omega_0^2 \sin \theta = 0\] (29)

初期条件として,初期速度0で初期変位だけが与えられている状態,すなわち$t = 0$で,$\theta = \varTheta_0$,$\dot{\theta} = 0$を考える。

図1 単振り子の運動

$\varTheta_0$が十分小さいとすると,振り子の運動に関して,

\[\sin \theta = \theta – \frac{1}{6} \theta^3 + \frac{1}{120} \theta^5 \cdots \cong \theta\] (30)

の近似ができ,このとき振り子の運動を表す方程式は,

\[\ddot{\theta} + \omega_0^2 \theta = 0\] (31)

となり,単振動の式となる。初期条件より,

\[\theta = \varTheta_0 \cos \omega_0 t\] (32)

となる。すなわち,振り子の角度$\theta$は,振幅$\varTheta_0$,周期$\dfrac{2\pi}{\omega_0} = 2\pi \sqrt{\dfrac{\ell}{g}}$の単振動をする。すなわち,周期は振幅$\varTheta_0$に依らない。では,$\varTheta_0$は振り子の周期に影響を与えないのであろうか? 実は,周期が,振幅$\varTheta_0$によらない単振動となったのは,$\sin \theta \cong \theta$の近似をしたためである。ここでは,$\sin \theta \cong \theta$の近似からのずれについて,摂動法を用いて調べてみる。初期振れ角$\varTheta_0$が振り子の周期に与える影響について調べるため,ここでは,

\[\sin \theta \cong \theta – \frac{1}{6} \theta^3\] (33)

とする。このとき,振り子の運動方程式(27)は,$\varepsilon \equiv \dfrac{1}{6} {\varTheta_0}^2$とし,$\theta^* \equiv \theta/\varTheta_0$,$t^* \equiv \omega_o t$とスケーリングし直すと,

\[\ddot{\theta}^* + \theta^* = \varepsilon {\theta^*}^3\] (34)

となる。(3乗の非線形性を持つこの式は,非線形振動の分野でよく現れ,Duffing(ダッフィン)方程式と呼ばれる。)

$\varTheta_0 \ll 1$ならば,$\varepsilon \ll 1$と見なすことができる。

初期条件($\theta (0) = \varTheta_0$,$\dot{\theta} (0) = 0$)は,次式で与えられる。

\[\theta^* (0) = 1,\ \dot{\theta}^* (0) = 0\] (35)

・正則摂動法による解

はじめに,この式を正則摂動法で解いてみる。以降では,記述の簡略化のため,$\theta^*$の$*$を省略する。すなわち,

\[\ddot{\theta} + \theta = \varepsilon \theta^3,\quad (\theta (0) = 1,\ \dot{\theta} (0) = 0)\] (36)

を正則摂動法により解くことを考える。

$\theta$を$\varepsilon$のべき級数で,

\[\theta = \sum_{n=0}^\infty \varepsilon^n \theta_n = \theta_0 + \varepsilon \theta_1 + \varepsilon^2 \theta_2 + \cdots\] (37)

とおき,方程式(36)に代入すると,

\[\begin{split}
& (\ddot{\theta}_0 + \varepsilon \ddot{\theta}_1 + \varepsilon^2 \ddot{\theta}_2 + \cdots) + (\theta_0 + \varepsilon \theta_1 + \varepsilon^2 \theta_2 + \cdots) \\
& \quad = \varepsilon (\theta_0 + \varepsilon \theta_1 + \varepsilon^2 \theta_2 + \cdots)^3
\end{split}\]

すなわち,

\[(\ddot{\theta}_0 + \theta_0) + \varepsilon (\ddot{\theta}_1 + \theta_1 – \theta_0^3) + \varepsilon^2 (\ddot{\theta}_2 + \theta_2 – 3\theta_0^2 \theta_1) + \cdots = 0\]

を得る。また,初期条件は,$t = 0$で次式で与えられる。

\[\{\theta_0 = 1, \dot{\theta_0} = 0\},\ \{\theta_1 = 0, \dot{\theta}_1 = 0\},\ \{\theta_2 = 0, \dot{\theta}_2 = 0\},\ \cdots\] (38)

i)0次の項(${\rm O}(\varepsilon^0)$)について,

\[\ddot{\theta}_0 + \theta_0 = 0,\quad (\theta_1(0) = 0,\ \dot{\theta}_1(0) = 0)\] (39)

より,

\[\theta_0 = \cos t\] (40)

i)1次の項($O(\varepsilon )$)について,

\[\ddot{\theta}_1 + \theta_1 – \theta_0^3 = 0\quad (\theta_1(0) = 0,\ \dot{\theta}_1(0) = 0)\]

摂動法の導入により非線形項$\theta^3$は,${\theta_0}^3$と0次の項で記述されていることに注意する。$\theta_0 = \cos t$を上式に代入すると,

\[\ddot{\theta}_1 + \theta_1 = \frac{3}{4} \cos t + \frac{1}{4} \cos 3t\] (41)

を得る。この方程式を,初期条件($\theta_1(0) = 0$,$\dot{\theta}_1(0) = 0$)のもとで解くと,

\[\theta_1 = \frac{3}{8}t \sin t + \frac{1}{32}(\cos t – \cos 3t)\] (42)

を得る。(ここで,$t\sin t$の項が現れることに注意する。)

したがって,$\varepsilon$の1次までの近似で解を表すと次式となる。

\[\theta \cong \cos t + \varepsilon \left\{ \frac{3}{8}t\sin t + \frac{1}{32}(\cos t – \cos 3t) \right\}\] (43)

次にこの式が表す運動を考察してみよう。上述したとおり,この式の右辺第2項には,$t\sin t$の項がある。この項は時間の増加とともに発散する項(永年項と呼ばれる)であり,これは振り子の振幅が時間とともに増加し続けることを表す。ところで,この振り子には外力が加えられていないため,時間とともに,振幅が増えていくようなことは,実際には起こりえない。何がいけなかったのか? 摂動解がこのような振舞いをしてしまったのはどうしてであろうか?

そもそもの問題点は,1次の解

\[\theta_1 = \frac{3}{8}t\sin t + \frac{1}{32}(\cos t – \cos 3t)\] (44)

の第一項は時間とともに増大するため,最初の正則摂動展開の形式で近似して与えた1次までの近似解,

\[\theta \cong \cos t + \varepsilon \left\{ \frac{3}{8}t\sin t + \frac{1}{32}(\cos t – \cos 3t) \right\}\] (45)

において,十分時間が経った状態では0次の項である左辺第一項$\cos t$に比較して,第2項の$\varepsilon \cdot \dfrac{3}{8}t\sin t$の項が十分小さいと見なせなくなり,$\varepsilon$のべきで分離できるとしている仮定が成り立たなくなる。すなわち,弱非線形の効果を扱うのに,振幅に対してのみ正則摂動展開法を適用しようとしたのが問題だったのである。では,初期振幅に対する非線形性の影響はどこに現れるのか? これを解析するためには,初期振幅による非線形性の影響が時間スケールに現れることに注意する必要がある。すなわち,時間スケールへの影響を考慮して,以下のように2つの時間スケール,

\[T_0 = t, \quad T_1 = \varepsilon t\] (46)

を用意し,独立の時間変数として扱う。すると,時間微分は,

\[\frac{\rm d}{{\rm d}t} = \frac{{\rm d} T_0}{{\rm d}t} \frac{\partial}{\partial T_0} + \frac{{\rm d} T_1}{{\rm d} t} \frac{\partial}{\partial T_1} = \frac{\partial}{\partial T_0} + \varepsilon \frac{\partial}{\partial T_1}\] (47)

と表され,この関係を,$\ddot{\theta} + \theta = \varepsilon \theta^3$に代入し,摂動法により解いていく。この続きは次回に。

 

参考

(4) https://www.jsme.or.jp/jsme/uploads/2018/09/KikaiyaMath1809.pdf


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授


 

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