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2018/12 Vol.121

よごれ0(ゼロ)ロボッ子
村越 心 さん(当時9 歳)
この‘よごれ0(ゼロ)ロボッ子’は、体が掃除機のようになっています。手は掃除のアイテムが出てくるようになっています。口はゴミを吸い込めるようになっています。そして、吸い込まれたゴミは大きなおなかに入り、それが‘よごれ0(ゼロ)ロボッ子’のごはんとなります。目はセンサーが付いていて部屋のよごれがあるとすぐに気づけるようになっています。足はモップで水などをふけます。モップは自由に動きます。頭にはアンテナが付いていて、電気に近づくと体全体が気づき、動くようになっています。これが‘よごれ0(ゼロ)ロボッ子’の仕組みです。

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年次大会2018公開座談会

多様化する社会・技術への機械技術者の挑戦

2018年度年次大会は、「多様化する社会・技術への機械技術者の挑戦」を大会キャッチフレーズとして開催された。

このキャッチフレーズに関連して、「ロボットと共存する日本の将来社会に向けて−少子高齢化/ 多様化する社会における新たなロボットのあり方−」橋本 康彦 氏〔川崎重工業(株)〕、「数学と諸分野・産業との連携への挑戦」小谷 元子 氏〔東北大学〕の両講師に特別講演をいただいた。また本年度は、年次大会全体で行うセッションという位置付けで、特別講演講師を含めた5名のパネリストで大会キャッチフレーズを題材とした公開座談会を実施した。本稿では、座談会の内容を元に再構成して紹介する。簡単に答えの見出せる命題ではないが、今後の機械技術者、機械学会の在り方を考えるために少しでも役立てば幸いである。

 

パネリスト:

橋本 康彦〔川崎重工業(株) 取締役常務執行役員 精密機械・ロボットカンパニープレジデント〕

小谷 元子〔東北大学大学院理学研究科数学専攻 教授、東北大学材料科学高等研究所 所長〕

佐々木 直哉〔(株)日立製作所 研究開発グループ 技師長、日本機械学会 会長〕

田中 正夫〔大阪大学 大学院基礎工学研究科機能創成専攻 教授 、関西支部 支部長〕

多川 則男〔関西大学 システム理工学部機械工学科 教授 、年次大会 大会委員長〕

司会:梅川 尚嗣〔関西大学 システム理工学部機械工学科 教授、年次大会 実行委員長〕

 

梅川:機械工学では、ロボット、バイオは多様化の代表例ですが、数学も多様化により発展し続けていて、「多様化」はキーワードになります。これらを踏まえて、機械学会として多様化に対して、どのようなアプローチができるのか、意見交換を行いたいと思います。例えば、ロボットは企業と大学であまり連携してこなかったというお話が先ほどの特別講演でありましたが、いかがでしょうか?

橋本:産業ロボットというのは、生産財とされてきまして、今や平均故障間隔30万時間が要求されています。つまり、1台のロボットであれば、30年間近く故障がないと大量にロボットを使ってもらえないわけで、そういう信頼性が要求されます。そういった特徴から、これまで日本では産学があまりつながってこなかったのですが、近年はコミュニケーションや賢かったり新しい動きだったり、人と交わっていくロボットが求められるようになりました。その中で、大学でやられている研究は、産業界にとって重要な要素があると気づき始めたところです。

梅川:大学の研究は、産業界とはかけ離れていたけれども、それが実際に使えるようになってきたという認識なんですね。

橋本:そうですね。例えば、ある処理を解析して行うのに、ロボットで1分もかかってしまうと使えません。以前1分ぐらいかかったのが今0.0何秒ぐらいの処理でできてしまいます。そうすると、数学的なロジックを入れて実際に使えるレベルになってきたのは非常に大きいです。

梅川:ロボットに数学を応用して次の展開に進んだというお話ですが、数学は材料とかいろんなものと出会って、新しい領域を開拓しているように思います。そういった異分野と共同で研究を進める姿勢というのはどこから始まっているのでしょうか?

小谷:私の場合は東北大学にいたことがすごく大きいです。会議に出席するたびに、周りの人に必ずどのような研究をされているのか聞くようにしていました。そうすると、東北大学では非常に高い確率で材料に関わる方とお話をする機会があり、「こんなことで困ってるんです」と言われると、「それ、ひょっとして数学のこんなこと使えるんじゃないですか」と答えることが多々ありました。それで意外とニーズがあるのかもと思ったのがきっかけです。

梅川:では、機械の方に話を戻して、バイオエンジニアリングは、異分野融合の代表格だと思いますが、バイオ分野が機械と連携しやすかったのはどういうところでしょうか?

田中:私がバイオ関係を始めたのは、設計システムのようなことを一生懸命やって行く上で、そういうものに関わる必要が出てきたからです。多様性という言葉でおっしゃいましたけれども、機械工学そのものにボーダーがあるのかどうかという気がしています。

梅川:産業界に求められている機械学会の役割という点ではいかがでしょうか?

多川:機械学会は、機械工学の基盤的な分野を深くしていくという部門と、装置・システムを構築しながら総合的にもの・システムを作っていく部門が両方あるわけです。その特性を活かすために、部門が独立してやるのではなくて、部門同士が交流することでいわゆる強みを発揮できるのではないかと思っています。また、小谷先生の数学と材料のお話にあったような、ちょっと融合というイメージが湧かない異なる領域にニーズベースで新しい事業を開拓していくアクティビティーがあると、産業界の人ももっと学会を活用するのではないかと思います。

佐々木:機械工学は企業も大学の方も研究され尽くされていて、ゼロから上がるのは楽なんですけど、さらに研究を進めるのは相当苦労するという場面かと思っています。そのために多様化のほうにシフトしようと。企業にとって今困っているのは、新しい価値がなかなか見つからないということです。やはり出口の新しい価値を見つけるには、試行錯誤するためのツールとして数学とかAIとかがあって、さらにもう一歩、機械工学が上に上がっていくために、前向きにいろんなことをしていく必要があります。大学で深化を進められている方々にも、目的や課題を提案して、間を埋めるのが学会の役割なのかなと思っています。

梅川:先ほど、ボーダーはないという話もありましたけど、例えば材料科学でやってみると意外と数学が使えるよねと。ここに使えるというのは、どこが主体で動いているのでしょうか?

小谷:数学は2000年の歴史があり、先ほど機械工学に関して言われたのと同じように、ある種の飽和の時期が歴史の中に何度もあったのですが、それを繰り返しながら、2000年たってもまだ発展してきているわけです。深く成熟する時期もありますが、広がりの時期は、必ず他分野からの刺激を受けてやってきましたので、成熟した知見を使える新たなアプリケーションを探していくことが大切という意識があります。そのため、数学では、テーマを決めて半年ぐらいいろんな分野の人が集まって、徹底的にディスカッションするタイプの研究所が世界中にあります。集まって徹底的に議論する場がないと、なかなか進まないというふうに思います。課題があると、その課題を解決するために、あらゆる分野から人を一か所に集めて、みんなで何をやってくかを議論する場が必要ということです。

梅川:数学界にそれができるのは、数学が共通言語で書かれているようなイメージですか?

小谷:もちろん共通言語ということもあるのですが、長い歴史の中で外からの要請が刺激になって健全に発達するという意識が培われてきたと思います。数学はある意味ではすごく抽象的なので、何らかの方向性がないとどっちの方向にも行ってしまうのです。x+y=z だけでは何にもならないので、xとyを具体的に当てはめると、そこから何が生まれるかを考えることを意識してきました。数学ではそういう機会を見出すことをずっとやってきたということかと思います。

梅川:ロボットでは今は効率化が日本の強みになっている言われていますが、これからもそのラインでいくのか、もっと変わっていくのかどうなのでしょうか?

橋本:ロボットは、これから人と共存させて柔らかいものにしないといけないので、従来のような頑丈なロボットではなくて、柔らかいロボットを作らないといけません。そのようなモデルをきれいに制御できることが求められる時代になると、そのためにこんな技術が要る、そのためにこんな分野とつながらないといけないということが出てきて、その答えを追い求めるか、従来の中にあったもので解決しようかという選択になります。その選択においては、やはりその領域を越えたところに、一番早く解を見出す方法を選ぶのが、今の時代に求められていると思っています。我々企業は1日も早く解を出すのが使命なので、いろんなところから知恵をお借りして、マーケットに役立ちたいと考えています。

佐々木:これまでのお話に共通して言えることは、チャレンジングな目的に対する研究をやるのは、単独ではなくてみんなで集まってやるという環境が重要で、その環境が何回か失敗しながら成長していくという、ある意味で言うと効率的な試行錯誤をやらないと、成功しないということかと思います。実は2日前の市民フォーラム「〜ウイスキーの魅力と不思議〜」で、サントリーのウイスキーの原酒を3種類飲ませていただいたのですが、ブレンダーの輿水さんの言葉が印象に残ってて、ウイスキーではブレンディングといっていろんな原酒を混ぜるのですが、全ていい原酒を混ぜてもいいものができないということなんです。要するに、変わった原酒を何か入れないと、おいしいウイスキーはできないと。機械でもいろんな技術をブレンドして、これまでになかった新しい価値を提供するのが機械工学だったと思うんです。いろんな人たちをブレンディングしたことによって、新しい価値を提供して世の中を良くする、境界を設けないでやって貢献するというのが、大事なんだと思います。

梅川:今回、実行委員会で一番力を入れた企画で、世界的に有名なチーフブレンダーの輿水さんに来ていただいて、飲みながら話をしました。ブレンディングは雑味がないと、のべっとして、何か個性のないウイスキーになるらしいんです。技術も多様化という意味では、新しいことばかりだと、足元が怪しくなってしまうわけで、正しながら進むという流れがあるといいなという意識を持っています。多様性に対して、何か一つの答えのようなものを感じられたように思います。皆様、本日は有難うございました。

(2018年9月11日 関西大学にて)