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2018/12 Vol.121

よごれ0(ゼロ)ロボッ子
村越 心 さん(当時9 歳)
この‘よごれ0(ゼロ)ロボッ子’は、体が掃除機のようになっています。手は掃除のアイテムが出てくるようになっています。口はゴミを吸い込めるようになっています。そして、吸い込まれたゴミは大きなおなかに入り、それが‘よごれ0(ゼロ)ロボッ子’のごはんとなります。目はセンサーが付いていて部屋のよごれがあるとすぐに気づけるようになっています。足はモップで水などをふけます。モップは自由に動きます。頭にはアンテナが付いていて、電気に近づくと体全体が気づき、動くようになっています。これが‘よごれ0(ゼロ)ロボッ子’の仕組みです。

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機械屋の数学

第11回(最終回) くりこめ詐欺に遭わないために

くりこみ群とは

前回までに説明した摂動法は,方程式内に現れるパラメータ$\varepsilon$が小さな値であることを利用して,近似解を求める手法である。小さな値をとるパラメータが存在しない場合には,摂動法の適用は難しい。これに対し,今回紹介するくりこみ群は,必ずしも小さなパラメータを含んでいる必要はない。何らかの物理量が,臨界的近傍で発散する,あるいは現象の中にフラクタル性やべき乗則で記述されるようなスケール不変な構造を含んでいるときに特に有効となる手法である。

くりこみ群は,20世紀後半から場の量子論・物性物理学の分野でよく用いられてきた手法である。くりこみ群の手法には,問題に応じて,さまざまな方法があり,また多くの場合が高度な数学的技法と結びついている。理論解析上の計算も複雑となるため,手法を理解するのが困難なだけでなく,実際に発表されている有名な論文の中にも,用法が誤っている,あるいは意図的に都合良く変数の操作が行われているのではないかと感じるようなものもある。例えば,乱流モデルの構築にくりこみ群の手法を用いた論文として,引用回数4000回を超えるYakhot&Orszag(1)の論文があるが,この論文の内容については,論文中で用いられている変数$\varepsilon$の設定に関して,一貫性に欠けており,計算がしやすいように,途中で値が変更されていることが,板津&長野(2)の研究で指摘されている。(1)の論文の後,10年経って(2)の論文が報告されている。専門家であってもくりこみ群の論文の詳細を理解するのは容易ではないことが伺える。そのような手法を,本特集の一回分,わずか2ページで説明することは到底無理である。しかし,くりこみ群の手法そのものは相変化・相転移などの臨界現象の解析をはじめ,工学でしばしば問題となる多重スケール問題などで強力なツールとなり得る。従来の機械系の講義ではほとんど扱われていないが,機械系の学生がその根底にある考え方だけでも理解しておくのは意味があると考える。本稿では,文献(3)の考え方に従い,くりこみ群のごく簡単な説明のみ行なう。

まず,くりこむという操作についてのイメージを伝えるために,以下の例で説明する。次の関数列を考える。

\[
\begin{split}
& f_0(x) = 1, \quad f_1(x) = 1 – x, \quad f_2(x) = 1 – x + x^2, \\
& f_3(x) = 1 – x + x^2 – x^3, \quad \cdots, \quad f_n(x) = \sum_{k=0}^n (-x)^k
\end{split}
\]

$n \to \infty$で,$f_n(x)$は,どのような関数に漸近していくか,またそのとき$x = 1$で,$f_\infty(x)$は,どういった値をとるかを考える。

\[
\begin{split}
f_\infty &{} = 1 – x + x^2 – x^3 + x^4 \cdots \\
&{} = 1 – x(\underline{1 – x + x^2 – x^3 \cdots} ) \\
&{} = 1 – x f_\infty
\end{split}
\]
(1)

ここで,2行目の式に現れる下線部は,元の$f_\infty$と全く同じ形となっているため,この式を$f_\infty$とおき直した。このように,与えられた式の中に,同じ構造が再び現れる入れ子構造のようになっており,その特性を用いて式を整理する操作を“くりこむ”と呼ぶ。式(1)より,

\[f_\infty(x) = \frac{1}{1 + x}\] (2)

と求まる。また,$x = 1$では,$f_\infty(1) = \dfrac{1}{2}$となるのがわかる。式(2)より,$n$の偶奇に対して,

\[f_n(1) = \left\{ \begin{array}{@{}ll}
1 & (n:\mbox{偶数}) \\
0 & (n:\mbox{奇数})
\end{array} \right.\]
(3)

と振動しているのに対して,$n \to \infty$では,くりこまれた結果,$f_\infty(1) = 0.5$という値をとるのは注目すべき点である。この$x$が単純な実数値ではなく,例えば,フーリエ変換後の波数の場合は,あるスケールの構造が入れ子構造になっているようなフラクタル性に対応したり,ロシア人形のマトリョーシカのように,大きな構造から小さな構造まで同じような構造が連なって存在するような系に対応したりする。

くりこみ群による特異摂動問題の解法

くりこみ群は,上記のような場合の解析だけでなく,微分方程式の特異摂動問題に対しても適用することができる。特に,時間とともに発散する永年項を持つ問題などに対して,くりこみの考えを適用して発散を抑えることにより,正しい近似解を求めることが可能である。ここでは,例として,第8,9回で扱った振り子の問題を考えてみる。振り子の問題で,角度$\theta$を$\sin\theta \cong \theta$と近似せずに,$\sin \theta \cong \theta – \dfrac{1}{6} \theta^3$と近似し,初期振り角などでスケーリングし直すと,第8回の式(34)で与えたように,以下の定式化ができる。

\[\mbox{振り子の運動方程式:} \ddot{\theta} + \theta = \varepsilon \theta^3, \quad (\varepsilon \ll 1)\] (4)
\[\mbox{初期条件:} \theta (0) = 1, \quad \dot{\theta}(0) = 0\] (5)

この問題に対して,第9回では,多重時間スケール法や周波数に対する摂動を考えた手法を紹介したが,ここでは,くりこみ群により解析する方法を紹介する。

くりこみ群による方法では,問題に陽に現れてこないパラメータを,こちら側が新たに導入する。そして,そのパラメータの導入により,解析する対象は,影響を受けないという関係式(くりこみ群方程式)を与える。さらに,発散を抑えるように導入パラメータを設定することにより,求めるべき解を得る(この考え方は,くりこみ群による手法の一般的な説明ではなく,文献(3)の大野流の考え方に準じている)。特異摂動問題に対しては,まず正則摂動問題(Regular Perturbation Problem)として解を求め,その解の発散項に着目し,発散を抑えるための新たなパラメータの導入を行う。

式(4),(5)で与えられる振り子の問題の場合には,正則摂動法による解は,

\[\theta \cong \cos t + \varepsilon \left\{ \frac{3}{8}t \sin t + \frac{1}{32}(\cos t – \cos 3t) \right\}\] (6)

となり,時間とともに振幅が増大する永年項$t \sin t$の項を有する。この永年項の発散を防ぐため,くりこむためのパラメータ$\tau$を導入し,永年項を$(t – \tau ) \sin t$とおき,くりこまれた影響は振幅$R(\tau)$と位相$\varPhi (\tau)$に含まれる(隠されている)とし,

\[\theta = R(\tau)\cos (t + \varPhi (\tau)) + \varepsilon (R(\tau))^3 \frac{3}{8}(t – \tau) \sin (t + \varPhi (\tau)) + O(\varepsilon)\] (7)

とおく。このとき,くりこみ群方程式は,

\[\frac{\partial \theta}{\partial \tau} = 0\] (8)

と与えられる。式(7)より,

\[
\begin{split}
\frac{\partial \theta}{\partial \tau} = {}& \left[ \frac{{\rm d}R}{{\rm d}\tau} + \varepsilon R^3 \frac{3}{8}(t – \tau) \frac{{\rm d}\varPhi}{{\rm d}\tau} \right] \cos (t + \varPhi) \\
&{} – \left[ \frac{{\rm d}\varPhi}{{\rm d}\tau} + \varepsilon \frac{3}{8} R^2 \right] R\sin (t + \varPhi) + O(\varepsilon)
\end{split}
\]
(9)

$\cos$関数と$\sin$関数の一次独立性を考慮すると,くりこみ群方程式$\dfrac{\partial \theta}{\partial \tau} = 0$より,

\[\frac{{\rm d}R}{{\rm d}\tau} = -\varepsilon R^3 \frac{3}{8}(t – \tau) \frac{{\rm d}\varPhi}{{\rm d}\tau} + O(\varepsilon^2)\] (10)
\[\frac{{\rm d}\varPhi}{{\rm d}\tau} = -\varepsilon \frac{3}{8} R^2 + O(\varepsilon^2)\] (11)

$R(\tau) = O(1)$および式(11)より,$\dfrac{{\rm d}\varPhi}{{\rm d}\tau} = O(\varepsilon)$,したがって式(10)より,

\[\frac{{\rm d}R}{{\rm d}\tau} = O(\varepsilon^2), \quad \therefore \quad R = C_0 + O(\varepsilon^2)\] (12)

式(10)に代入して,積分すると

\[\varPhi = -\varepsilon \frac{3}{8} C_0^2 \tau + O(\varepsilon^2)\] (13)

を得る。くりこまれた式’(7)において,$\tau = t$とおくと,

\[
\begin{split}
\theta &{} = R(\tau) \cos (t + \varPhi (\tau)) + O(\varepsilon) \\
&{} = C_0 \cos \left( t – \varepsilon \frac{3}{8} C_0^2t \right) + O(\varepsilon)
\end{split}
\]
(14)

初期条件,$\theta (0) = 1$より,$C_0 = 1$。したがって,

\[\theta = \cos \left\{ \left( 1 – \frac{3}{8} \varepsilon \right)t \right\} + O(\varepsilon)\] (15)

となり,他の手法で得たのと同じ近似解が得られる。

おわりに

くりこみ群をさらに勉強してみたい方には,文献(3)に加えて,田崎晴明氏による解説記事,文献(4)を薦める。拙著「機械系のための数学」(数理工学社)でも,文献(3)(4)を参考にし,第8章にて機械工学で関連しそうなくりこみの技法について説明を試みた。興味を持たれた方は読んで頂きたい。くりこみが適用される多くの問題では,くりこみ群により真の解を求めるというよりも,解のべき指数のみを計算するなど,限られた情報の中から解の振る舞いの一部の情報を精度良く抽出するのに用いられる。したがって,求めるべき情報についてはっきりと認識しておくことが重要となる。

さて,これで本連載「機械屋の数学」は終了となる。全11回のうち前半部分は,機械工学の重要テーマである振動と波動の問題を通して,行列に対する固有値問題は,微分演算子に対する固有値問題へと移行し,対称行列の固有ベクトルが直交するのと同じ様に,対称な演算子に対する固有関数が直交するのを見た。さらに,対称な演算子に対する固有関数を基底関数として,関数をその基底関数で分解することが,一般化されたフーリエ級数に対応することも見た。

後半では,機械工学の学部講義では,余り習わない摂動法やくりこみ群の基礎について簡単に触れた。摂動法やくりこみ群は,弱非線形系やスケール不変性を持つ系など,特殊な条件下での非線形問題に対しては有効となるが,多くの非線形問題では,そのまま使うことはできない。しかし,その根底にある考え方は,現在,数値計算の分野で大きなテーマの一つである,マルチスケールシミュレーションでも大いに役に立つ。私の経験では,マルチスケールシミュレーションが精度良く達成できる系は,非線形であってもスケールの分離がうまくいく,現象の一部にべき乗則が成り立つ部分があり,その部分でスケール不変の考えを適用できるなど,条件が限られる。特異摂動法やくりこみ群での成功事例を知っておくことは,新たな手法の開発にも大いに役立つ。また,ミクロな系のシミュレーションから得られた情報のうち,メゾ,マクロな系のシミュレーションに何を残すか,残すべき量の考察などには,くりこみ群の概念が役に立つ。本連載が,単に数学的なツールを紹介するにとどまらず,シミュレーションモデル構築の基本的考え方のようなところまで役に立てば,筆者としては嬉しい限りである。

最後となるが,大阪大学の杉山和靖教授には,毎回,印刷前の原稿に目を通して頂き,式の誤りなどをご指摘頂いた。記して感謝の意を表したい。

 

参考

(1) Yakhot, V. and Orszag, S.A., Renormalization group analysis of turbulence. I. Basic theory, J. sci. comput., Vol.1, No.1(1986), pp.3–51.

(2) 板津義博,長野靖尚,乱流の繰込み理論に関する研究:第1報 乱流モデル構築に関するYakhot-Orszag-Smith理論の評価,機論B, Vol.62, No.595(1996), pp.999–1005.

(3) 大野克嗣,数理科学1997年4月号,pp.13–19,サイエンス社.

(4) http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/pdf/ParityRG.pdf


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授


 

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