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2019/1 Vol.122

【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)

私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。

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特集 Diversity & Inclusion

なでしこ銘柄企業で働くということ

岡 ゆかり(コマツ)

経産省・東証が女性人材活用にお墨付き?

就職活動と株式長期投資はちょっぴり似ている。私は就職にあたり、株式情報を判断材料の一部とした。

経済産業省と東京証券取引所が共同で2013年より「なでしこ銘柄」を、2015年には「健康経営銘柄」「攻めのIT経営銘柄」を選定している。いずれも中長期の企業価値向上を重視する投資家に紹介することを狙いとしている。

なでしこ銘柄は、東証の上場企業の中から業種ごとに、女性が働き続けるための環境整備や女性人材の活用に積極的な企業を紹介するもので、すでに6回の選定が行われ、企業数も48社に増えた。新規採用女性比率・年次有給休暇取得率・男性育児休業取得率・女性管理職比率、等々。定量的な報告は公式の調査報告に譲るとし、本稿ではなでしこ銘柄企業のひとつに勤める筆者の目が届く範囲で、女性活躍に向けての取り組みのリアルな部分に触れる。

使ってなんぼの制度整備

まずは私事で恐縮だが、略歴を述べておく。建築学専攻、日本と米国で大学教員となる。2005年に辞職、2011年に当時暮らしていたベルギーで欧州コマツ(建設機械を製造するコマツの欧州法人)に就職、再び労働市場に参入。EUの技術規制・規格情報集めを担当する。2016年に欧州コマツを退職、日本国内のコマツに入社、同様の仕事とISOの規格作成を行っている。つまり、中途入社組だ。

2016年に入社した現職の職場では新しい発見だらけだ。就業時間管理で過少計上を防止し、年休を計画的に消費しないと上司や人事から指導が入る。フレックスタイム制での柔軟な勤務時間はありがたい。年休・お盆・年末年始・祝祭日を合わせると、稼働日は欧州勤務時より少ない。

コマツでは男女雇用機会均等法の施行にあわせて86年に女性総合職採用が開始された。90年に女性駐在員、94年に女性管理職、2000年に普通職の完全廃止、11年女性執行役員、18年に女性取締役が誕生。女性活躍推進に向けて取り組みはまだまだ続くが、育休・時短・在宅勤務・フレックス制などの制度整備は進み、大企業の平均より若干恵まれているといっていい。これらの制度が少しずつ浸透してきているのは、同僚の男性社員たちを見ても感じる。時間内にきっちり仕事を終え、保育園のお迎えに行くのは女性たちだけの仕事ではない。母親にだって出張や飲み会がある。会社の制度やITインフラ整備が進み、働く人の意識が変わってきて、仕組みが活用されるようになってきた。

活躍させない余裕は(残念ながら)ない

コマツの女性社員比率は高くなく(12%)、女性管理職(6%)の比率引き上げが急務だ。とはいえ、少ない技術系管理職にも部長職が複数おり、均等法施行後に入社した世代がようやく次世代のロールモデルになってきた。そんな何人かに尋ねると、大抵はジェンダーを感じずに働いてきたと言う。だが他からの話と総合すると、その言葉を額面どおりには受け取れない。その個人が持つしなやかさ、能力を無駄にさせてはならないと周囲に思わせる力、不愉快なことは長期記憶にしまわないフィルタリング機能、の合わせ技によるのだろうか。

知的財産や規制・標準への対応、ICT技術を駆使した情報化施工の分野など、近年になって社内で重要度が高まってきた分野は、相対的に女性技術者の活躍する割合が高い。一方で、専門性が高くなると、従来型のジョブローテーションによって横断的な仕事を経験するキャリアパスと親和性が低くなる。これは転勤制度や新卒一括採用一辺倒が抱える社会の課題と同一線上にあると考える。

女性が働きやすい職場は誰もが働きやすい職場と捉え、コマツでは今すでにある制度を使いやすくする取り組みを行っている。また、現業系で重量物を持つ作業工程を減らすことなど、女性に限定せず業務の見直しを行っている。誰にとって働きやすいか、などと言っている余裕はない。それは社員にとどまらず、高齢化する顧客の現場も同様だ。スマートコンストラクションという、ICTを用いた現況測量・施工計画・施工・検査のビジネスモデルが目指すのは、誰もが安全に働きやすい、生産性の高い現場づくりだ。

技術系部長職のひとりが言った。「女性だから大変だったこと?そうねえ、ブルドーザの振動実験はさすがに体力的に無理だと思ったわ。」いえ、それはあなたが人間だから。

なでしこ銘柄企業のひとつが行っている取り組みは地味で、社風そのものだ。その成果が社員の幸福追求にとどまらず、地味に業績へと貢献してこそ、銘柄認定に意味が出てくる。


 

<正員>

岡 ゆかり

◎コマツ 開発本部業務部 主査

◎専門:建設機械の各国規制、衝突検知・回避

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