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2019/1 Vol.122

【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)

私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。

バックナンバー

特集 Diversity & Inclusion

未来の女性研究者・技術者へのバトン

菅 結実花(旭川工業高等専門学校 技術職員/北見工業大学 大学院博士後期課程)

はじめに

筆者は、旭川工業高等専門学校の技術職員でありながら、北見工業大学の大学院博士後期課程の学生でもある。過去の学生時代の経験なども振り返りながら、本誌のテーマであるダイバーシティ、インクルージョンについて触れていきたい。本稿を、機械系に進んだ女子学生のモデルケースの一例としてご覧いただければ幸いである。

機械系は女性が少ない?

旭川高専の技術職員として

女性が大きな工作機械を慣れた手つきで操作していたら、あなたは驚くだろうか。筆者は、機械加工、特にNCフライス盤や5軸マシニングセンタの実習を担当している。プログラム作成や、CADやCAMを使って加工データを生成し、複雑形状部品・精密部品を製作する内容が主である。本校の体験入学やオープンキャンパスの際に、作業服を着て作業する私を見かけて「女性の技術職員の方もいらっしゃるのですね」と意外そうな顔をする保護者の方がいる。確かに、金属をガリガリと削ったり、火花が飛び散ったりする現場に女性は少ないかもしれない。

機械系の学問・仕事に従事する女性は、他分野に比べて珍しい。だからといって、彼女らは「変わり者」というわけではない。例えば偶然、金属の光沢に惹かれた。偶然、プログラミングや電子工作が得意だった。偶然、車やロボットが好きだった。このように、たまたま男性と同じような興味や技術を持つだけの、普通の女性たちだ。身近に彼女らが居ない・少ない、あるいは存在を知らないせいで、不思議に見えてしまうだけなのである。

機械系に進んだきっかけと、未来のメカジョに向けて

現在もTVで放映されている、「高専ロボコン(アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)」を幼いころに見たことが契機となり、筆者は機械系に進むのを決めた。その時は憧れていただけであったが、中学生の時、北海道での地区大会を観戦する機会があった。その年のテーマは騎馬戦がモチーフで、フィールドでロボット同士がぶつかり合い、回転するアームが相手の旗をはじき飛ばしていた。実際に見る試合は圧巻で、自分もそんなロボットを作り、大会に臨みたいと強く思った。その後、筆者は旭川高専の学生として、2009年からロボット・ラボラトリに所属し、高専ロボコンに挑んできた(図1)。一学年40名ほどの機械系のクラスには、一人か二人しか女子学生はいない。ゆえに女子部員は珍しかったが、部員は対等に接してくれていた。最初は男子学生ばかりで若干気後れもしたが、過去に女性の先輩がいたことを聞いて安心し、すぐに溶け込めた。このときに数値制御系の工作機械による加工を担当させていただいたことが、今の仕事に繋がっている。

 

図1 2012年 ロボット・ラボラトリ部員と

 

現在は女子部員も増え、和気藹々と活動している(図2)。その女子部員の一人から、「体験入学のときに、先生が勧めてくれたおかげで入学し、入部しました」という言葉をもらった。彼女のきっかけとなれたことは非常に嬉しい。その後も、「現役の女子の先輩がいるから」と入部してくれた女子学生もいる。過去に、その組織に同じような例があるということは、それが将来にわたって貴重な財産となる。モデルケースを積み重ねてゆけば、機械系に進む女性も自然に増えていくのではないか。そんな彼女らのきっかけとなれるよう、声を上げて、「自分たちのような存在がいる」ということを発信することが大切だと、筆者は考える。

図2 2018年 ロボット・ラボラトリ女子部員と

LAJ委員会に触れて

目から鱗の女性エンジニア交流会

「Ladies’ Association of JSME」、通称LAJは、2011年より各地でランチあるいはディナーミーティングを「女性エンジニア交流会」と題して開催し、主に機械系の女性研究者や女性技術者、女子学生との交流を図っている。内容は難しいものではなく、食事をしながらの気軽な会話が、本交流会のメインである。筆者は、本学会の2015年度年次大会と同時開催されたLAJランチミーティングが、初めての交流会参加であった。受付で配布された交流会のチラシが気になり、参加を決めたことを覚えている。当時はまだ学生であったため、機械系の女性研究者・技術者、他校の女子学生と関わったことがなく、少し不安でもあったが、交流会会場に足を踏み入れると、そこには多くの機械系女性がおり、衝撃を受けた。「こんなに先輩たちが居たんだ」と視野の狭い自分を恥じるとともに、心強く感じた。

現在は、ご縁もあり北海道地区のLAJ委員を務めさせていただいている。女性エンジニア交流会(図3)などを通して、機械系女性の輪を広げるとともに、学生の方々にも、「たくさん仲間がいるよ」ということを伝えていきたい。

毎年、交流会は各地区で開催されている。開催の情報は、「日本機械学会LAJ委員会」のWebページなどに掲載されるため、興味を持たれた方は、ぜひ確認していただきたい。

図3 LAJ主催 女性エンジニア交流会2017 in北海道

大学院へと進学

北見工業大学 大学院の博士後期課程に

はじめに述べたように、現在、筆者は高専の技術職員を続けながら、北見工大の大学院博士後期課程に在籍している。職場で行っていた、植物工場に関する共同研究がもととなり、進学した(図4)。進学には、交流会で受けた刺激が影響していたと感じる。技術職員と社会人学生の二重の生活、片道3時間の通学など苦労することも多い。改めて学生となることで、研究室の先生、学生から学べることが非常に多く、学会発表のノウハウを学んだり、高度なディスカッションを経験することで、高専での仕事と大学での研究間で良い相乗関係が生まれている。女性技術者としてだけではなく、研究者としても学ぶことで、より多角的な視点を身に付けて、社会に還元できるように尽力したい。

図4 大学院での研究対象のホウレンソウ

おわりに

「自分はこんなことができる、こんなことをしたい」と発信して行動をし続けていれば、きっと誰かが見ていてくれる。それを何かのきっかけで見つけ、「研究者、技術者はかっこいい」と感じ、将来の選択肢にしてくれる女子学生たちが増えることを願っている。男性でも、女性でも、やりたいことに性別は関係ない。後続の者たちに道を示すことができれば、未来の可能性は広がっていくであろう。


<正員>

菅 結実花

◎旭川工業高等専門学校 技術創造部 技術職員/北見工業大学 大学院博士後期課程 寒冷地・環境・エネルギー工学専攻

◎専門:切削加工、CAD/CAM/CAE、植物工場

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