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2019/1 Vol.122

【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)

私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。

バックナンバー

特集 Diversity & Inclusion

来日20年目を振り返って ~Vehicle Dynamicistへの道~

ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク(東京農工大学)

来日までのこと・学生時代の研究

タイ・チュラロンコーン大学在学中の学部3年生の頃、「このままタイで就職したら、人生がつまらないなあ、海外のどこかで勉強してみたい!」との単純な思いつきで、学部4年生の時に狭き門の日本政府文部科学省国費留学生の奨学金の採用試験を駄目元で受けたところ、運よく受かり、1999年に日本に来ることになった。来日後、東京農工大学の修士課程に入り、最初に与えられた研究テーマは、「自動運転」で、白線に沿って自動的に追従するクルマの制御系設計の研究であった。今でもこの研究を続けており、学生時代から10年かけて電気自動車を使って運動制御システムの開発をまとめた専門書「カーロボティクス」を執筆した。これがきっかけとなって、2011年にNHK、2013年にテレビ朝日の番組で東京農工大学の自動運転研究が紹介された。初めてのテレビ取材でいろいろ準備が大変だったが、一般の人にわかりやすく解説文を考えたりして良い勉強になった。さらに、クルマのビッグイベントである東京モーターショーにおいても、緊急回避機能のデモンストレーションを紹介する機会があった。

日本で大学教員になって

2004年に大学の教員になり、学生時代とは違って、日々知らない日本語と接することになった。事務書類、電話対応、備品購入関係でも日本語でのやり取りが必要不可欠で、最初の頃は本当に苦労した。日本語で講義をするのも緊張した。「日本人学生が僕の日本語をちゃんと聞いてくれるか?」と心配しながら講義をした。それ以外にも、私のような外国人にとっては、日本語での研究費の申請書作成は簡単ではない。頭の中の限られたボキャブラリーでうまく文章を作って書くしかない。日本人に比べてどう考えても語彙力の面では不利である。努力の結果、2005年より、ほぼ毎年科学研究費補助金(科研費)を獲得しているが、さらに2010年に申請した鉄道・運輸機構(JRTT)の大型研究プロジェクト「歩行者・自転車の衝突回避のための危険予測自動ブレーキ」が採択された。このテーマをきっかけに、産業界との共同研究が増え、進行中の国プロの中核内容に発展することができた。

現在、科学技術振興機構(JST)の戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)の研究開発テーマ「高齢社会を豊かにする科学・技術・システムの創成」において、研究課題「高齢者の自立を支援し安全安心社会を実現する自律運転知能システム」(2010年度〜2019年度)を遂行している。本研究プロジェクトは、高齢者の安全運転を支援するための“真”の自動運転技術を目指して産学連携プロジェクトとして、企業と大学教員・院生が一体となって研究開発を推進している。私の研究チームは、熟練ドライバーの運転履歴データからリスク予測知識を学習する“運転知能技術(Driving Intelligence)”と“人間機械協調技術(Shared Control)”の研究課題を担当している。

学会での活動

日本機械学会では、交通・物流部門自動車技術委員会に参加しており、過去には機械力学・計測制御部門運営委員、国際・交流委員会委員を仰せつかった。2012年より毎年6月頃、他大学の先生方と連携して、学生および新社会人向けの講習会「自動車の運動力学」基礎セミナーの講師も担当している。そのほか、自動車技術会の方でも活動しており、先進車両制御に関する国際シンポジウム(AVEC)、予防安全に関する国際シンポジウム(FAST-zero)の運営業務を担当している。

来日してから20年目となり、恩師をはじめ、友人、同僚、学生諸君に支えていただいた。その方々に深く感謝したい。また、車両運動制御を研究している“Vehicle Dynamicist”として、日本の強みであるこの分野をもっと盛り上げて、世界一の自動車技術を創りたいと思う。

大学での講義風景


 

<正員>

ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク

◎東京農工大学 大学院工学研究院 先端機械システム部門 准教授

◎専門:機械工学、車両運動、機械力学、制御工学

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