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2019/1 Vol.122

【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)

私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。

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貴方の英語は大丈夫? よくある間違い教えます。

第1回 時制の使い分け

連載のはじめに

英語を母国語としていない多くの研究者にとって、研究成果を英語論文にまとめて投稿することは気が重く、時間のかかる仕事です。どれほど優れた研究内容だったとしても、英語のレベルが低ければジャーナル掲載は望めません。

一般的なジャーナルでは、論文が投稿されるとまずmanaging editor(編集長、editor in chief)が、論文全体のクオリティチェックを行います。そして、論文の内容がジャーナルのテーマと合っていない場合や、新規性がみられない場合、そもそも何が書いてあるのか伝わらなかった場合は、「査読に回す価値がない」として掲載拒否(デスクリジェクト)の判断が下されます。英語のレベルが足りないために研究の重要性が伝わらず、新規性のある優れた研究なのにpeer reviewまで辿り着けない。こんな悲劇も、非英語圏の研究者にとっては珍しいことではないのです。

Elsevierの元編集長で現在はBioMed Centralでdevelopment editorを務めるMarco Casola 氏は、「全部がそうだというわけではありませんが」と断った上で、「言葉の間違いは、(研究自体の)質の低さを連想させます。間違った英語で書かれた論文に、驚くべき科学的発見が隠されているとはあまり思えません」と述べています。英語圏の研究者の論文と比較されたとき、英語が下手であることを理由に大したことのない論文だという先入観を持たれてしまうのだとしたらあまりに残念です。

ジャーナル側でもこの問題を重視しており、非英語圏の研究者にプロの校正会社による英文校正サービスの利用を推奨しています。大手の出版社やジャーナルが、英文校正サービスを自ら立ち上げた例もあります。しかし、今のところ機械工学分野での英文校正の利用率はあまり伸びていません。研究がよりグローバルに、学際的になった現在、英語レベルの向上は研究者にとって喫緊の課題です。

研究論文を長年校正してきた当社では、非英語圏の研究者が科学論文を書くにあたって犯しがちな英語のミスや、陥りやすい誤解の傾向を見つけました(1)(2)。この連載ではハードサイエンスの研究者、特に機械工学の研究者や技術者に向けて、ミスが少なく明快な英語論文を書くためのコツを紹介します。少しでも身近に感じていただけるよう、可能な限り機械工学に関連した例文を使用していきます。

第1回の今回は、動詞の時制を取り上げます。科学論文ではセクションごとに使うべき時制が変わります。今自分が書いているセクションで使うべき時制を迷わずに選べることを目標に、まずは基本から始めましょう。

頻出するのは四つだけ:時制の基本をマスターしよう

英語の時制は一見複雑そうですが、研究論文でよく見かけるのは頻度の高い方から単純過去(simple past)、単純現在(simple present)、現在完了(present perfect)、過去完了(past perfect)の四つだけです。この四つを正確に理解できていれば、時制の問題の大半は解決できると言っても言い過ぎではありません。

・Simple Past

現在より前に起こった事象について記載するには、simple pastを使います(現在と過去の事象に直接の関連がある場合には、present perfectになります)

例1: The stress-strain curves were plotted.

(応力−ひずみ曲線をプロットした。)

・Simple Present

科学論文でsimple presentが使われるのは、定理や一般常識、周知の事実など、将来にわたって変わらないであろう物事を記載する場合です。

例2: Piezoelectric materials have the advantage of high yield stress (45–55 MPa), which provides a wide elastic range.

(圧電材料は降伏強度が高く(45〜55MPa)、このため広い弾性域を有するという利点を持つ。)

自分または第三者の先行研究の結果を紹介する際も、「論文の内容と直接的な関係があり、信頼できる結果であると確信がある」場合にはsimple presentを使います。

また、現在自分が書いている論文について言及する際もsimple presentが使われます。

例3: Section 2.3 discusses the material properties of the model.

(2.3節ではモデルの材料特性について述べる。)

・Present Perfect

現在と直接関連のある過去の事象を記載する場合にはpresent perfectを使用します。現在からほんの少し前に終了・完了した事象のほか、現在に渡って継続中の事象や傾向もpresent perfectで表します。

例4: Optical fibers have been used extensively in health monitoring of structures.

(光ファイバーは、構造の健全性監視に広く使用されてきた。)

例5: X-ray diffraction has also been used in strain measurement.

(ひずみ測定にはX線回折も使用されている。)

・Past Perfect

Past perfectは、過去に別々に発生した二つの事象に関連性がある場合の、より古い方を表す際に使われます。

例6: The method had originally been proposed for any scale, but it was found to be more feasible for the microscale.

(その手法はもともとどの手法でも使用可能なものとして提案されていたが、マイクロスケールにより適していることがわかった。)

時制の選択に迷ったら?

執筆中のセクションを確認してみましょう。

伝統的なIMRaD(Introduction・Materials/Methods・Results・Discussion)形式の論文では、使うべき時制はセクションによって大きく変わります。

・Abstract

論文全体の概要を簡潔に説明するAbstractでは、研究を開始し、完了するまでに行った作業や過程は過去形(simple pastまたはpast perfect)で、研究の結果得られた結果と結論はsimple presentで記載します。

例7: Experimental and numerical models were constructed to investigate the indentation responses of an elastic half-plane.

(弾性半平面の押込みに対する応答を調べるため、実験的および数値的モデルを構築した。)

例8: Crack formation is less during sub-micron level indentation as compared to micro or macro level indentations.

(サブミクロンレベルの圧痕に対する亀裂形成は、マイクロレベルまたはマクロレベルでの亀裂形成に比べて少ない。)

また、理論や法則、周知の事実などについては、研究のために使用した場合であってもsimple presentが好まれます。

例9: The Fourier transform was chosen for frequency analysis because it is not only versatile but also robust.

(周波数分析にはフーリエ変換を使用した。多用途であるばかりでなく、堅牢でもあるためである。)

・Introduction

研究を行うにあたって予測したことや、先行研究の結果のうち論文の内容と直接関係があり、信頼できる結果であると確信できることについてはsimple presentを使います。

先行研究の手法や、すでに誤りであったと分かっている結果についてはsimple pastを使います。

IntroductionとしてLiterature Reviewを行う場合、単純な情報提供ならsimple past、文献に対する著者の意見を述べる際にはsimple present、ごく直近の研究について述べたいときはpresent perfectを使用します。

例10: Jones (2013) found that large deformations could be measured accurately using the Moire technique.

(Jones (2013)は、モアレ技術を用いて大きな変形が正確に測定できることを発見した。)

例11: Jones (2013) do not use a wide enough range of temperatures in their study.

(Jones (2013)は、その研究の中で、十分に広い温度範囲を設定していない。)

・Methods

研究を進めるために行ったことを記載するこのセクションでは、過去形の使用が自然です。

・Results

論文を執筆する時点で既に取得済みの結果についてはsimple pastで記述します。

図表を参照するときや、同じ論文中の別のセクションについて述べる時はsimple presentを使用します。(例3参照)

・Discussion

Discussionセクションでは、今回の論文で明らかになった知見を述べる際にはsimple pastを使用します。ただし、結果の解釈や考察を述べる際にはsimple presentを使用しなければなりません。このセクションでは1文の中に、複数の時制が混在することも珍しくありません。

例12: 83% of the particles demonstrated a tendency toward recombination, indicating that the sample is stable.

(粒子の83%が再結合傾向を示し、資料が安定していることが示唆された。)

・Conclusion

Conclusionでは、出版された論文を読者が読んでいる時点でも「研究結果に変更がない」ことを示唆する目的で、present perfectの使用が好まれます。

例13: In-situ and ex-situ measurements have revealed that at the end of the aging treatment, residual stresses are reduced by more than 60%.

(In situ測定およびex situ測定から、時効処理の終わりに残留応力が60%以上減少することが明らかになった。)

このように、四つの時制のうちどれを選択するべきかは論文のセクションによって大きく異なります。どのセクションで何を述べようとしているかを常に意識しながら、四つの時制をうまく使い分けてみてください!


参考文献 <書籍発売中>:

(1)エディテージ, 英文校正会社が教える 英語論文のミス100, (2016), ジャパンタイムズ.

(2)エディテージ,英文校正会社が教える 英語論文のミス 分野別強化編, (2017), ジャパンタイムズ.


西村 美里・Kakoli Majumder

◎英文投稿支援エディテージ〔カクタス・コミュニケーションズ(株)〕

 https://www.editage.jp/

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