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2019/1 Vol.122

【表紙の絵】
「素敵な薬を作る機械」
杉平 会利 さん(当時5歳)

私が薬剤師さんになったら、「素敵な薬を作る機械」を使って、患者さんの好きな色や形、好きな味や香りのする薬を作りたいです。虹色の薬を飲むと、心に虹が架かり晴れやかな気分になります。病気になったら素敵な薬を飲んで、心も体も元気になって欲しいです。

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ほっとカンパニー

三桜工業(株) 人の力と柔軟性で80年の歴史を誇る自動車部品メーカー

人の力と柔軟性で80年の歴史を誇る自動車部品メーカー

 

金属製品ラインナップ

 

樹脂製品ラインナップ

日本にはこんなすごい会社がある

1939年に航空部品製造の会社として埼玉県大宮市で創業した三桜工業。1942年に茨城県古河市に移転し、ウイスキーやワインの醸造に着手した。「三桜」は当時のお酒のブランド名だそうだ。しかし戦前のものづくりに戻るべく、1952年から機械製造に立ち返った。小型モーターの製造で家電業界に参入し、1962年に銅メッキ鋼板を丸めてパイプを作る技術をアメリカから導入し、冷蔵庫の裏面に取り付けるワイヤーコンデンサーを手がけ始めた。1964年にはその技術をさらに進化させ、自動車のブレーキチューブの製造を開始した。こうして自動車業界に参入した同社は、続くモータリゼーション時代の幕開けとともにブレーキチューブに始まり、燃料チューブ、エンジン関係部品、樹脂製品など事業を拡大し、シェアを高めていった。現在の主要製品は自動車部品を中心に40種類以上にのぼる。一方、1980年代からは自動車メーカーの世界進出とともに同社も本格的にグローバル化し、現在22カ国91拠点に展開している。

自動車配管は車体の設計上どうしても要素部品の後にレイアウトされるため、急な設計変更や短納期が求められる。そのため、製品の設計力・信頼性だけでなく「柔軟な対応力」も同社の強みだ。

また、自動車配管以外には2000年にニッケル水素電池を開発し、本田技研工業のヒューマノイドロボット「ASIMO」の動力源に採用され、他にも電動自転車や電動車椅子などに用いられている。2010年頃からは次世代二次電池の開発も始めた。2018年には、全固体電池開発を手がけるアメリカのSolid Power社への出資も大きな話題となった。同社と連携して開発する全固体電池は、2019年1月のクルマの軽量化技術展などで積極的にPRしていく予定だ。

若手社員が積極的に拡大する新事業開発

新事業創出の拠点となっているのが、今回訪れた古河事業所(茨城県)内の新事業開発センター「CITA」(Center for Innovation, Technology, and Analysis)だ。ミニマムでスタイリッシュな外観、フリーアドレス制など、ここにはクリエイティビティを刺激する環境が整っている。

新事業開発では自動車系のみならず、エネルギー、農業、福祉、教育、地域創生など、多岐にわたる分野を視野に入れている。同社R&Dセンターの竹内は、「20〜30歳代の若手社員が積極的に国内外の大学や研究所、企業等と連携しながら、先進的かつ多彩なテーマで研究開発・事業開発を推進している」と語った。

「手づくり」「創意」「人を育てる」をITでも発揮

新事業開発にあたり、大きな力を発揮しているのが、同社のITの力だ。R&Dセンターの海老沼は、25年以上、社内SEとして現場を支えてきた。1993年には地域のためのインターネットプロバイダ事業を立ち上げるなど、地域の活性化にも取組んできた。現在、日本国内拠点のPCやネットワークなどのITインフラの企画・導入・保守を手がけている。決算処理、生産管理、受発注、入出庫管理などの基幹業務システムも自社で開発してきた。

海老沼は、ITも「ものづくり」の一つだという想いで、三桜の三つの理念「手づくり」「創意」「人を育てる」を基本に取組んでいるという。「将来的に自動化が進めば、人は今より減るかもしれない。しかし、その自動化への行程に携わることで、自分たちの知識やスキルが伸び、将来的に必要な人財となることができる」と若手に伝えているそうだ。

新事業開発センター「CITA」外観

 

今回取材に協力いただいた皆様

(左から、海老沼さん、竹内さん、金沢さん、徳生さん)

 

外国人登用、博士採用…柔軟な『人財活用』

同社の理念の一つである「人を育てる」にも、車輌配管の現場同様に、柔軟性が発揮されていた。昨今話題のテレワークなどにも早い段階で取組み、トライ&エラーを重ねながら精度を上げている最中だという。社内託児所やフレックスタイム制、時短勤務など働き方改革をいち早く進めてきた。

ダイバーシティもその一つだ。外国籍正社員の国籍は20か国以上。「外国人社員は日本人と異なる角度からの発想力を持った人財が多く、我が社の大きな強み」と人事部の金沢は語る。

さらに『博士人財』採用にも注力し、2018年度は新たに5人採用している。専門領域で培った能力を活かし、人事や品質部門など、研究開発以外の場で力を発揮する博士卒社員も少なくない。群馬大学や北海道大学、名古屋大学などの『博士人財』と企業の交流会にも積極的に参加している。大学や研究所で核融合分野の研究に従事していた竹内が同社への入社を決めたのも、そんな交流会での出会いが縁だったそうだ。

今回取材した海老沼、竹内、金沢、徳生の4人全員が、同社の強みに「団結力」を上げた。いざという時になるとより一層力を合わせて、想像以上のパワーを発揮するのが三桜なのだという。

2011年の東日本大震災の支援活動には約200人の社員が被災地へ向かい支援にあたった。支援の最中に社員が考案した「土嚢袋自立シート」は、実用新案に登録され、常総市の水害や熊本地震など、その後の日本各地の被災地でも活躍している。また、地域のマラソン大会やクリーン作戦へのボランティア活動にも、社員から積極的に手が挙がるという。

こうした他者を思う気持ちが社風として自然に育まれているからこそ、人が育ち、独立系メーカーとして約220社の客先に信頼され、巡り巡って利益にもつながる──企業としてあるべき一つの理想郷を見た思いがした。

土嚢袋自立シート

 

外国籍社員懇親交流会

 

(取材・文 横田 直子)


三桜工業株式会社

本社所在地 東京都渋谷区

https://www.sanoh.com/ja/

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