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2019/5 Vol.122

【表紙の絵】
二人のりいすロボット

木原 友里 さん(当時7歳)

おじいさんとおばあさんがのっていろいろなところに行けるイスロボット、シートベルトつき。下から足がでてそうじをしながらおもったところにいける。かいだんものぼれる。

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やさしい材料力学

第5回 組合せ応力・主応力



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1 はじめに

一般に弾性体には,3次元の座標方向に対して複数の応力が作用している。本稿では弾性体に垂直応力やせん断応力など,複数の応力が作用する状態,すなわち組合せ応力状態について考える。応力の座標変換と,応力の極大値・極小値を意味する主応力の概念についても解説する。

2 弾性微小要素と応力の定義

一般に弾性体内の応力は,$x$,$y$,$z$軸方向の3次元的な応力成分により記述することができる。図5.1(a)に示すように,直交$x$-$y$-$z$座標系をとり,各座標方向に$dx$,$dy$,$dz$の長さをもつ微小な弾性体要素を考える。この微小要素の各軸に直角な面に対して,垂直応力$\sigma_x$,$\sigma_y$,$\sigma_z$が作用しているものとする。また,$x$軸に垂直な面に対して,せん断応力$\tau_{xy}$,$\tau_{xz}$が,$y$軸に垂直な面に対して,せん断応力$\tau_{yx}$,$\tau_{yz}$が,さらに$z$軸に垂直な面に対して,せん断応力$\tau_{zx}$,$\tau_{zy}$が作用しているものとする。せん断応力の添字の意味は,前の添字が作用面を,後ろの添字が作用方向を表す。ここで,図5.1(b)に示すように,法線ベクトルが各座標軸の正の向きである面を正の面,各座標軸の負の向きである面を負の面と呼ぶ。

図5.1 弾性微小要素に作用する応力

微小要素において互いに向かい合う面,例えば$x$軸の正の面と$x$軸の負の面に作用する応力はつり合う。応力の正負に関しては,各座標軸の正の面に作用して,作用方向が座標軸の正方向である応力を正の応力として定義する。つまり,各座標の負の面に作用する応力については,座標軸の負の方向に作用する応力が正となる。また,微小要素におけるモーメントのつり合いより,互いに直交するせん断応力成分は等しい。すなわち,$\tau_{yx} = \tau_{xy}$,$\tau_{zy} = \tau_{yz}$,$\tau_{xz} = \tau_{zx}$である。

3 平面応力と平面ひずみ

先に述べた応力成分のうち,$z$軸方向への応力成分がすべて0であるとき,すなわち,$\sigma_z = 0$,$\tau_{xz} = 0$,$\tau_{yz} =0$の場合について考える。せん断応力の対称性より,$\tau_{zx} = \tau_{xz} = 0$,$\tau_{zy} = \tau_{yz} =0$であるから,結果的に0でない応力成分は,$\sigma_x$,$\sigma_y$,$\tau_{xy}$のみとなる。このような応力状態を平面応力と呼び,解析対象を$x$-$y$の2次元平面で考えることができる。例えば図5.2(a)に示すような薄い平板の面内に引張荷重が作用する場合は,板厚方向の応力$\sigma_z$が0,かつ$z$軸方向への応力分布が一様であるものと考えて,近似的に$x$-$y$面内での平面応力状態として取り扱うことができる。

図5.2 平面応力と平面ひずみ

一方,弾性体の$z$軸方向への変形が拘束されている場合には,$z$軸に関連するひずみ成分$\varepsilon_z$,$\gamma_{xz}$,$\gamma_{yz}$がすべて0になる。例えば,図5.2(b)に示すように,$z$軸方向に無限に伸びる棒状の物体における変形は$x$-$y$平面内における平面ひずみの問題として扱うことができる。平面ひずみの場合にも,応力成分は$x$-$y$平面に関する応力成分$\sigma_x$,$\sigma_y$,$\tau_{xy}$のみを考えることによって問題を解くことができる。これらの応力成分と$\sigma_z$との関係はポアソン比$\nu$を用いて次式のように表せる。

\[\sigma_z = \nu (\sigma_x + \sigma_y)\] (1)

4 応力の座標変換

図5.3に示すように,弾性体内に微小な長方形板を考えて,$x$-$y$平面内における応力について議論する。この長方形板の周辺に,一様な垂直応力$\sigma_x$,$\sigma_y$,せん断応力$\tau_{xy}$($\tau_{yx}$)が作用しているものとする。

図5.3 2次元応力状態と斜面上の応力

長方形内の一点Oを通る面ABに生じる応力を求めるために,図のような三角形要素ABCを考える。斜面ABに対して垂直な方向に$x’$軸を,斜面ABに平行な方向に対して$y’$軸を新たに定義する。$x$軸と$x’$軸のなす角は$\theta$である。$x’$軸方向の力のつり合いより,

\[
\begin{split}
\overline{\rm AB} \cdot \sigma_{x’} ={} & \overline{\rm BC} \cdot \sigma_{x} \cos\theta + \overline{\rm AC} \cdot \sigma_{y} \sin\theta \\
&{} + \overline{\rm BC} \cdot \tau_{xy} \sin\theta + \overline{\rm AC} \cdot \tau_{xy} \cos\theta
\end{split}
\]
(2)

同様に,$y’$軸方向の力のつり合いより,

\[
\begin{split}
\overline{\rm AB} \cdot \tau_{x’y’} ={} & {-} \overline{\rm BC} \cdot \sigma_{x} \sin\theta + \overline{\rm AC} \cdot \sigma_{y} \cos\theta \\
&{}+ \overline{\rm BC} \cdot \tau_{xy} \cos\theta – \overline{\rm AC} \cdot \tau_{xy} \sin\theta
\end{split}
\]
(3)

$\overline{\rm AB} = l$,$\overline{\rm BC} = l\cos\theta$,$\overline{\rm AC} = l\sin\theta$であることより,斜面AB上に作用する垂直応力$\sigma_{x’}$およびせん断応力$\tau_{x’y’}$が以下のように求められる。

\[\sigma_{x’} = \sigma_x \cos^2 \theta + \sigma_y \sin^2 \theta + \tau_{xy} \sin 2\theta\] (4)
\[\tau_{x’y’} = \frac{1}{\,2\,}(\sigma_y – \sigma_x)\sin 2\theta + \tau_{xy} \cos 2\theta\] (5)

さらに,式(4)における$\theta$を$\theta + \pi/2$で置き換えることにより,$y’$軸に垂直な面に作用する垂直応力$\sigma_{y’}$が以下のように求められる。

\[\sigma_{y’} = \sigma_x \sin^2 \theta + \sigma_y \cos^2 \theta – \tau_{xy} \sin 2\theta\] (6)

式(4),(5),(6)式は,結果的に$x$-$y$座標系の応力を$x’$-$y’$座標系に変換するための変換式となる。

5 主応力

式(4)で表される$\sigma_{x’}$を半角公式を用いて変形すると,

\[\sigma_{x’} = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} + \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \cos 2\theta + \tau_{xy} \sin 2\theta\] (7)

式(7)を$\theta$で微分して0とおくと,

\[\frac{d \sigma_{x’}}{d \theta} = – (\sigma_x – \sigma_y) \sin 2\theta + \tau_{xy} (2\cos 2\theta) = 0\]

\[\therefore \ \tan 2\theta = \frac{2 \tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y}\] (8)

上式を満足する$\theta$($0 \le \theta \le \pi$)は2つ存在し,その小さい側の角度を$\theta_1$とすれば,もう一方は$\theta_2 = \theta_1 + \pi/2$となる。すなわち,垂直応力の最大値と最小値が生じる面は互いに直交する。さらに式(8)を式(5)に代入すると,$\tau_{x’y’}$は0となるから,垂直応力が最大・最小を示す面においては,せん断応力は0となることがわかる。

以上のように求められる垂直応力の最大値$\sigma_1$および最小値$\sigma_2$を主応力と呼ぶ。平面応力問題もしくは平面ひずみ問題では,求められる2つの主応力のうち,大きいものを第1主応力,小さいものを第2主応力と呼ぶ。また,主応力が作用する面を主応力面,主応力の方向を主応力軸といい,2つの主応力軸は必ず直交する。式(8)より$\cos 2\theta$,$\sin 2\theta$を求めると,

\[\frac{1}{\cos^2 2\theta} = 1 + \tan^2 2\theta = \frac{(\sigma_x – \sigma_y)^2 + 4\tau^2_{xy}}{(\sigma_x – \sigma_y)^2}\]

\[\therefore \ \cos 2\theta = \pm \frac{\sigma_x – \sigma_y}{\sqrt{ (\sigma_x – \sigma_y)^2 + 4\tau_{xy}^2}}\] (9)
\[\ \ \ \sin 2\theta = \pm \frac{2\tau_{xy}}{\sqrt{(\sigma_x – \sigma_y)^2 + 4\tau_{xy}^2}}\] (10)

式(7)に式(9),(10)を代入して整理すれば,主応力$\sigma_1$,$\sigma_2$が以下のように求められる。

\[(\sigma_1, \sigma_2) = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} \pm \sqrt{ \left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2+ \tau_{xy}^2}\] (11)

6 主せん断応力

主応力と同様に,せん断応力の最大値と最小値を主せん断応力と呼び,せん断応力が最大・最小となる面を主せん断応力面と呼ぶ。主せん断応力を求めるために,式(5)を$\theta$で微分し,その結果を0とおくと,

\[\frac{d \tau_{x’y’}}{d \theta} = (\sigma_y – \sigma_x)\cos 2\theta – 2 \tau_{xy} \sin 2\theta = 0\]

\[\therefore \ \tan 2\theta = – \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2\tau_{xy}}\] (12)

この結果より,$\cos2\theta$および$\sin2\theta$が,

\[\cos 2\theta = \pm \frac{ 2\tau_{xy}}{\sqrt{ (\sigma_x – \sigma_y)^2 + 4\tau_{xy}^2 } }\] (13)
\[\sin 2\theta = \pm \frac{ \sigma_x – \sigma_y}{\sqrt{ (\sigma_x – \sigma_y)^2 + 4\tau_{xy}^2 } }\] (14)

の時に,以下の主せん断応力が生じることがわかる。

\[(\tau_1,~\tau_2) = \pm \sqrt{ \left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2 + \tau_{xy}^2 }\] (15)

主応力が生じる面の角度を$\theta_1$,主せん断応力が生じる面の角度を$\theta_1’$とすると,

\[\tan 2\theta_1 = \frac{ 2 \tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y }, \quad \tan 2\theta_1′ = – \frac{ \sigma_x – \sigma_y }{ 2\tau_{xy} }\]

\[\therefore \ \tan 2\theta_1 \cdot \tan 2\theta_1 ‘ = -1\] (16)

すなわち,$2\theta_1$と$2\theta_1 ‘$は直交するから,$\theta_1$と$\theta_1 ‘$は$45^\circ$の角度をなす。つまり,主応力面と主せん断応力面のなす角は$45^\circ$となる。また,式(11),(15)より,

\[(\tau_1,~\tau_2) = \pm \frac{1}{2} (\sigma_1 – \sigma_2)\] (17)

すなわち,主せん断応力の大きさは主応力差の1/2となることが確かめられる。

演習問題 5.1:主せん断応力

$x$-$y$平面内において平面応力状態にある弾性体について考える。一様な応力$\sigma_x=\sigma_0$,$\sigma_y= – \sigma_0$が作用する場合について,主せん断応力の大きさと主せん断応力が生じる面の法線方向と$x$軸とのなす角度を求めよ。

(答:$\displaystyle \boldsymbol{\left[ \begin{array}{c} \tau_1 \\ \tau_2 \end{array} \right] = \left[ \begin{array}{c} \sigma_0 \\ -\sigma_0 \end{array} \right], \quad \left[ \begin{array}{c} \theta_1 \\ \theta_2 \end{array} \right] = \left[ \begin{array}{c} 135^\circ \\ 45^\circ \end{array} \right]}$)


<フェロー>

荒井 政大

◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授

◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。


 

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