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2019/6 Vol.122

【表紙の絵】
ソーラーケータイじゅう電システム

石井 智悠 くん(当時8 歳)

この前あつかったので、ケータイがあっつくなっていたので「そのねつをうまくつかってじゅうでんできたらな。」と思ったのでこの絵を描きました。

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やさしい材料力学

第6回 モールの応力円



本連載を書籍化した、「基礎からの材料力学 (JSMEやさしいテキストシリーズ) 」が発行されました。機械工学への新たな一歩を踏み出す学生の方々、学びなおしの一冊として教科書をお探しの社会人の方々にふさわしい新定番の教科書です。 Kindle版 / 単行本(ソフトカバー)版 


1 はじめに

前回は弾性体に2次元的な応力が作用する場において,応力の座標変換の一般式を示し,主応力や主せん断応力の計算式を導出した。本稿では,主応力や主せん断応力を作図によってより簡便に求めるための方法を紹介する。

2 モールの応力円

前回の講義より,角度$\theta$の面(面の法線が$x$軸となす角が$\theta$である面)の垂直応力$\sigma_{x’}$は以下のようになる。

\[ \sigma_{x’} = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} + \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \cos 2\theta + \tau_{xy} \sin 2\theta \] (1)

上式に三角関数の合成則を適用すると,

\[ \sigma_{x’} = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} + \sqrt{\left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2 + \tau_{xy}^2} ~ \sin \left( 2\theta + \alpha \right) \] (2)

ここで,

\[ \tan \alpha = \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2 \tau_{xy}} \] (3)

である。さらに,$\alpha = \pi/2 – \beta$とおいて変形すると,

\[ \sigma_{x’} = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} + \sqrt{ \left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2 + \tau_{xy}^2} ~ \cos \left( 2\theta – \beta \right) \] (4)

同様に,角度$\theta$の面におけるせん断応力$\tau_{x’y’}$についても以下のように導出される。

\[ \tau_{x’y’} = \sqrt{ \left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2 + \tau_{xy}^2 } ~ \sin \left( 2\theta – \beta \right) \] (5)

ただし,

\[ \tan \beta = \frac{2\tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y} \] (6)

式(4),(5)から明らかなように,水平軸に$\sigma_{x’}$を,垂直軸に$\tau_{x’y’}$をとり,中心を水平軸上に$(\sigma_x + \sigma_y)/2$だけシフトした半径$\sqrt{ \{ (\sigma_x – \sigma_y)/2 \}^2 + \tau_{xy}^2 }$の円を描けば,これがモールの応力円となる(図6.1参照)。応力円上の着目点の水平軸上への射影点が$\sigma_{x’}$,垂直軸上への射影点が$\tau_{x’y’}$となる。モールの応力円上の着目点の角度“$2\theta$”は,反時計回りを正と定義する。$2\theta = 0$,$\beta= \tan^{-1} 2\tau_{xy}/(\sigma_x – \sigma_y)$の位置(図6.1の点P)がもともとの与えられた応力場$\sigma_x$,$\sigma_y$,$\tau_{xy}$を表す点となる。なお,本稿の定式化では,角度$\theta$について反時計回りを正と定義しているため,せん断応力軸については下向きが正となる点に注意されたい。

図6.1 モールの応力円の作図

垂直応力の最大値と最小値,すなわち第一主応力$\sigma_1$と第二主応力$\sigma_2$はそれぞれ,

\[
\begin{split}
(\sigma_1, \sigma_2) &{} = \overline{\rm OC} \pm \overline{\rm CP} \\
&{} = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} \pm \sqrt { \left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2 + \tau_{xy}^2}
\end{split}
\]
(7)

同様に,主せん断応力$\tau_1$,$\tau_2$は,

\[ (\tau_1, \tau_2) = \pm \overline{\rm CP} = \pm \sqrt { \left( \frac{\sigma_x – \sigma_y}{2} \right)^2 + \tau_{xy}^2} \] (8)

主応力は$x$軸上の点Aと点B,すなわち,

\[ \theta_1 = \frac{\beta}{2} = \frac{1}{2} \tan^{-1} \frac{2\tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y} \] (9)
\[ \theta_2 = \frac{\beta}{2} + \frac{\pi}{2} = \frac{1}{2} \tan^{-1} \frac{2\tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y} + \frac{\pi}{2} \] (10)

の角度で生じる。一方,主せん断応力は主応力と$45^\circ$をなす点Qおよび点Q,すなわち

\[ \theta’_1 = \frac{1}{2} \tan^{-1} \frac{2\tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y} – \frac{\pi}{4} \] (11)
\[ \theta’_2 = \frac{1}{2} \tan^{-1} \frac{2\tau_{xy}}{\sigma_x – \sigma_y} + \frac{\pi}{4} \] (12)

の角度で生じる。最後に,モールの応力円を用いた主応力の求め方について,要点を以下にまとめておく。

  1. 与えられた応力$(\sigma_x, \tau_{xy})$および$(\sigma_y, {-}\tau_{yx})$を$\sigma-\tau$平面上にプロットする(せん断応力$\tau_{x’y’}$と$\tau_{yx}$は正負の定義が逆向きなので,$y$軸に垂直な面に作用するせん断応力$\tau_{yx}$にはマイナスが付く)。
  2. 上記の2点を結ぶ線分を直径とするモールの応力円を描く。ちなみに,円の中心は必ず水平軸上にとられることに注意すること。
  3. モールの応力円が水平軸と交わる点において垂直応力の最大値が第一主応力,最小値が第二主応力となる。
  4. 応力円上で,せん断応力が最大の点が第一せん断主応力を,せん断応力が最小となる点が第二せん断主応力を表す。

つまり,直交$x$-$y$平面上で2つの垂直応力$\sigma_x$,$\sigma_y$とせん断応力$\tau_{xy} = \tau_{yx}$が与えられるので,これらの値を$\sigma-\tau$座標軸上にプロットすることによって応力円の直径を決める。その直径を基準に応力円を描けば,水平軸,垂直軸それぞれに対する正射影を求めることによって主応力と主せん断応力を求めることができる。

3 種々の例題

例題6.1:2軸の垂直応力を受ける長方形板

図6.2に示すような長方形板の$x$軸に垂直な面に引張応力$\sigma_x = 40$MPaが,$y$軸に垂直な面に引張応力$\sigma_y = 20$MPaが作用している。この板における主せん断応力の大きさと,主せん断応力が作用する面の角度(その面の法線ベクトルが$x$軸となす角度)を求めよう。

図6.2 2軸の垂直応力を受ける長方形板

$(\sigma_x, \tau_{xy}) = (40, 0)$[MPa],および$(\sigma_y, {-}\tau_{yx}) = (20, 0)$[MPa]の2点を直径の両端とする円を描けば,これがモールの応力円となる(図6.3参照)。円の半径は10MPaであるから,主せん断応力は以下のようになる。

\[ \tau_1 = 10{\rm MPa}, \quad \tau_2 = -10{\rm MPa}\]

\[ \theta_1 = -45^\circ, \quad \theta_2 = 45^\circ \]

図6.3 モールの応力円(例題6.1)

例題6.2:垂直応力とせん断応力が作用する問題

図6.4に示すように,弾性体内のある一点において,垂直応力$\sigma_x = 57.7$MPa,せん断応力$\tau_{xy} = \tau_{yx}=50$MPaが作用している。この点における主応力,主せん断応力の大きさと,主応力,主せん断応力が作用する面の角度(その面の法線ベクトルが$x$軸となす角度)を以下の手順により求めよう。

図6.4 垂直応力とせん断応力が作用する問題

$(\sigma_x, \tau_{xy}) = (57.7, 50)$[MPa],および$(\sigma_y, {-}\tau_{yx}) = (0, {-}50)$[MPa]の2点を直径の両端とするモールの応力円は図6.5のようになる。よって主応力と主応力面の角度は,

\[ \sigma_1 = 86.6{\rm MPa}, \quad \sigma_2 = -28.9{\rm MPa} \]

\[ \theta_1 = 30^\circ, \quad \theta_2 = 120^\circ \]

主せん断応力と主せん断応力面の角度は以下のとおり。

\[ \tau_1 = 57.7{\rm MPa}, \quad \tau_2 = -57.7{\rm MPa} \]

\[ \theta’_1 = -15^\circ, \quad \theta’_2 = 75^\circ \]

図6.5 モールの応力円(例題6.2)

演習問題 6.1:モールの応力円

以下の3通りの2次元応力状態についてモールの応力円を描き,主応力と主せん断応力を求めよ。

(1) $\sigma_x = \sigma_0$,$\sigma_y= -\sigma_0$,$\tau_{xy}=\tau_{yx}=0$

(2) $\sigma_x = \sigma_y = \sigma_0$,$\tau_{xy}=\tau_{yx}=0$

(3) $\sigma_x = \sigma_0$,$\sigma_y=0$,$\tau_{xy}=\tau_{yx} = 0$

<解答例>

 


<フェロー>

荒井 政大

◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授

◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。


 

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