特集 3.11から10年、「安全」を取り巻く環境、意識はどう変わったか
事故調査の意義と課題
事故調査の意義と制度
事故の再発を防止する上で有効かつ有益な取り組みの一つは、既発事故の原因を分析し、そこから同種事故の再発防止や、別種事故の発生防止に役立つ知見と教訓を得るための事故調査活動である。後述するように、事故調査そのものは19世紀以降行われるようになったが、国際的に常設の事故調査機関が設立されるのは20世紀後半になってからである。特に1990年代に各国でシステム整備が進み、事故調査の理論や手法も深化した。こうした動きは、日本では少し遅れて2008年頃から2015年頃にかけて進展し、4つの常設の事故調査組織が設置された。しかし、意外なことにこうした動きは、あまり社会的には知られていない。本稿では、我が国の事故調査の発展に多少なりとも関わってきた経験を踏まえ、事故調査の意義と課題について述べる*1。
事故調査には、①公的な常設の第三者機関が行うもの、②臨時に設置された公的な第三者機関が行うもの、③政府・行政機関が行うもの、④事故を発生させた当事者が行うもの、⑤民間の第三者が行うもの、などがある。また、これらとは別に、刑事法体系が整った国々では、事故により死傷者が発生した場合には、業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問うために、警察による捜査が行われる。これにより、事故原因が一定程度解明されることもあり、警察捜査も「事故調査」の一種であるといえる。
以上のうち、もっとも重要なのは、法的な根拠を持つ公的な第三者機関による事故調査である。第三者機関による事故調査は、その目的を責任の追及ではなく事故の再発の防止に置いており、調査により得られた知見は、そのために活用される。一方、警察による捜査は、捜査の範囲が法令違反や具体的予見可能性の有無に絞られること、捜査の目的が刑事責任の追及に置かれているため、得られた知見が必ずしも事故の再発防止には活用されないことなど、事故の防止という観点からは限界がある(1)。
ところで、広義の「事故調査」は、人間の文明の歩みと共に始まっている。すなわち、例えば建築物などの人工物が壊れた場合、その原因を調べて得られた知見が、その後の改良に活用されていた。しかし、今日的な意味での事故調査が行われるようになったのは、人間が機械エネルギーに基づく大量の人工物を利用するようになった19世紀以降のことである。特に、20世紀に入って輸送手段が大型化・高速化したことで、海難事故や航空事故が発生すると多くの犠牲者が出るようになったことから、運輸部門を中心に本格的な事故調査が行われるようになった。
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
ラチェット
年代未詳/真鍮、鉄、木製台座/H315, W245, D150 (mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ二一四」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]