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2022/3 Vol.125

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特集 カーボンニュートラルへの道 “省エネの視点から”<電気学会 合同企画>

日本機械学会・電気学会 会長対談「社会課題解決に不可欠な工学系連携」

日本機械学会と電気学会は、工学系学会の中にあって基礎的かつ広範囲な基盤技術を司る学会として永年にわたり活動しており、学問領域および産業応用領域において近い存在である。2004年から両学会による連携活動(会長懇談会)を実施してきた。今回、両学会が課題としている「若手技術者にとって魅力ある学会活動」、「アフターコロナの学会活動」、「カーボンニュートラルへの学会としての取り組み」について、両会長が意見交換を行った。

(2021年10月12日 オンライン会議システムで実施)

 

司会:電気学会 副会長 大森 隆宏

(株)日立製作所 パワーグリッドビジネスユニット電力流通事業部電力パワーエレクトロニクス本部 主任技師

参加者:

電気学会 会長

大崎 博之

東京大学 大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻 教授

日本機械学会 会長

佐田 豊

(株東芝 執行役員 研究開発センター所長

 

若手技術者にとって魅力ある学会活動

佐田:本日は産業界の立場から学会活動についてお話ができればと思っています。私は大学で博士課程まで機械工学を勉強した後に東芝の研究所で勤務しました。入社後しばらくしてから何度か機械学会の講習会に参加することで非常に多くの刺激を受けたことが記憶に残っていて、学会は企業においても貴重な交流の場所だったと認識しています。本会では、2019年に本会特別員(法人会員)に対して、若手技術者向けの基礎的な講習会に関するアンケートを行ったのですが、回答の70%が学会による基礎教育に関する講習会を必要としており、44%が社内教育のコンテンツに不足があるという結果となりました。そのほかにも、38%が技術開発における課題の具体的な相談相手を探していると回答したにもかかわらず、そのほとんどが学会にその部分を期待していないという結果になりました。これは、学会は企業のニーズにアンテナを張れていなかったということかと思います。企業の課題を吸い上げて、学会として取り組める仕組みを考えているところです。

大崎:私は若い頃、主に研究発表の場として電気学会を活用してきました。講演会に参加した時に著名な先生方とお話できる貴重な場でしたし、交流を通じて知り合った方々とは今もお付き合いさせていただいています。電気学会も機械学会と同様に若手技術者の教育が課題です。部門の中には、企業の若手技術者や博士課程の学生を対象に、『モータ道場』のような『〇〇道場シリーズ』を企画して、全国で基礎講義と工場見学を実施している例があります。参加者同士が密に人的ネットワークを構築できるように参加者を20名程度の少人数に限定するといった工夫も凝らしています。こういった良い取り組みを学会全体で共有し、さらに展開できるとよいと考えています。

佐田:『〇〇道場』というネーミングがいいですね!本会でも参考にさせていただきます。機械学会では若手が雑用ではなく中心的に活動できるように、2015年から「若手の会」を発足しました。年次大会で、若手の会が関心のある講演会を企画したり、最近では電子情報通信学会の「若手の会」とミーティングして課題を共有したりと、楽しんで活動してもらっています。このように若手をどんどんエンカレッジしていきたいと考えています。本会では会員数が減少傾向にありますが、実は大学所属会員数は変わらず、主に企業所属会員が減少しています。会員が減ってしまったということは、コミュニティの能力・価値が下がってしまったということです。どうすれば企業所属会員に戻ってきてもらえるか、最近の理事会の主な話題になってしまっています。

大崎:かつては会社の上司が学会への入会を促すなどの方法がとられていたようですが、今ではそういったやり方は難しいですね。

佐田:私自身は産業界に身を置いているので、どうにかしたい気持ちはあるのですが、一筋縄ではいきません。

大崎:先ほど、大学所属の会員数は変わらず、企業所属会員数が減少しているというお話がありましたが、大学の電気関係分野では情報系がどんどん拡大して、20年ほど前から比べると細かい分野構成が変わりましたので、電気学会に深く関わる先生の数が減少しているのは否めません。学会としては従来からの分野を大事にしつつも、領域を広げていかないといけないと思っています。機械学会は非常に幅広い分野を扱っていらっしゃる印象を持っていますので、電気学会でもしっかり考えていきたいと思います。

佐田:人材の話としては、2018年に経済産業省が実施した社会人を対象とした理工系人材の需供実態アンケート調査によると、技術系職場で必要とされる専門分野として機械・電気系がトップに挙げられていました。企業の需要は今後も強いけれども電気系学科の定員は減少しているように感じます。

大崎:多くの大学の先生方もこのミスマッチを認識されています。ただ、学生を集めること、来てもらうことも大事なので、学生からの人気も意識せざるを得ません。一方、学生とその家族はマスコミが報道するキーワードに影響されがちです。情報技術に触れる機会も増えていますので、情報系を志望する傾向もあります。

佐田:機械・電気の仕事が魅力的だということが社会に伝わらないといけないですよね。

表1 学生員、若手会員の活性化方策

アフターコロナ

大崎:学会活動は新型コロナの影響を大いに受けてしまいました。その対応の中、デジタル技術を学会の中でもっと活用していくことが大事だと痛感しました。新型コロナのパンデミックがなければ、学会活動を含む社会活動がこのようなスピードで変化することはきっとなかったでしょう。また一方で、Face to Faceの重要性にも改めて気づきました。コロナ後の学会運営としては、単純に対面に戻すのではなく、対面とオンラインの良さを活かし、ハイブリッド形式も取り入れて、参加者間のインタラクションが高まる方法を採用したいと考えています。ただ、部門大会などをハイブリッド形式で開催したところ、運営の負担がかなり大きかったと聞いています。今後はそういった新しい形式での取り組みについてのノウハウの蓄積を期待したいですね。発表者の立場としては、オンライン発表の動画を作ることなどにも慣れてきたので、デジタル配信などをさらに活用するなど、会員サービス向上を図りたいと思っています。

佐田:2〜3週間前に、ある国際会議で挨拶するための動画を研究所の若手社員に作ってもらったんです。動画制作に慣れてきたようであっという間に編集してくれました。機械学会は、2022年3月までは基本的にオンライン開催を継続しますが、その背景には従前の方法に戻すのではなくさらにデジタル化を進めてもらいたいという意図もありました。オンライン開催形態には長短ありますが、やはり移動時間が制約されないことが最大の長所です。2022年4月からはオンライン開催に加えて、ハイブリッド開催も推奨しますが、どこまでの範囲をカバーできるか悩ましいところです。

大崎:オンライン開催のメリットについては同感です!国際会議は時差の問題がありますが、やはり時間の節約は大きいですよね。他方で、例えば支部活動として実施されている若手向けの交流イベントはオンラインでは物足りないところがあります。交流を通じて直接の刺激を受け、それによって学会の意義を感じてもらえるわけですからね。

佐田:機械学会は毎年3月に学生向けの卒業研究発表を行っているのですが、2020年度のオンライン開催はあまり評判は良くありませんでした。やはり交流・知り合うということが重要です。オンライン開催でも、インタラクティブにかなう運営システムができるとさらに進歩すると思います。社会全体としては、アフターコロナの視点だけでなく、カーボンニュートラル、SDGs、サーキュラーエコノミー、ESG投資など企業の経済活動が方向転換しているので、そういった動きに対応しないと学会として先細りになっていくのが見えています。産官学で連動して社会課題に対応しないといけません。この動きに学会として俊敏に対応できるかが問われていると思います。

大崎:学会全体でそういった動きに対処することは大事ですが、学会内の部門のように少し規模が小さく、自由度のある組織で進めると動きやすいのではないでしょうか。同じような考えを持った方がいるはずなので、学会がそういう動きをサポートできると良いですね。

佐田:社会課題に対応するためには機械系技術だけでは不可能なので、新しい工学体系が必要になってくるのかもしれません。工学系で連携していく必要があります。協力していきましょう!

カーボンニュートラルへの学会としての取り組み

佐田:私も電気業界に身を置いていますので、カーボンニュートラルについて問いかけられると深刻な状況だとしか言えないところがあります。2050年にカーボンニュートラル…、2030年までにCO2排出量46%削減…などの指標を達成するために、真剣に悩んでいます。どういう戦略で企業の成長と社会課題を両立できるかが問題です。単純に火力発電を止めて大量の二次電池を配置するということではないですから。達成のためには、長寿命化やシェアリングエコノミーなどの新しいモデルが求められます。電動化が一つのキーワードと思いますが、機械学会としては需要側なので、電気学会とのタイアップは必須です。機械系だけでは到底解決できません。

大崎:電気学会としても、企業が今後どのように電動化に対応していくのかが課題です。また、電動化が進めば電力・エネルギーをどうするのかという問題に戻ってきます。社会経済システム全体としてどうなっていくのか、非常に難しい課題です。現在は再生可能エネルギーを取り入れた電気料金を利用者が負担しているわけですが、さらなる負担を消費者が納得するのかという視点も含めて制度やシステムを考えていく必要があります。カーボンニュートラルは2050年を目標に掲げているので急がなければいけませんが、しっかりとした議論も必要です。一方、欧州や中国では新しい市場が生まれて、それをどんどん取っていく動きが出ています。

佐田:企業としては、コストを含めて将来リターンできるものしか売れません。脱炭素は議論すべきテーマが多く、議論の道筋をつけるのが非常に難しいですね。以前に半導体技術組合に参加した経験がありますが、あの時はロードマップを共有して進めたことが大きかったです。ロードマップを描く基盤があれば、イノベーションが生まれていくと思います。欧州の世界観を日本に取り入れる姿勢になってしまうと、市場を取られるわけですから、日本ならではのカーボンニュートラルの世界観を描いていかないといけないですね。

大崎:学会単独で取り組むのは難しいと感じます。電気学会では研究・イノベーション学会と連携してカーボンニュートラルのシンポジウムの開催を計画しています。パネルディスカッションも予定されていますので、具体的にどういうアクションが取れるのかもそこで議論したいですね。また、日本学術会議にカーボンニュートラルに関する連絡会議が立ち上がっていますので、今後、どのようなメッセージが出てくるのか注目しています。

佐田:機械学会では、学会横断テーマの一つに「持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装」を掲げ、カーボンニュートラルに向けた議論を重ねていますし、関係する部門でも局所的に議論が行われています。パネルディスカッションでいいので、いろんなところで議論することが大事だと思っています。機械学会と電気学会が、同じテーマで議論することが出発点になるでしょうね。

大崎:これについては多様な意見があり、アプローチもたくさんあります。

佐田:私は4年間ほど当社のケンブリッジの研究所に在籍していたことがあります。研究所の所長はケンブリッジ大学のプロフェッサーだったので、彼が所属しているカレッジの夕食会に連れていってもらったんですが、その夕食会ではいろんな学部の先生方が一緒に同じテーブルでご飯を食べながら話が盛り上がっていたんですよ。そういう場が新しいアイデアを生み出すんだなと実感しました。こういう横断的な場がイノベーションを生むのだと思います。新しい方向が求められる時には、カレッジのような場が大事ですよ。

大崎:カレッジのような歴史のあるシステムから学ぶところがありますね。しかし、皆さん忙しいので集まることが難しいという状況が現代の悪いところです。

佐田:ただ夕食を食べているだけなんですが、「夕食を食べている」ということこそが大事なのかもしれませんね。むしろオンラインを生かして、そういう場を作れないでしょうか。

大崎:そうなると、対面が良いという要望が出てくるかもしれませんが、「交流の場」を作ることが重要なのですよね。

表2 カーボンニュートラルへの取り組み

若手会員へのメッセージ

大崎:本日の意見交換では、学会に関わる様々な課題を挙げましたが、その重要性をわかってもらうだけでなく、学会が魅力的だと思ってもらうことが大事ですよね。学会には若手に明るい未来を示す責務があります。学術的な面白さ、技術の背景にある面白さが見えにくい場合もありますが、基礎的な部分の重要性を再認識してもらいたいです。そこに学会がどう関われるかが問われます。

佐田:機械工学は扱っているシステムが複雑で多くのモデルを使います。工学モデル、設計モデルで解決できない時に飛躍が求められますが、無謀にはできないので、基礎となる学術知識が重要になります。大崎先生のおっしゃるように、基礎的な部分の重要性を認識しながら発想の自由度を高めてもらいたいです。機械学会としては若手の活動をどんどんサポートしていきたいです。機械学会は会長の任期は1年なので、もうあと半年で終わってしまいます。任期中に本日の議論の中のどれか一つは実現したいです。

大崎:電気学会も同じくあっという間に任期が終わります。本日の貴重な意見交換の結果を、今後の活動にできるだけ反映し、そして次に引き継いでいきます。本日はありがとうございました。

表3 学会概要

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