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2022/3 Vol.125

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特集 カーボンニュートラルへの道 “省エネの視点から”<電気学会 合同企画>

デジタル社会を支えるICTシステムとその省エネ化の動向

廣瀬 圭一(新エネルギー・産業技術総合開発機構)

はじめに

現代社会に欠かせないICTとエネルギーについて考える

2021年5月19日、令和三年法律第三十五号として、「デジタル社会形成基本法」(1)が国会で成立、同年9月1日に施行され、国、地方公共団体および事業者の責務や施策の策定、実施などへの方向性が定まった。

この法律では、デジタル社会を「インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信するとともに、先端的な技術をはじめとする情報通信技術を用いて電磁的記録として記録された多様かつ大量の情報を適正かつ効果的に活用することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会」と定義している。

この定義を噛み砕くと、デジタル化とは、ICT(Information and Communication Technology)の進展と利用拡大により、ヒト・モノ・コトの情報がつながることで、付加価値の高いサービスやビジネスモデルの創造、また、業務プロセスの効率化や高度化を実現すること、と言える。

また、現実の社会におけるさまざまなアナログ的な対象は、インターネットに接続された情報通信機器端末を介し、デジタル変換することで、コンピューターで処理できる形になる。デジタル情報の特徴は、処理のスピードが早く、さまざまな変更・加工に対応しやすく、情報の劣化が無く、蓄積・保存を可能とするなどである。

過去からも大型コンピューター、電算センター、また、パーソナルコンピューター(スタンドアローン形態)などを用いた業務処理、数値解析・計算での利用はあった。近年、光や無線による通信技術の発展、またインターネットの汎用化による通信インフラが高度に発展し、また、安価に使用できる環境が整ったこともあり、コンピューターやICT端末がネットワーク化され、データや情報が大量に流通することになった。これにより、情報の価値が高まることを、我々は多くの利用シーンで実感している。「情報」と「通信」の技術、すなわち、ICTは、デジタル社会の形成、日々の暮らしや社会・経済活動に必須のアイテムとなっている。

ICTは、システムやデバイス、またアプリケーション、ソフトウェアなど多岐に渡るが、機器、装置、設備などのハードウエアを駆動するには、安定したエネルギー、特に電力が得られることが大前提である。

本稿では、ICT分野のエネルギー消費と省エネや効率向上、また脱炭素やグリーン化に向けた取り組みについて紹介し、現代社会におけるICTの重要性とそこで使われるエネルギーの諸課題についての意識の醸成を目的としたい。

ICTの利用とエネルギー消費の動向

ICT分野のエネルギー消費をマクロの視点で認識する

近年、ICTシステムの使用頻度が増えている。24時間、365日、世界のいたる所でデータが行き交い、処理されている。データは、決して眠らない。この現状を解説するData never sleep (2)というDomo社による年次分析レポートWEBサイトがあり、データ処理量や主要なアプリケーションの使用状況について、カラフルなイラストを添え、分かり易く示している。この報告は、2011年から始まったが、その当時、全世界のインターネット利用ユーザは、21億人であった。2021年度版では、約52億人に増え、全世界人口の65%が何らかの形で、インタ—ネットを利用していることになる。

1分間当たりの全世界の電子メッセージは、1,200万通にも及ぶ。また、2020年は、コロナウイルスの影響もあり、業務においてはテレワーク、オンライン処理・決済、また学校や行事・イベントは、オンライン型のアプリケーションが多用され、会議、教育、イベントなどが頻繁に開催されるようになったが、これらの動向もData never sleepのWEBサイトで伺うことができる。

さまざまな分野で利用されるICTシステムについて、以下①〜③のように三つのレイヤーに分類することができる(図1)

図1 ICTサービスの機能レイヤー

 

例えば、インターネットで電子メールや検索サービスを利用する場合、ICT端末機器・デバイス ⇔ 通信NW ⇔ データセンターの間をデジタルデータ、情報が行き交うことになる。

ICTシステムの設備容量が大きく、大量の電力を消費するデータセンターは、世の中のデジタル利用の拡大により、その建設件数、また運用数が年々増えている。データセンターのエネルギー面からの特質は、数10 MW以上の大容量の負荷(需要家)となること、また、単位面積あたりの負荷密度が他の業種に比べて極めて高く、施設内では、部分的に数kW/m2以上に達することもある。

データセンターで運用される機器は、情報処理や各種サービス用のサーバーや情報蓄積のためのストレージ、通信機器などであるが、一度運用を開始したら、基本的には24時間365日止まることなく動き続けるため、データセンターへ供給される電力の信頼性・品質は、極めて高いレベルが求められる。すなわち、供給されるエネルギー(電力)の量と質の両面で安定性を確保する必要がある。

これらの施設には、停電や電源トラブルに備えたバックアップ電源設備、またICT機器の動作に伴い発生する熱処理・冷却のための空調設備も併設されている。ICT機器内部のCPUやメモリなどで処理された仕事は、最終的に熱となる。ICT機器は、電力消費の観点でみると、電熱器やアイロンと同じである。そのICT機器類の冷却や排熱処理のための空調設備にも大量のエネルギーを要するため、電気料金を中心とし、データセンターの運用コストが高額になる傾向にある。

これらの施設では、ICT機器・装置で消費されるエネルギーに加え、空調設備、バックバックアップ電源、照明、ビル付帯設備などへも電力・エネルギーを必要とする。データセンター業界では、これらの比をPUE(Power Usage Effectiveness)として次式のとおり、施設のエネルギー運用効率の目安としている。

PUEの値は、1.0が理想であるが、実際の運用では、1.2〜2.0程度となることが多い。ICT機器自体の省エネやシステムの運用効率を高めるとともに、空調・冷却方式の工夫(例えば、寒冷地の低温の外気取り入れ、気流の高率的な搬送、水冷・油冷方式の採用など)、およびバックアップ電源の電力変換損失の低減などの取り組みがなされている。ICTシステムのエネルギー消費の概念と主な省エネ、エネルギー効率改善の施策を図2に示す。

ICT分野の電力消費量は、システムの利用頻度の増加、データトラフィック量に比例し、世界全体で右肩上がりに増えている。ICT分野の国内電力消費量の試算の一例(3)(4)を表1に示す。現状では、全電力消費の4%程がICT分野の割合であるが、2030年、2050年にはトラフィック拡大の成り行きで算定すると、2016年時点の総電力消費量に対して、150%、17600%となり、想像しがたい莫大な数値になってしまう。ICT分野は、年々拡大する成長産業分野であることから、従来にも増して、積極点な省エネや環境面へ配慮・対応が不可欠である。

なお、巨大IT企業が多い米国には、世界の約4割のデータセンターが集中していると言われている。次いで、中国、日本は三番目である。ちなみに、中華人民共和国のデータセンターの電力消費量は、2016年に世界最大級の水力発電設備を有する三峡ダムの年間発電量を超え110 TWhとなり、2017年には130 TWhに達する見込みである。

図2 ICT施設におけるエネルギーフローと改善対策例

表1 国内のICT分野の電力消費量の試算(3)(4)

ICTシステムへのエネルギーフローと消費

ICTのエネルギー消費を身近なモノに換算してみる

ICTシステム、すなわち情報と通信は、需要側の負荷として、従来の照明、電熱、動力に加え、電力消費の内訳で大きな割合を占めつつある。これらのICTシステムや施設に電力を供給する場合、さまざまな問題、課題が顕在化してきた。

データセンターは、利便性や通信の遅延を避けるため、都市部に近いエリアに建設されることが多い。近年は、通信インフラが整った郊外に設置されるケースもあるが、電力供給については、輸送量制約(送配電網の容量)もあり、計画通りにデータセンターの建設や運用ができない場合もある。このため、海外では、水力や原子力などの発電所近傍にデータセンターを新設することもある。

本分野のエネルギー効率改善のため、ICT機器内部のCPUやメモリで仕事を行うまでのエネルギーフローから利用効率の現状を理解することが重要である。

火力発電を一例とし、発電用の燃料からICT機器内部の消費に至るまでのエネルギーフローの概略を図3に示す。典型的な火力発電の効率は40%程度であり、また送配電線などの電力流通網でも4%程度(5)の損失がある。よってデータセンターなどICT用施設の入力(受電)点では、化石燃料が本来もつ1次エネルギーの1/3程度の供給となる。

前述したとおり、ICT施設では空調やバックアップ電源などの付帯設備も必要となるが、ICT機器の内部でも搭載電源による変換(例:AC100V → DC5V、12Vなどへの変換)、空冷用ファンの駆動などで損失が生じるため、CPUやメモリへの供給される電力は、1次エネルギーに対してさらに減少し、最終的に10%程度の利用率となってしまう。

CPUやメモリなど、エネルギー消費部に近いポイントへ電力を供給することは、上記のエネルギーフローからも無駄が少ない。図3の(A)、(B)で示した矢印は、既存の電力系統からの依存度を抑えるため、需要点の近傍、もしくはICT機器に直接、太陽光発電や風力発電などの分散型電源などにより電力を供給する場合の例である。これらは、1次エネルギー(燃料)の採掘・輸送、また、発電や電力流通に関する損失を避け、効率の高いエネルギー供給方式として期待できる。

図3 1次エネルギー(化石燃料)からICT機器に至るエネルギー利用率(図中の数値は一例を示す)

 

しかし、太陽光や風力など自然エネルギーは、出力が安定しない間欠性を有していること、エネルギー密度が低く、多くの用地を必要するなど立地に制約を受けること、またイニシャル、ランニング両面で経済性が規模や運用条件に依存することから、現時点では、万能で普遍的なソリューションとして完成はしていない。しかし、グリーン電力証書による補完も含め、100%再エネによるICTシステムの運用を行う事業者が急速に拡大しており、世界的なトレンドとなっている。

ICT分野のエネルギー消費の実態について、概要と国内の総量をマクロ的な視点で説明したが、示した数値例は、1 TWh = 10億kWhのオーダーであり、「ゼロ」の桁が大きすぎ、俯瞰はできても、個人個人の実感として感じ取れるレベルまでは乖離があると思われる。

そこで、ICT分野のエネルギー消費に関しての関心を高めて頂くため、個人・身の回りで比較できる物事、尺度に置き換え、定量的な補足を試みる。

データセンターや通信施設などで用いられる機器にはスイッチ、ルーター、ストレージ(ハードディスク、半導体不揮発メモリ)などもあるが、最も台数の多い汎用サーバーを例にとる。

汎用サーバー1台当たりの平均消費電力を200 W、PUEを1.5と仮定する場合、実際には、300 Wの電力を常時消費することになる。この場合、年間の消費電力量 Pは、

となる。国内一世帯(契約口)当たりの年間消費電力量(2015 年度)(6)が2,973 kWhなので、データセンターで1年間に運用される汎用サーバー1台が、概ね1世帯分に相当する。データセンターと一般家庭向けでは、電気料金単価や契約種別などが異なるが、電力の消費量の規模感が理解できる。

なお、国内におけるサーバー出荷台数は、50万台/年であり、運用では5〜6年程度使用されることが多いため、年間300万台のサーバーが駆動していると想定される。

次に、上記のサーバーの電力消費により、どれくらいのCO2が排出されているかを求めてみる。環境省・経済産業省の公表値(7)から、電力のCO2排出係数を0.000445tCO2/kWhとして計算すると、

となる。

一般的には、CO2の1kg がどのようなレベルにあるかイメージしにくいため、燃費が20 km/ℓのガソリン自動車と比較する。ガソリンのCO2排出係数を2.32 CO2kg/ℓとすると、サーバー1台の年間CO2排出量である1,169 kgを2.32で割ると、503.4 ℓ相当のガソリン消費となり、自動車の燃費が20 km/ℓであれば、年間で約10,000 kmの走行距離となる。国土交通省の統計では、自家用車の年間平均走行距離が10,575 kmであることから、サーバー1台の運用と自家用車1台の年走行のCO2排出量がほぼ、同等と言える。

この換算例を図4に模式的に示す。本稿で示したように、ICTシステムの運用により、電力消費やCO2排出を伴うが、同時に、社会の仕組みや構造、業務やプロセスの効率を高めることで、エネルギーの節約やCO2の排出の抑制へ貢献している。すなわち、「Green by ICT」である。ICTシステムは、今後さらなる利用拡大が予測されており、システム自体、またその運用についても、本項で示したような省エネ化、脱炭素化、すなわち「Green of ICT」も必要になる。

図4 汎用サーバー1台当たりのエネルギー消費の換算例

ICTシステムの省エネルギー、脱炭素対策

ICT分野のエネルギー効率向上に向けたR&Dと施策

ここでは、ICTシステム、デバイス・機器、通信NW、およびデータセンターなどの施設に至るまで、技術面、および技術以外の法律や制度、施策の観点でICT分野のエネルギー効率化、すなわち「Green of ICT」について触れる。

(1) ICT機器や通信ネットワークの消費電力削減

従来の通信ネットワークは、歴史的に交換機、伝送装置による公衆交換電話網PSTN(Public Switched Telephone Networks)が中心であった。近年、IP網(Internet Protocol)に移行し、機器設備もルーターやスイッチが主体になっている。IP網を構成する機器・設備類は、トラフィックの処理量に応じた運用やスリープ機能などネットワーク全体でトラフィックに応じ消費電力を抑える管理・運用ができるようになった。ICT 機器の通信や処理の状態に合わせ、待機電力を極小化し、超低消費電力タイプへの置換えや各モード間の遷移時に生ずる無駄を省くことも節電に有効である。

従来のICTシステムは、半導体・電子回路によるデジタル情報の演算・処理を中心としており、多くの損失(熱)を伴っていた。光ファイバによる通信や伝送バスに用いられている光処理の比率を高めることは、消費電力削減・エネルギー効率改善の観点でも有効である。

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)(8)は、最先端の光関連技術および情報処理技術を活用した未来のネットワーク・情報処理基盤の構想であり、ICTシステムや機器の多くの箇所に光電融合デバイスなどのフォトニクス技術を適用し、「低消費電力(電力効率100倍)」、「大容量・高品質(伝送容量125倍)」、「低遅延(エンドエンド遅延1/200)」のネットワークの実現が期待されている。

また、無線ネットワークにおいては、新周波数領域の開拓により、周波数利用効率を向上させ、単位情報量当たりの消費エネルギーを削減することも効果的である。

(2)ICT施設における消費電力削減 

ICTシステム全体では、機器やNW以外に、安定化やバックアップのための電源設備、空調設備、また付帯設備への省エネ化施策も必要である、図2に示したような施策が考えられ、実際にさまざまな取り組みが実施されている。

例えば、直流方式によるICT機器への給電や冷却技術の革新や温度調整により、ICT施設における消費電力を削減する。

また、オンサイト電源(コジェネレーションシステムや再エネ電源)と蓄電池の組み合わせにより、ICTシステムの処理量に合わせた需給調整、寒冷地など地域気候による冷却効率の改善も省エネや脱炭素化に貢献できる。

ICT施設自体のコンソリデーション(集約・統合化)や仮想化技術の活用、企業や団体が所有・運営する個別システム(オンプレミス)からクラウドへの移行など、処理能力やサービスの質を落とさずICT機器台数を削減することも近年の動向である。

また、直接的な技術ではないが、エネルギー消費や効率に関する省エネ法や温対法の改定や低消費電力機器の普及促進(補助や助成)、また、CO2 排出量・資源使用量削減を支援する税制優遇措置などの仕組みも、ICT分野のエネルギー施策として重要である。

今後は、デジタル社会形成基本法の制定により新設されたデジタル庁の牽引のもと、DX(Digital transformation)、カーボンニュートラル、グリーン化などの推進に必要となる研究開発や実証事業の推進と関連人材の育成にも期待したい。

まとめ

「ICT」は、今後のデジタル社会や経済・産業を牽引するためのドライバーであり、地球上のすべての人々に必要とされる「衣食住」や「エネルギー」と同様に、不可欠なアイテムである。

本稿では、ICT利用の全体をマクロ的に俯瞰し、かつ身近な実例に置き換えてミクロの視点でも一人一人が考え、関心をもって頂けるような、きっかけを与えることを試みた。

ICTシステム・機器類の省エネは、「たかが1W、されど1 W」の感覚を持つことが重要である。何処からエネルギーを得て、どの様に消費されているのか、ICT分野が抱えるエネルギー問題の現状や将来の課題など、今後も関心を寄せていただければ幸いである。


参考文献

(1) 令和三年法律第35号 デジタル社会形成基本法,令和3年5月19日

(2) Domo, Inc. WEBサイト,

https://www.domo.com/learn/infographic/data-never-sleeps-9 (参照日2022年1月10日)

(3) 情報化社会の進展がエネルギー消費に与える 影響(Vol.1) - IT 機器の消費電力の現状と将来予測,国研 科学技術振興機構低炭素社会戦略センター,平成 31 年 3 月.

(4) 国際エネルギー機関 (IEA) WEBサイト, Key energy statistics, https://www.iea.org/countries/japan (参照日2021年1月10日)

(5) 約款上の送電ロス率の扱いについて, 電力・ガス取引監視等委員会, 2021年10月1日.

(6) 一世帯あたりの電力消費量の推移, 日本原子力文化財団WEBサイト, https://www.ene100.jp/zumen/1-2-13(参照日 2021年1月10日)

(7) 電気事業者別排出係数(令和4年度提出用), R4.1.7環境省・経済産業省公表.

(8) IOWN構想特集 ─オールフォトニクス ・ ネットワーク 実現に向けた光電融合技術─, NTT技術ジャーナル, 2020年8月.


<電気学会 会員>

廣瀬 圭一

◎(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構

スマートコミュニティ・エネルギーシステム部門 主査

◎専門:電気工学、通信用電源・直流給配電、マイクログリッド、

需要家向けエネルギーシステム など

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