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2022/3 Vol.125

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特集 カーボンニュートラルへの道 “省エネの視点から”<電気学会 合同企画>

熱回収ヒートポンプによる排熱回収システムについて

千原 崇〔三機工業(株)〕

カーボンニュートラルと熱回収システム

政府は2030年までに2013年比46%削減、2050年までにカーボンニュートラㇽを実現するという目標を示している。図1に示すカーボンニュートラルへのイメージでは、電源の脱炭素化や水素エネルギーの活用などを目指す中で、まずは大幅な省エネルギーと化石燃料由来熱源の電化が求められている。

ここで、省エネルギー項目として大いに期待されるのが、熱回収ヒートポンプによる排熱回収システムである。

図2に示すように、冷凍機や生産装置による冷却塔からの排熱、温度の高い排水など、周囲にはさまざまな排熱がある。従来は捨てられていた排熱を熱回収システムによって回収することがこれからのカーボンニュートラル実現にとって有効な手法であると考えられる。

図1 カーボンニュートラルへのイメージ(経済産業省の参考文献(1)を加工して作成)

図2 周囲にある排熱の例

熱回収システムについて

冷凍サイクルと熱回収ヒートポンプの原理

冷凍サイクルと熱回収ヒートポンプの原理を図3に示す。冷媒が凝縮器において気体から液体に相変化する際の凝縮熱を放熱し、蒸発器において液体から気体に相変化する際の気化熱の吸熱によって冷水の温度を下げて冷水を供給する。

通常採用されているターボ冷凍機やチリングユニットなどは凝縮熱は冷却塔や空冷ファンにより大気に放熱される。冷却塔の放熱の場合、冷却水温度は通常37℃程度である。

一方、熱回収ヒートポンプでは凝縮器の放熱温度を冷却塔による放熱の場合よりも高め(45℃以上)にすることで、放熱分を空調温水などに供給することが可能である。温水側が給湯の場合は65℃程度、さらに高温の必要な場合には90℃対応の機種を持つメーカーもある。

温水負荷と冷水負荷とが同時にある場合においては、熱回収ヒートポンプを採用することで特に大きな省エネルギーが可能となる。例えば、圧縮に必要なエネルギーを1、吸熱量を4とすると放熱量は4+1で5となるため、1のエネルギーで4の冷水と5の温水を供給できる。

図3 冷凍サイクルと熱回収ヒートポンプの原理

 

熱回収システムの考え方

図4に示すように、冷水が冷凍機から供給され、冷却塔などで大気に放熱される熱源システムでは、温水や給湯が必要な場合は別に温水ヒータで供給されている場合が多い。

 この場合、熱回収ヒートポンプを導入することで、冷水を製造する放熱で温水を供給する事ができ、温水ヒータのエネルギー削減が期待できる。

図4 一般的な熱源システムと熱回収システム

 

熱バランスの問題点と冷主/温主切替制御

一般には冷水負荷と温水負荷とが同時に発生する場合でも冷水負荷と温水負荷は供給先の要求で発生するため、熱回収システムにとって望ましい負荷のバランスとなるケースは少ない。図5に示すように1日の中でも温水負荷が多い時間帯と冷水負荷が多い時間帯とが存在する。

熱回収ヒートポンプにおいては、冷水側と温水側の負荷がバランスをしなければ、頻繁に機器の発停を繰り返してしまう。

図6に冷水負荷より温水負荷が小さい場合の熱回収ヒートポンプの運転負荷率の状況を示す。1日に数度の発停を繰り返している。頻繁に発停を繰り返すことは、機器の効率低下と圧縮機の故障の原因となる。圧縮機保護のために一定の停止時間を設定する場合が多く、その間に待機していた他熱源が追加起動してしまう場合もあった。

そのため、熱回収ヒートポンプ導入時には放熱用冷却塔の設置を検討する。しかし、現実には図7に示すように、熱源機械室は下層階にあり、冷却塔を設置する屋上階と離れているため、配管ルート、床・壁開口、屋上荷重などの施工上の問題、工事コスト面から既存建物への放熱用冷却塔の設置は極めて困難である場合が多い。

このため、冷水負荷と温水負荷の小さい方に合わせて冷水側の出口温度を主体に制御する場合(冷水基調)と温水側の出口温度を主体に制御する場合(温水基調)とを自動的に切り替える機能(基調切替制御)をもった機種を採用した。図8に基調切替制御の概念を示す。

図9に基調切替制御を導入した場合の冷水出口温度と温水出口温度の変動状況の事例を示す。8:30ごろに冷水基調から温水基調に切り替わり、22:00ごろに冷水基調から温水基調に切り替わっている。

冷水基調時は温水温度は成り行き、温水基調時は冷水温度は成り行きになる。冷水の上限温度や温水の下限温度を越えると他熱源を追加運転するが、実際には設定温度と上下限温度との間には幅があり、他熱源を運転することなく、熱回収ヒートポンプだけで熱源の冷水と温水の供給を継続できている。

 

図5 冷水負荷と温水負荷の熱バランスの変動

図6 冷水負荷より温水負荷が少ない場合の負荷率状況

図7 放熱用の冷却塔を設置する場合の概念図

図8 基調切替制御の概念

図9 基調切替制御と温度変動

熱回収システムの採用事例

事例A:熱回収ヒートポンプを付加

図10に既存熱源に熱回収ヒートポンプを増設する事例Aの概念図を示す。冷房熱源として冷凍機、給湯・暖房熱源として温水ヒータがあるシステムに熱回収ヒートポンプを増設した場合である。

給湯・暖房に供給していた温水ヒータの燃料を削減できる。

事例B:生産装置の排熱を熱回収

図11に生産装置の排熱を熱回収する事例Bの概念図を示す。生産装置からの放熱用に冷却塔またはチラーがあり、給湯・暖房用に温水ヒータまたはボイラがあるシステムに熱回収ヒートポンプを増設した場合である。

熱回収ヒートポンプを導入することで、給湯・暖房・生産用温水に供給されていた温水ヒータまたはボイラの燃料を削減できる。

生産装置としては、冷却が必要な生産装置のほかに、水冷式の圧縮機、水冷式の冷蔵庫・冷凍庫なども挙げられる。

生産用の温水としては、乾燥用、殺菌用、洗浄用、純水装置の加温、ボイラ補給水の予熱などが挙げられる。

その他、従来までは蒸気を直接使用したり電気ヒータを使用していた生産装置についても、温水に置き換える事で熱回収システムの導入が可能となる場合もある。

事例C:温水排熱を熱回収

図12に温水排熱を熱回収する事例Cの概念図を示す。温泉などのオーバーフロー水から熱回収し、浴槽加温や給湯に供給する場合である。

浴槽加温や給湯に使用していた温水ヒータの燃料を削減できる。

加熱を電気で行う場合には、空冷ヒートポンプがあるが、空気の温度よりも温排水の温度の方が高いため、熱回収ヒートポンプの方が消費電力量が少なくなり、より省エネルギーである。

温排水としては、浴槽のオーバーフロー水だけでなく、蒸気のドレン水、洗浄廃水などがある。温排水については適正な熱交換器の選定と熱交換器のメンテナンスの検討が別途必要になってくる場合が多い。

図10 事例Aの概念図

図11 事例Bの概念図

図12 事例Cの概念図

名古屋大学医学部附属病院ESCO事業における熱回収システム導入事例

中央診療棟の熱源システム概要

図13に名古屋大学医学部附属病院ESCO事業における中央診療棟Aの熱源フロー図を示す。既存の熱源では蒸気吸収式冷凍機と水冷チラーから冷水を供給、蒸気熱交換器から温水を供していた。給湯については蒸気コイル付きの貯湯槽から供給されていた。

ESCO事業では熱回収ヒートポンプ3台と給湯予熱槽と温水熱交換器を増設し、冷水供給の排熱を温水と給湯に供給した。

熱回収システムは放熱用の冷却塔を設置せず、冷熱熱量と温熱熱量のアンバランスには基調切替制御で対応した。

空調熱源においては熱回収ヒートポンプをベース熱源機として24時間運転し、必要負荷に対して熱回収ヒートポンプのみでは不足する場合に他熱源を運転した。

給湯においては、給湯予熱槽で熱回収ヒートポンプによって給水を45℃に昇温して貯湯槽に供給することで貯湯槽の蒸気使用量を削減した。

前章の事例Aに該当する導入事例である。

図13 熱源フロー図

 

熱回収システム導入によるエネルギー削減効果

図14に2011年8月の熱源運転状況を示す。温熱熱量はすべて熱回収ヒートポンプの排熱で供給できた。冷熱熱量については熱回収ヒートポンプと他の冷熱源設備を運転している。

夏にも関わらず、数回基調切替を行っており、早朝の冷熱熱量が少ない時間帯において給湯熱量が大きくなった際に冷熱熱量と温熱熱量のバランスが入れ替わっていた。

図15に2012年1月の熱源運転状況を示す。冷熱熱量はすべて熱回収ヒートポンプから供給され、温熱熱量については70%以上は熱回収ヒートポンプから供給されている。これにより、蒸気熱交換器からの温水供給を大きく削減でき、蒸気ボイラーの燃料を削減できた。温熱熱量は常に冷熱熱量よりも大きく、基調切替はほぼ無かった。

中央診療棟の年間冷熱熱量の32%、年間温熱熱量の77%を熱回収ヒートポンプから供給できており、図16に示すように熱源の一次エネルギーについては年間で49%の削減ができた。

図14 2011年8月の熱源運転状況

図15 2012年1月の熱源運転状況

図16 年間の削減状況

 

おわりに

本稿では、熱回収ヒートポンプによる熱回収システムの考え方や事例を紹介した。

周囲には有効利用されていない排熱が多くある。例えば、冬期に白煙の上がっている冷却塔があれば、そこには熱回収システムの導入可能性が大いにあると思われる。

熱回収ヒートポンプによる排熱回収システムは省エネルギーと化石燃料による加熱熱源の電化の両面でCO2削減に貢献できるものであるため、導入効果の紹介や顧客ニーズに応じた提案を通してカーボンニュートラルに貢献したい。

 


参考文献

(1) 経済産業省, 第3回グリーンイノベーション戦略推進会議のうち資料4, 2050年カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションの方向性(参照日2022年1月18日)

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/gi_003_04_00.pdf


千原 崇

◎三機工業(株) エネルギーソリューションセンター 課長

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