日本機械学会サイト

目次に戻る

2017/1 Vol.120

【表紙の絵】
「ハッピーハッピーマシーン」
中村 遼くん(当時5 歳)
作者のコメント:
人の心を傷つける人や、けんかばかりする人をハッピーハッピーマシーンが吸い
とってくれて、心のきれいな人に産まれかわらせてくれるよ。
みんなが幸せになってほしいな。

バックナンバー

特集 夢未来マップ ~日本機械学会が目指すもの~

新生「日本機械学会」の10年ビジョン

第94期政策・財務審議会議長 大島 まり

新生「日本機械学会」の10年ビジョン

2016年度(第94期)政策・財務審議会* では、本会の創立120周年となる2017年度に向け、本会の全ての活動の目標となる以下の将来ビジョン「新生『日本機械学会』の10年ビジョン」を策定した。

ビジョンの必要性

急速な技術革新の中、熾烈さを増す技術開発競争を背景に、オープンサイエンス、オープンイノベーションの重要性が喧伝されており、産官学の交流の場である学会の存在意義は今後益々大きくなると考える。しかし、会員の急速な減少にみるように、本会の現状はその期待に十分応えているとはいえず、本会がそのポテンシャルを発揮していくためには、種々の改革に取り組む必要がある。改革には、複数年にわたる継続性が必要になるが、会長・理事などの役員任期が1年ないし2年であること、また本会のような学術団体は有志の集まりであり、通常の組織のような強制力は働かないことから、中長期的な施策を実行していくことは容易ではない。そこで、必要になるのが全会員で共有しうる将来ビジョンを明確にすることである。他学会でも、土木学会が創立100周年(2014年)に「社会と土木の100年ビジョン」を、建築学会が創立130周年(2016年)に「建築の未来への貢献」と題する10年ビジョンを定めている。
本会でも1996年に「第二世紀将来構想」が出され、それを受けた第二世紀将来構想実施計画(1998年)により現在の本会が形づけられた。また、2014年度には「第二世紀将来構想」で示された基本的理念をもとに本会の「10年後の姿」が描かれた。今回作成した「新生『日本機械学会』の10年ビジョン」は、2014年度の「10年後の姿」を見直し、再度検討した案である。

新生「日本機械学会」の10年ビジョン

日本機械学会は,国際的な視野から学術界・産業界をリードし,今後ますます複雑化する社会の要請に応えていく.広範な分野を取り込みイノベーションへとつなげていく横断的総合技術としての機械工学の強みを活かし,社会を変革する場であり続け,それを担う人材育成に貢献する.そのため,今後10年間に本会が目指すべきビジョンを以下に定める.

1.リーディング・ソサエティとしての学会
多様な視点,多様な価値観が交錯することにより新たな価値を創出する場として,社会の変革をリードするとともに,会員のニーズに応えていく姿.

2.学術のトップランナーとしての学会
高い水準の専門学術を国際的に推進していくとともに,分野を横断した新しい学際的な領域・技術を創成していく姿.

3.イノベーションを創出する人材の育成を担う学会
社会が抱えている技術的な課題を解決するとともに,新しい領域を切り拓き,産業および社会の発展へと貢献できる人材を,世代,地域,領域および職能の垣根を越えて育成していく姿.

4.世界に開かれた多様性に富んだ学会
多様なバックグランドを持った研究者・技術者が人的ネットワークを構成し,交流および情報交換の場としての機能を有するとともに,得られた情報および成果を国際社会へ発信していく姿.

5.社会的責任を担い持続的に発展する学会
上記1から4の学会としての姿を実現していくため,社会から公益的価値を認められ,強固な財政基盤を持つことにより,組織として持続的に発展していく姿.

「第二世紀将来構想」と2014年度「10年後の姿」

「第二世紀将来構想」は、本会の創立100周年(1997年)を迎えるにあたり次の100年を見据えて1996年に出された。会員に対する活動だけでなく、社会の公器としての役割を強く意識したもので、本会のあるべき姿として4点の項目を挙げている。さらに、このあるべき姿と当時の本会の状況との乖離を埋めるための9つの活動方針を基本的理念と称して定めている。
2014年度政策・財務審議会で将来ビジョン「10年後の姿」を検討する際に「第二世紀将来構想」をベースとした。「第二世紀将来構想」に述べられている問題意識、課題は現在においても変わりがないという認識の下「第二世紀将来構想」の基本的理念のうち、あるべき姿につながる(1)から(6)に具体的な記述を追加する形で「10年後の姿」を描いた。

2014年度政策・財務審議会による「10年後の姿」

【基本的理念1】
学会の情報発信ならびに情報交換機能の強化
機械関連分野の最新・最先端の情報が集まり,会員及び社会にこれを発信するグローバルな情報ハブとして本会が機能するために以下のような状況を実現する.
①学術誌に国内外から多くの投稿がある.
②専門,立場の異なる多様な技術者の人的ネットワークが構築され,様々な情報が交換される.
③会員は,社会に遍在する通信媒体(携帯端末など)により情報を容易かつ適時に入手できる.

【基本的理念2】
会員の創造活動の啓発と支援
専門,立場の異なる人々が集まり,議論し,新たなシーズ・ニーズを発掘する情報が循環できるよう,会員には以下のような支援をする.
①学生員に対し自己研鑽の場及び学生間の交流の場を提供する.また技術及び技術者に関する産業界の状況を紹介する.
②若手及び中堅技術者に対し自己啓発支援やキャリアアップ支援の仕組みを提供する.
③シニア会員に対し若手育成支援などの機会を提供する.
④特別員に対し宣伝・情報収集・人材採用・技術支援などの機会を提供する.

【基本的理念3】
産業ならびに一般社会・地域と密着した活動の強化
学究的世界と産業界との交流を活発に行い,産業界からのニーズに整合した学術活動を行う.また,一般社会に対し専門家集団としての責任を果たし,学会の存在が広く社会に認知されるよう啓発活動,広報活動を行う.このために以下のような状況を実現する.
①設計・開発・製造の現場で直面する課題に関する講演会が開催され,講演会に多くの技術者が参加する.
②重大事故・災害や世界的な行事(例オリンピック)等に関して短期のプロジェクトが組まれ,調査・提言が適時に行われる.
③機械の日・機械遺産事業などを通し学会の活動が広く一般にも認知される.
④技術者養成のための高等教育のあり方に積極的に関わり,種々の提言がされる.
⑤小・中・高生に対する技術に関する啓発活動を活発に行っており,ジュニア会友向けイベントが多く開催される.

【基本的理念4】
新分野・萌芽的分野の積極的育成と支援
分野を横断した新融合領域の研究を活性化するのに,部門の新設,統廃合が柔軟に実行される.

【基本的理念5】
アジアを視点に据えた国際的活動の推進
海外の研究者・技術者が日本人会員と量・質において同等の情報を提供し,また提供を受ける.

【基本的理念6】
会員の多層化,多様化の推進
年齢,性別,国籍,職業の異なる会員が均等に分散する会員で構成される学会をめざす.

「第二世紀将来構想」本会のあるべき姿

(1) 機械工学を中心とした工学の未来を拓く学会
(2) 産業と社会の進歩・発展、福祉と安全の向上に貢献する学会
(3) 多層かつ幅広い会員を擁し、世界に開かれた学会
(4) 会員の地位が社会一般から高く評価される学会

「第二世紀将来構想」基本的理念

(1) 学会の情報発信ならびに情報交換機能の強化
(2) 会員の創造活動の啓発と支援
(3) 産業ならびに一般社会・地域と密着した活動の強化
(4) 新分野・萌芽的分野の積極的育成と支援
(5) アジアを視点に据えた国際活動の推進
(6) 会員の多層化、多様化の推進
(7) 理事会における意思決定機能と執行能力の向上
(8) 地域ならびに部門活動における大幅な自主性の導入と権限の委譲
(9) 学会の財政基盤の整備充実

新ビジョンの検討プロセス

2016年度政策・財務審議会では、2014年度「10年後の姿」を見直す形で将来ビジョンを検討した。2014年度「10年後の姿」で描かれた基本的概念に対して大幅な変更を加える必要性はないというのが基本的な認識である。しかし、2014年度「10年後の姿」は、「第二世紀将来構想」の活動方針的な「基本的理念」を基としたため、ビジョン的なものとアクションプラン的なものとが混在した表現となっていたことから、新たなビジョンは、それに向けてのアクションプランと明確に区別して定めることとした。
この基本方針のもとに、政策・財務審議会での議論および合宿理事会でのグループ討議(写真)を通し、交流の場としての重要性、学術レベルの重要性、人材育成の重要性が抽出され、そのための組織のあり方としてグローバル化を含めた多様性と組織そのものの持続発展性が必要であるとの結論に至り、上記の10年ビジョンがまとめられた。

2016年7月9日合宿理事会の写真

新ビジョンに向けてのアクションプランの検討

新たに定めた5つのビジョンは、「第二世紀将来構想」の本会のあるべき姿(1)~(4)を踏襲している部分が多い。それは、日本機械学会のあるべき姿やそれに向けた課題の多くが、現在と20年前とで大きくは変わっていないためである。しかし、ビジョンに向けたアクションプランを考える上で、「第二世紀将来構想」が出された1996年当時と現在の我が国が置かれている社会的な情勢、および科学技術の違いを見据えることは、重要な視点と考えられる。
IT技術の黎明期であった1990年代と比較して、IT技術は社会インフラとして定着し、経済、ひいては生活様式にグローバル規模で多様な変化をもたらした。一方、その間、日本では少子化が進み、超高齢化社会を迎えている。また、2011年に起きた東日本大震災により、国民の科学技術に対するとらえ方が劇的に変化し、トランスサイエンス的な、科学に問うことはできるが、科学だけでは答えることができなくなっている社会へと移行している。科学技術の基礎的な地盤をなしている機械工学分野も例外ではない。科学技術の発達により社会が変化する時代から、科学技術と社会の双方が影響しながら変化していくこれからの時代に、学会としてどのように対応していくのか、大きな課題といえる。また、歴史とともに巨大化する組織にありがちな、課題が見えてきているのも事実である。
一方、120周年を迎え、これからの10年を考える上で課題だけが取り上げられがちであるが、日本機械学会の歩んできた道、そして120年の歴史で培い、成し遂げてきた軌跡を踏まえることは重要といえる。まず、減少したとはいえ、日本機械学会は3万5千人の会員を抱える日本屈指の学会であること。また、学術界と産業界における両方の分野の様々な年齢にわたる人材が、22部門の広範囲の学術的な枠組みとともに、8支部の全国にわたるネットワークを通して連携していること。このように優秀な科学技術人材が、お互いの自己研鑽の場を形成し構築してきたことは大変意義深い。
このような認識のもと、2016年度政策・財務審議会で、ビジョンに向けてのアクションプランの策定作業を進めている。本稿執筆時点では、ビジョンに向けてのアクションプランを10のカテゴリーに分け、全体で30のアクションプランとしてまとめる方向で検討している(図1)。

図1 新生JSMEのビジョンとそれに向けたアクションプラン(案)

2017年度に向けて

多くのアクションプランを一気に実施することは不可能である。10年間の展望の中で、優先順位を明確にしながら着実に進めていく必要がある。2016年度政策・財務審議会では、ビジョンとアクションプランをさらに分析し、2017年度の運営方針と重点施策を定める予定である。本会の創立120周年となる2017年度の施策を検討していくにあたり、以下の3項目(3I)を基本方針として定めた。

1) Inclusionによる活性化
2) Integrationによる地盤強化
3) Inspiration:夢を紡ぐ日本機械学会へ

混沌とした世界情勢、また、少子超高齢化に直面している我が国の状況では、将来について明るい将来像を描きにくい。1)の「Inclusionによる活性化」では、このような現状を踏まえ、年齢、国籍、ジェンダーを越えた多様な人材の取り込み、グローバルな視点での活性化を図る。
機械工学は、横断的総合技術として日本の産業構造を支える「モノつくり」の根幹をなしてきた。また、本会は創立100周年以来、部門制度を背景とした多岐にわたる学術分野と、全国にある支部を通した地域との強い連携とにより、リーディングソサエティとしての強い素地を築いてきた。したがって、今後は、2)の「Integrationによる地盤強化」として、部門、支部の縦割りから、織り交ぜた柔軟かつ強固な組織へ変わることにより更なる地盤の強化を図る。
さらに、創立120周年を迎え、本会の持つ様々な特長を織り交ぜながら夢を形にし、新しい時代を作りだしていく、次のステップとしての10年後の姿を考える必要がある。3)の「Inspiration:夢を紡ぐ日本機械学会へ」では、学術・技術をリードするトップランナーとしての日本機械学会の役割を再認識し、それを社会にアピールしていく。
10年後の日本機械学会、そしてそこに身を置いている自分自身の10年後の姿を想像してみてほしい。本会が社会的にその存在意義を評価され、会員が会員であることを誇りに思える学会へとより近づくための新たな一歩となるよう、会員諸氏のご協力を得ながら2017年度の運営にあたる所存である。

本稿に記した項目は検討中のものが多く、今後、変更される可能性もある。10年ビジョンとアクションプラン、および2017年度運営方針と重点施策については、4月の総会など別の機会に最終版を提示する。


<フェロー>

大島 まり

◎東京大学 大学院情報学環/生産技術研究所
機械・生体部門 教授
◎専門:バイオ・マイクロ流体工学


キーワード: