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2017/1 Vol.120

【表紙の絵】
「ハッピーハッピーマシーン」
中村 遼くん(当時5 歳)
作者のコメント:
人の心を傷つける人や、けんかばかりする人をハッピーハッピーマシーンが吸い
とってくれて、心のきれいな人に産まれかわらせてくれるよ。
みんなが幸せになってほしいな。

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ほっとカンパニー 〜世界で活躍する元気な特別員を紹介〜

古野電気(株) 魚探のフルノは、漁師さんの声も逃がさない

日本にはこんなスゴイ会社がある

「見えないものを見る」が事業テーマの古野電気は超音波・無線・レーダー・GPS などの技術を使い、独創性に富んだ電子機器を製造している。魚群探知機、ソナー、レーダー、船の衝突予防用の船舶自動認識装置。火山噴火予知のための地盤変位計測システムや医療用機器なども扱っている。
「フルノ」発展の歴史は1948 年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功したことから始まる。1955 年に「世界のフルノ」を宣言し、翌年から海外へ商品を輸出。現在は80 カ国以上の国々に販売サービス拠点を有する世界トップシェアの船舶用電子機器メーカーである。

魚群探知機開発物語

超音波は魚や海底にあたると反射して戻ってくる。この性質を利用したのが魚群探知機だ。
そもそも何故、創業者の故・古野清孝は魚群探知機を開発したのだろうか?16歳で「指定ラジオ相談所主任技術者認定試験」に合格した清孝は、ラジオ修理と船舶電気工事業を営んでいた。魚群探知機開発のきっかけは1943年頃、船上で電気工事をしていた時に船頭から「魚は海中で泡を出すから、泡の出ているところには魚がたくさんいる」と聞いたことである。その話に興味を持った清孝は魚の場所を特定する方法を探し始めた。泡は超音波を反射するということは知られていたので、彼は超音波理論を応用しようと考え、旧日本海軍の使っていた音響測深機を手に入れた。音響測深機は船底に取り付けたセンサー(振動子)から超音波を出して、海底までの距離を測る機械で、座礁防止に使われていた。この機械の感度を上げ、雑音を取り除けば、海中の魚群を探知できると考えたのだ。
清孝は機械を改良し、魚群探知機を完成させた。だが売れない。漁師たちが、機械が流通すれば仕事がなくなると勘違いしたからだ。買ってくれた漁業者もいたが、魚群探知機をうまく使いこなせなかった。そこで清孝は弟の清賢をはじめとする社員に「きみたちは電気屋と思うな。船頭だと思え」と指示を出し、魚が捕れなくて困っている漁船に乗り込ませた。その結果、漁獲高が最低だった船は、漁獲高トップになり、魚群探知機の有用性が立証された。こうして漁師にとって魚群探知機は不可欠なものとなったという。
社員を船に乗り込ませた現場主義は、今も「フルノ」の強みとなっている。
なお「魚群探知機」という名称は清孝が名付けたものだが、商標登録はされていない。

 

(左)1950 年頃の古野電気工業所( 前列中央が古野清孝)
(右)初期の魚群探知機F-261( 1950 年代)

 

新開発! 魚のサイズが正確に測れる魚群探知機

「フルノ」の最新鋭機は、やはり魚群探知機。新発売のFCV-2100 は数センチまでの魚のサイズが正確に測ることができる。この最新鋭機は水深200m まで調べることができるのだ。しかも、どのくらいの大きさの魚が何匹くらいいるかが棒グラフで表示される。
この魚群探知機が水深200m までをターゲットにしたのは、幅広い網で魚群を取り囲んで魚を大量に捕る、巻き網漁船用だからだ。水深200m までの海底は大陸棚と呼ばれる豊富な漁場だ。超音波はその深さをターゲットに100kHzの周波数を使っている。
モニター画面に魚の分布が表示されるのだが、エコーが重なり合うと、魚の体長が小さくてもエコー全体は大きくなる。だから、できるだけ魚1 匹1 匹のエコーが区別できるように分解能をあげなければならない。
そこで今回注目すべきは、広帯域の周波数を使う技術を用いたことで、距離の分解能が抜群に良くなったことだ。
距離分解能とは、同一方向にいる2 匹の魚をモニター画面に映したときに、区別がつくための魚と魚の間の最小距離のことだ。以前の魚群探知機の分解能は75cm だったのが、この機械では6cm になった。つまり以前は、船から魚群を見たとき、1 匹の魚の後方70cm の距離の中に数匹いても、1匹の魚としか認識できなかった。でも今回は2 匹の魚の間の距離が6cm 以上であれば1 匹ずつ区別できるのだ。

 

FCV-2100開発のきっかけは現場からの声

現在、乱獲によりクロマグロなどの絶滅が危ぶまれている。大きい魚だけを捕って、小さい魚を残す取り組みをしなければ、食卓から魚が消えてしまうかもしれない。
漁業資源管理が強化されている北欧などでは、漁船ごとに漁期や魚種、漁獲量、魚の大きさが厳格に定められているので、できるだけ正確な情報を得たいという声が、漁師たちからも上げられていた。もともとグラフが出る魚群探知機も作り出していたので、さらなる広帯域化の技術開発に取り組んだ。その技術が完成してからも、製品化に向けてさらに漁船での実験を繰り返し、網にかかった魚の大きさを測り、魚群探知機のデータと合っているかを検証した。これにはとても時間がかかったという。

 

今回の取材に協力いただいた皆さん
(写真左から、徳山さん、山田さん、大西さん、谷澤さん)

 

漁業者のニーズとこれからの商品開発

最新鋭機の開発後も漁業者たちに使用感を聞き、それを参考にして改良したり、次の商品に役立てることは、常に行われている。
例えばイカは需要が多く、特にアカイカなどは価格が高いため、イカ自体の探知を目的とする魚群探知機を作って欲しいという要望がある。イカの体内はほとんど水で、浮き袋もない。過去に「イカ魚探」を販売したこともあるが、細い骨から返ってくる微弱なエコーを捉えるのは、とても難しい。だが、その特徴を活かしてイカを探知している漁業者がいる限り、商品開発のテーマは尽きないのだ。
では、さらにニーズにこたえるために、これからはどんな商品を開発したいかを聞いてみた。
「魚に脂が適度にのっているかがわかる技術ですね。脂がのっている魚のほうが美味しいけど、のりすぎても美味しくないですからね。また、お腹がすいている魚がわかる技術もニーズがあると思います。エサを食べた直後の魚は、傷みやすいから高く売れないのです。」
まさに漁業者の目線に立った考えである。

 

新発売の魚群探知機「型式:FCV-2100」
できるだけ1匹1匹が区別できるように分解能をあげている。
赤い点はエコー(反射波)が強い、つまり大きい魚もしくは魚の集まりを示す。
横向きのグラフは魚の体長(cm)を示す。グラフ上に大きい魚がいなければ、モニターの赤い点は小魚の集まりとわかる。

 

 

異なる密集度のイワシの魚体表示例。画面上下が水深の浅深。

 

プレジャーボート向けの魚群探知機
漁業者向けの本格的な商品ではなくても、魚のサイズを表示する技術を盛り込んでいる。

 

挑戦を尊重する風土

「フルノ」の理念は社会の役に立つこと。良い商品を作って、水産業の発展に役立てたい、と願っている。資源管理型の水産業はこれから重要視されると思うので、その手助けになるための機械を作っていきたいそうだ。
「創業者やこれまでの先輩たちが挑戦し続けてきて現在がある。若い社員にとっても風通しがよい社風が感じられ、良い商品作りにつながっているようだ。」
「誰もしていないことにチャレンジしろ!って言われます」フルノは、独自の路線で独創的な機械を作る心を大事にしている会社である。

(取材・文 山田 ふしぎ)

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