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2017/8 Vol.120

未来型かかし「Farmer」ファーマー
村越 水 さん(当時 14 歳)
本来、鳥から農作物を守るために建てられた‘かかし’ですが、もっと有効に活用しようと考えました。
笠の先端にはスプリンクラーが設置され水を自動的に放出します。笠が回り、鈴を鳴らして農作物を熊や鳥か
ら守ります。
腕から提げられた取り外し可能な籠は、収穫した野菜の重さを測ることができます。
両腕の先端は防犯カメラで 360 度監視します。カメラはもちろん‘かかし’の胴体も回ります。
異常があれば口に模したスピーカーからサイレンが鳴ります。
‘かかし’の背中にあるボックスに生ゴミや抜いた雑草を入れてセットすると堆肥になって出てきます。
これらはコンピュータ機能で管理し、笠に設置された太陽光の電気により動きます。

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ほっとカンパニー

ナブテスコ(株)産業用ロボット用精密減速機で世界ナンバーワンをひた走る

精密減速機が産業用ロボットの力強く俊敏な動きを支えている

日本にはこんなすごい会社がある

2003年、帝人製機とナブコが合併して生まれたのがナブテスコ。以来、「モーション・コントロール技術」を中核として、両社の分野を合わせたさまざまな領域で事業を展開している。

航空機のフライト・コントロール・アクチュエーション・システムでは約100%、鉄道車両用ドア開閉装置では約70%など、極めて高い国内シェアを占める事業も多く、精密減速機もその一つ。産業用ロボット関節用途精密減速機では世界シェア約60%、工作機械ATC 駆動分野では国内シェア約60%を誇り、自動車のスポット溶接用では、約95%がナブテスコの製品が使われているという。国内での生産拠点は津工場。さらに、2016年1月には急拡大が見込まれる中国市場を狙い、中国・常州に設けた生産拠点の稼働を開始し、“ 地産地消”の体制を整えた。

精密減速機の生産数は2017年に700万台を突破、2020年には1000万台に達する見込みだという。

基本特許失効後もシェアを落とさない精密減速機

減速機とは、動力源であるモーターから得た回転速度を落とすことでトルクを取り出すもの。精密減速機は、主に自動車産業用ロボットの関節に使われ、ロボットの性能を左右する基幹部品の一つだ。位置決めをするポジショナー等の周辺機器にも使われており、さらには工作機械や食品、半導体、医療などさまざまな製造現場にもその領域を広げている。あらゆる場面で自動化が進む昨今、ナブテスコもマーケティングを進めながら、新しい分野への提案を積極化しているという。

ナブテスコ(当時は帝人製機)が精密減速機の世界に入ったのは1986年。産業用ロボットメーカー向けの開発がきっかけだった。社内の他カンパニーが手がけていた油圧ショベルカーの減速機の機構をベースに、高精度に改良した製品が、ロボットメーカー向けの油圧モーター向けのニーズにうまく合致したのだ。「当時ロボットメーカーが抱えていた衝突時の減速機破損問題やロボット動作時の振動問題を解決することで、我々の製品がブレークスルーしました」と、同社精機カンパニー開発部長兼設計部長の森弘樹は語る。

同社の精密減速機の特長は、高精度・高剛性・高信頼性の三つが挙げられる。それらを実現しているのが、その機構だ。まずは、内部の歯車。波型のペリトロコイド歯車を採用したことで、同時噛み合い数が多くなり、耐荷重を増やせ、衝撃に強く壊れにくい減速機ができた。さらには、歯車の隙間をギリギリまで減らすことでガタのない高精度を実現している。

実は基本となる構造の特許は、2006年に失効している。「しかし、それ以降もシェアは変わっていません。これだけの部品点数があると、すべてに高精度なレベルを保持して安定供給するのは難しいのでしょう」と、同社精機カンパニー計画部長の栗田昌兆は胸を張る。実際に中国を中心に類似品が出つつあるが、精度や耐久性の面ではナブテスコの製品にはまだまだ劣るという。

ロボットの進化を支える縁の下の力持ち

その後、モーター軸を移動させて中心を中空構造にした製品を開発。ロボットのケーブルを中空部分に通すことで、ロボット本体を大幅にスリム化・軽量化することができた。アーム自体をスリムに軽量化すれば、設置スペースは小さくなる。つまり、アームが広い可動領域と高い自由度を得られ、性能はこれまで以上に高出力密度、高精度となり、可搬重量も増えた。精密減速機の出力密度(トルク/ 重量)は初期の製品に比べて1.6 倍となり、スポット溶接用ロボットの重量は、初期に比して、約半分になったそうだ。

また、元々ロボットのアームは平行リンクが主流だったが、精密減速機の高剛性化により独立多関節型へと進化した。「このように、我々の減速機によって、ロボットの形がいろいろ変わっていったのも事実です」(栗田)。まさに進化を支える“ 縁の下の力持ち”なのだ。

自動化された自動車の製造現場は、10分機械が止まるだけで数千万円の損失が出る世界。失敗は決して許されない。「うちの減速機も世界中で休むことなく頑張ってくれています」と栗田は笑う。しかし、そのプレッシャーは並大抵ではないはず。森は、設計面で難しい点を「お客さんのニーズにどう応えるかに尽きる」と話す。仕様に合致した製品を造るために、設計開発担当者自らが定期的に顧客に足を運び、生の声を聞きながら仕様の打ち合わせを重ねていく。

産業ロボット用と並行して、より幅広い分野に向けた製品にも力を入れ始めた。こちらは減速機単体ではなく、すぐに導入できるようにユニットタイプで提案することがポイント。ギアヘッドタイプ「RD シリーズ」のように、サーボモーターを取り付ければすぐに使え、グリース(滑滑剤)も封入したタイプ、位置決めテーブル用途に特化した「RS シリーズ」なども製造販売している。また、サーボモーターを組み込んだコンパクトアクチュエーター「AF シリーズ」も展開している。

トップランナーとしてのプレッシャー

30年以上にわたるナブテスコの精密減速機の歴史は、ひたすら高精度・高剛性・高信頼性の三つのキーワードを極める連続だったという。ここ数年でロボットは注目分野に躍り出た。「私たちのメカがしっかりしないと、ロボット本体の革新もできない。技術は革新的に伸び、ロボットメーカーからの要望はさらに高くなっています」(森)。

世界の産業ロボット市場規模はまだ2 ~ 3兆円だが、新たな参入も多く、競合は増えている。森に仕事の上で達成感を得る瞬間を尋ねると「関節の多いスポット溶接用ロボットで、各関節の軸を受注したとき」との答えが返ってきた。しかし、驚いたことにその時に心を占めるのは喜びや勝利感ではないという。「感じるのは、とにかく“ プレッシャー” です。私の前の世代は精密減速機をゼロから開発し、高い性能で高いシェアを取ってきた。それを維持するのは大変なパワーがいることです。シェアを維持し続けるには、競合より常に一歩前に居続けなくてはいけないのです」。トップランナーだからこそ経験する重圧である。今後の目標も「これからも高精度・高剛性・高信頼性の柱を突き詰め、常に究極を目指すこと」だと話す。

注目分野となって、うれしいこともあった。「これまでは今ひとつ人気がありませんでしたが、ようやく『ロボット用の精密減速機』を作りたいと志望してくれる学生が増えてきました」。

ロボットの革新とともに、右肩上がりで成長していく精密減速機。ナブテスコの挑戦と進化も日々続くのだろう。

今回取材に協力いただいた栗田さん(左)と森さん(右)

(取材・文 横田 直子)


ナブテスコ株式会社

所在地 東京都千代田区
https://www.nabtesco.com/


 

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