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2017/9 Vol.120

「魚(うお)っちゃCar!!」
吉川 大翔 くん(当時6 歳)
これは海の底で魚をとったり、研究
や工事が出来る移動式の機械です。
左前にあるセンサーやカメラで魚を探
します。自分の食べたい魚や珍しい
魚をつかまえて巨大タンクで増やしま
す。グリッパーにのこぎりやハンマー、
グラップルをつけかえて、深い海の
底に魚と一緒に遊べる遊園地を作り
ます。中は海の底でもず~っと息が
出来るように酸素や水、カルシウム、
色々なものがシャボン玉のようになっ
て出てきます。1 階は魚を育てるた
めの部屋。2 階は操縦席と巨大タン
クの部屋。3 階は図書館とお茶を飲
む場所があります。

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座談会

医工連携の魅力

我が国の医療機器産業は輸入超過であり、国際競争力を持つ先端医療機器の研究開発に課題を抱えている。医工連携という言葉が使われるようになって久しいが、規制や保険など機械工学のエンジニアからは課題が見えにくい。今回、医工連携に長年携わってきた研究者や医師が集まり、この分野の魅力、課題、人材育成について語った。


出席者プロフィール

<フェロー>
光石 衛
◎ 東京大学 大学院工学系研究科 教授
生産加工・工作機械と手術ロボットの両分野の研究に従事。

 

<正員>
齊藤 延人
◎ 東京大学 医学部 教授
病院長、脳外科医として、長年医工連携に携わる。

 

鎮西 清行
◎ 産業技術総合研究所 健康工学研究部門 副研究部門長
手術用ロボットの研究に加え、薬事審査を行う医薬品医療機器総合機構での勤務経験も。現在は国際標準化でも活躍。

 

<フェロー>
神野 誠
◎ 国士舘大学 理工学部 教授
企業での医療機器の開発・製品立ち上げを経験。

 

<正員>
原田 香奈子
◎科学技術振興機構ImPACT プログラム・マネージャー/東京大学大学院工学系研究科 准教授
手術ロボット、手術手技評価の研究に従事。


医工連携の楽しさ、難しさ

原田:今回、長年医工連携に携わってこられた方々に、医工連携の魅力についてお話を伺いたいと思います。医療機器の研究開発は、ただ機械としての性能を追求するのでは不十分で、医師とのコミュニケーションが不可欠ですし、薬事、国際標準、保険収載などの包括的な知識も必要となることが特徴です。それこそがこの分野の魅力であり、難しさでもありますが、医工連携の魅力をどういうふうにお考えでしょうか?

齊藤:新しいデバイスの開発というのは、やはり医療を飛躍的に進歩させますよね。10年くらい前に「JIN-仁-」というテレビドラマがありました。非常に優秀な脳外科医が150年ぐらい前の幕末にタイムスリップすると何もできなくなってしまう。穴1個開けられなくなるんですよね。あれを見て本当にショックを受けました。医者としては、いろんなデバイスの開発の恩恵に預かっていることに改めて気付きました。例えば、我々脳神経外科の手術でよく使うのは、穴を開ける機械です。他には吸引といって血を吸ったり、髄液を吸ったりするもの、さらに電気メスですね。そういう技術が一つできるたびに手術の方法が新しくなって、安全性が増して、治療成績が増して、というように進歩してきました。これからの医療を切り開くためには、いろんな形でのデバイス開発がますます求められると思いますね。

光石:私が医療関係の研究をするようになったのは20年前くらいですが、その頃にはもうさまざまな研究がなされていました。しかし、実際に始めてみると、やることはいっぱいあって、ある意味では機械工学にとって、特に生産加工分野にとって最先端の研究分野であり、新しいことをどんどんやっていけるという楽しさがありました。生産加工と医療は一見関連がないように思われますが、例えば整形外科のような分野は対象となる材料が違うだけで機械の加工に結構似ています。手術の分野というのは、モノづくりという意味からも関連があり、随分面白いなと思っています。

神野:そういった意味では、この分野でもやはり自分が考えたアイデアやメカニズム、システムを作り上げていくエンジニアリングの楽しさはありますよね。私は企業での製品の立ち上げというところで医工連携をやってきましたが、手掛けたものが設計したとおりに動いた時が一番嬉しかったです。ただ、自分自身が使う物ではなく、医師に使っていただくということで、きちんと自分が描いていた動きや使い方で使ってもらえるように、打ち合わせや報告を何回も繰り返して、ギャップが少しずつ縮まっていって、同じものを目指していく過程がとてもワクワクする体験でした。

原田:ただ、やはりエンジニアが医療分野に踏み出す上では薬事や国際標準を意識することが重要になり、その辺りに難しさがあると思います。それについてはいかがでしょうか?

鎮西:国際標準に関しては、少し誤解がある気がします。医療機器の国際規格は共通互換性のためではなく、安全性のための必須要件を規定しています。「規格を知ることで何を考えないといけないか」が分かるんです。例えば、手術ロボットではロボット工学を当然知っておく必要がありますが、手術野の清潔さをどうやって保つかということも知っておく必要があります。その部分の設計は、ロボット工学の教科書を読んでも一言も出てきません。では「どういう要求があるか?」ということは、規格を見ると大体分かります。単にロボットを作るだけではなくて、医療の現場でどこに注意すべきかが箇条書きになっているのが国際規格だと思います。

原田:やはり製品化する前の研究レベルから、そういったことを理解して設計する必要があるということですね。

鎮西:研究者の方がすみずみまで理解する必要はありませんが、どこにどういう規格があってどういうことが書いてあるということが分かっていると、役に立つと思います。

エンジニアと医師のコミュニケーション

原田:医工連携と言えば、まさに「エンジニアと医師のコミュニケーション」が課題になると思いますが、医師の立場からアドバイスはありますでしょうか?

齊藤:エンジニアの方々が医師とどう付き合うべきかよく分からないと思うように、我々も同じくどうしたらいいか分からないと思っていますよ(笑)。

原田:お互い、付き合い方に悩んでいるのですね(笑)。

齊藤:医師側からすると、モノづくりがどういう仕組みで進んでいくのか必ずしもよく分からないんですよね。その時に大事だと思うのは、どれくらいのものを開発するのにどのくらいの時間がかかるかというところですね。そこの感覚に乖離があるのだと思います。

原田:なるほど。1年でできるものなのか、10年でできるのかという。

鎮西:工程をどれぐらいで見積もるかというのは、私も工学系の研究者でありながら、はっきり言って下手ですね。

原田:大学の研究者と企業の研究者でも違ってきますよね。

鎮西:企業の方が見たら、大学の研究者の時間感覚は甘いでしょうね。

齊藤:この感覚の共有については、「よく話をする」に尽きると思います。我々医療サイドの感覚でいくと、やはり開発段階では「待ち」の姿勢が多いですよね。「待ち」の時にどうやって貢献できるかは考え方次第のところがあります。医師側があまり動き過ぎるとうるさくなるでしょうし、どういうタイミングで何をするのか、よく相談して探っていくべきでしょうね。

原田:エンジニア側は医師の本務を邪魔しないかという遠慮があるように思います。医師側も言い過ぎるとやりにくいんじゃないかなと懸念されたり、エンジニアの提案や試作品について率直に評価を言い難いというところがあるみたいですね。

光石:でも、モノができた後に言われるより、作る前に言ってもらったほうがいいですよね(笑)。

原田:確かに、早い段階から率直に言っていただくと、作り直す側もやりやすいですよね。

神野:やはりエンジニア側がデバイスの評価を受ける側になるので、うまくプレゼンテーションすべきだと思います。設計においても治療や手術において、何が大事で何に注意して処置をしているのか、我々エンジニアが「聞きだす」姿勢が必要ですね。ただ、あくまでも立場としては対等であるべきで、お互いの熱意をうまくすり合わせていけばいいのではないでしょうか。

光石:企業だとかなりスピード感を持っていると思いますが、開発の初期段階は、アカデミアが主体となっているように思います。今後この分野が発展していくためには、エンジニアの側がもっとスピード感を持つことが重要だと思います。

国際競争と知財強化

原田:エンジニアと医師のコミュニケーションがうまくいって、いいモノができたとしても、医師が欲しいものは必ずしも病院の利益と結びつかず、購入してもらえないという問題もあります。開発段階で病院側の視点を巻き込むことも必要になりますよね。

光石:そういう意味では、企業も含めてビジネスモデルをうまく作れていないですね。

原田:医工連携の医療機器開発において、アカデミアと企業の役割は異なると思います。アカデミアがフィージビリティ・スタディをして、企業に話を持っていく形が多いのですが、もうその段階でビジネスプランがないといけないんですよね。最初にビジネスプランがある方がいいのですが、研究がスタートする前にビジネスモデルを作るのは難しいですね。

光石:その問題は以前から指摘されていて、アカデミアでもアントレプレナーシップ教育や実習・演習を積む機会が必要だと言われていますね。

齊藤:スタンフォード大学のバイオデザインプログラムは、そういったところも入っているんですか?

光石:はい。そうですね。

原田:スタンフォード大学のバイオデザインプログラムは、医師の後ろをエンジニアが付いて回って、ニーズを拾って、モノを作るというものです。それはビジネスとしては良い反面、研究としてはもの足りないところがあると思います。医師からの要望をうけたものの中でも、高い工学技術が必要なものと、工学的には極めて簡単なものがあり、それがすごく難しいと思いました。

神野:最初にビジネスにすることが目的であれば、工学的な難しさを求める必要はないのですが、アカデミアだとやはりそういうことを求めてしまいますね。ロボットなどはシステムを作ることが重要なので、それがローテクであろうが、工学的にハイレベルであろうが、実際に臨床で使われるものであればそれだけで充分、工学的な価値があると思います。

原田:工学的な研究とビジネスの両方に取り組める体制があればいいですね。

鎮西:それが本当に大学の役割なのかどうか、私は疑問に思っています。恐らくビジネスマインドを全員に求めたら、それこそ大学にいかなくてもいいということになり、もう大学は研究をしなくなったねという話にもなってくるので、そこは一定の線を引くべきですよ。大学はベンチャー養成校や職業訓練校になる必要はないと思います。

原田:エンジニアも個人によって志向が違うので、工学的に面白くなくても臨床応用を進めていきたいという人と、成果が出るのが20年後になってもいいから難しいことにチャレンジしたいという二つのタイプがいますね。

神野:バランスですよね。企業の研究でもそうです。目先の成果を求めるような研究もあれば、5年後、10年後を見据えた研究もあります。やはり大学でも、そういうバランスを持った研究者がいるとよいと思います。

原田:その話の延長にもなるかもしれませんが、例えば臨床応用されて病院に入っている機器を見ると、海外製品が多いですし、医療機器産業自体が日本は輸入超過という状況ですね。これからどういう方向にいけば国際競争力の強化につながるのでしょうか?

齊藤:体内に埋め込む装置を見ていると、「日本企業が作ったらさぞかし小さいのができるんだろうな」と思いますよね。企業にも期待しているのですが、やはり知財が問題になってくるのでしょうか。今、病院のほうではTR(トランスレーショナル・リサーチ)という仕組みで、かなり早期の段階から知財のマネージメントをやるようになってきたのですが、そういう体制をもっと充実させていく必要がありますね。

原田:知財戦略を日本として強化すべきところが、医工連携の国際競争力につながるということですね。

新規参入求む!

光石:手術ロボットは、意外とソフトの比率が高いのですが、特に日本では、機器に組み込むソフトウェアを書ける人が足りていないので、もっとこの分野に入ってきて欲しいですね。ハードウェアについてもまだまだ新しいものが出てきていますが、発想を変えるともっと別の解というのもあり得る気がします。新しいデザインができる人にこの分野に入ってきてもらい
たいです。

原田:ゼロから何かを作る経験をしている方が少なくなってきているので、そういう人が増えるといいですよね。

光石:日本人はクリエーションのところが不得意だと言われますが、ノーベル賞は2000年以降世界で第2位ですよね。誰もがそのクリエーションの能力がある、というのは飛躍があるかもしれませんが、学生を見ていて、ゼロからものを考えるのは好きなのだなと感じます。実は日本人はその辺の能力があるのではないでしょうか。

原田:やはり若い方が積極的に医工連携の分野に入ってきて、広い知識を持って変えていって欲しいですね。

光石:アメリカだと、エンジニアでも医師と同じぐらいの知識を持っている人はいっぱいいますよ。そういう人を育てていかないといけないです。

鎮西:エンジニア側も最低限の解剖の知識ぐらいは勉強すべきですね。先進的な例では、医師自身が機械に詳しくて、自分で設計して作ってうまくできていることもありますので。

原田:加工機を持っている医師もいますよね。

鎮西:自分でプログラムを書く方もいますね。そういう自分の専門性の殻を破った人は強いですよ。

原田:やはり自分の専門性を高めることはもちろん、相手の分野にも積極的に踏み入れていく姿勢が大事ということですね。

鎮西:お互いの現場に入り浸るぐらいの時間のかけ方はしないといけないでしょうね。ただ時間をかけるというのは結構大変ですから、そういったところも含めた組織間のサポートが大事ですね。

光石:医の分かる工、工の分かる医を育てるというのは10年ぐらい前から言われていて、随分取り組んできています。

齊藤:そうですね。育ってきていると思います。

原田:企業の方も社会人ドクターとして数年間だけでも大学に在籍していただければ、病院に入り浸って、医師と一緒に相談しながら進められる機会も持てると思います。

光石:やることはまだいっぱいあるので、自分の足跡を付けたい人には是非入ってきてもらいたいですね。また、この分野もAIが入ってくる余地はたくさんあるので、そういうことも取り入れられるとさらに成長が見込める分野だと思いますよ。

神野:直接人の命に関わる臨床現場の緊張感はその場にいないと分からないですよ。そういう中で、自分の開発したもの、考えたものが使われるというプレッシャーと達成感は、何物にも代えられないやりがいです。やはりまだまだ自分も頑張ろうと思いますね。

原田:異分野連携がこの分野の大きな魅力だと思うので、ご自身の専門がしっかりしているのはもちろんですが、さまざまな分野の知識を学ぶのが好きな方、専門の違う方との連携が好きな方にどんどん医工連携に携わっていただきたい、というメッセージにしたいと思います。本日は皆様ありがとうございました。

(2017 年6 月2 日@ 東京大学工学部)

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