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2018/5 Vol.121

【表紙の絵】
空気をきれいにする車
須藤 二葉 さん(当時5歳)
走っても空気をよごさずにきれいにしてくれるから走るとみんなにこにこになるよ。


本誌2017年7月号に、「空気をきれいにする車」のテストプロジェクトを掲載しています。
合わせてお読みいただければ幸いです。

バックナンバー

インタビュー

「魅力あるエンジニアソサエティの実現に向けて」

第96期(2018)新会長 佐々木 直哉 〔(株)日立製作所〕

聞き手:第95期広報情報理事 山本 博之〔マツダ(株)〕

 

新会長としての抱負

山本:昨年120周年を終えて、今年度は新たな一歩の年になります。新会長としての抱負をお聞かせ下さい。

佐々木:2017年度は“新生「日本機械学会」の10年ビジョン”を策定し、それに取り組むアクションプラン実施の初年度でした。今年度は、そのアクションプランを着実に実行するとともに、企業会員にとってさらに魅力のある組織になるような活動をプッシュしていきたいと思っています。

山本:2017年度は会員数が増加し、20年以上続いた減少傾向に大きな変化がありました。これは、講演発表資格の会員限定化に伴う学生会員増加によるもので、企業会員は従来どおり減少傾向にあります。

佐々木:企業会員が減っているということはお役に立てていない裏返しだと認識しています。まず、その事実に向き合って、特に若手企業会員にとっても、魅力のある学会にしたいと考えています。産業界の課題を解決するために、どのように連携の仕組みを作れるかが課題だと考えています。産学連携・分野横断を鍵に、教育的視点・専門学会と異なる仕組みを産業界に提供していきたいと思います。

2018 年度(第96 期)運営方針
([ ] 内は対応する10 年アクションプラン)
 キャッチフレーズ「魅力あるエンジニアソサエティの実現に向けて」

1)若手技術者にとっての魅力度向上
✓ 新しい方向性や産業界の課題を取り込む仕組みの構築、産学交流の場としての機能強化[(2),( 5)]
✓ 新しい風を吹きこむ常設委員会としての「若手の会」の立ち上げによるネットワーク構築 [(3),( 14)]
✓ 若手支援策の策定 [(3),( 14)]
2)組織力強化のための取り組み加速
✓ センター組織の改組 [(2),( 5),( 13),( 22),( 23),(28),( 29)]
✓ 財政の中長期ビジョンの策定とそのための事業評価方法の検討 [(29)]
✓ 支部活性化支援策の策定 [(10),( 11),( 12)]
3)10 年ビジョンに基づくアクションプランの着実な実行
✓ 新部門制に向けた継続的議論とそのための検討委員会の立ち上げ [(1)]
✓ これまでとは違う視点の「新年次大会」(2019 年度)の開催に向けた準備 [(4)]
✓ 会員からの新規事業などのチャレンジ提案を促進・支援できる仕組み作り [(2),( 5),( 10),( 11)]

10年ビジョンとアクションプラン

120年の歴史

産業界に必要な存在

山本:2017年は120周年事業が行われました。機械学会の歴史をどう感じられましたか?

佐々木:私が所属している(株)日立製作所の研究開発部門は今年で100周年です。100年以上続く会社は少ないので、それ以上に古い機械学会は率直にすごいと企業人として感じます。120年続くのは、その「必要性・価値」があるからですよね。特に産業界にとって必要な分野だということが改めて認識されるのではないでしょうか。

山本:個人としての機械学会の関わりはいつからですか?

佐々木:機械学会に入ったのは修士1年のときです。大学では計算機シミュレーションを専門にしていまして、恩師の先生に「講演発表するなら学会に入ったらどうか」と勧められたのがきっかけです。きっかけとしては今の学生さんと同じだと思います。

山本:その時の学会の雰囲気は覚えていますか?

佐々木:緊張していたのでほとんど覚えていないです。厳しい質問が結構出て、研究というのは大変だなと実感した記憶がありますね。自分の研究を他人に説明するのは簡単ではなく、それなりの準備が必要だとわかりました。

山本:他の人の発表を聞いていかがでしたか?

佐々木:やはり、他の人の研究はすごく進んでいるように感じましたね。あと、いろんな研究をやられているということにも気付きました。若い頃は自分の世界しか見えていませんから、他の人がどういう研究をしているかあまり知らないと思います。会社に入ってからもそうですが、外に出ないと知見は広がらないですね。そこは学会の魅力の一つだと思います。

山本:そういった場所を提供することが「学会の価値」ですよね。

佐々木:本来は、学会の存在自体が必要だということと思います。しかも、意外と気楽に活動できますからね。

山本:ただ、企業が学会を利用する機会は減ってきています。

佐々木:昔に比べると、その魅力は減ってきているのだと思います。複雑な社会変化で、組織からの制約も以前と比べると多くなっています。また、情報化社会になり、以前より簡単に情報を手に入れられる時代ですから。

山本:情報収集が簡単になったと言われますが、本当にそう思われますか?

佐々木:上辺だけの新しい情報はいくらでも入ると思います。知らないことは検索するとそれなりに出てきますから。しかし、それはあくまでも表層の情報だと思います。それだけでうまくいっている人はそれでいいでしょうが、実際には深堀りして、さらに課題を見つけたり、解決策を見出したりするためには、他人と議論したり交流したりという場が必要だと思います。Face to Faceのコンタクトが、より重要になっていると感じます。ビッグデータなど情報収集が昨今の企業戦略になっている傾向がありますが、情報を集めた次の段階の深堀りするフェーズでは価値を見出すことが重要です。

 

学会の存在意義

「深堀り」ができる場所

山本:「深堀り」のところで価値を提供できないと学会の存在意義はなくなってしまいますね。

佐々木:そこは学会の本質的な部分でしょうね。ただ、それに対する具体的なアクションを学会自体もこれまで掴めていなくて、試行錯誤しているのが現状だと思います。今の時代に求められている学会の価値を提示していく必要があります。

山本:今、求められている「学会の本質的な価値」を定義する必要がありますね。

佐々木:例えば、論文やレポートに書かれている内容は成功例がほとんどです。なるべく成果を最大限に見せようとするものがペーパーですよね。それに対して、そこに至るまでのさまざまな失敗が埋もれているわけで、それが分からないと同じように成功できません。媒体の情報だけを見ても、ものづくりはうまくいかないということです。その裏で苦労している内容や工夫を、学会に参加することで得ることができれば、まさに「深堀り」に繋がると思います。人と人との会話・議論の中からでしか見えてこないものが重要です。人間と人間が議論するある意味泥臭い場こそが本質的な「価値」になるのではないでしょうか。ただ、それを仕組みとして構築するためには、ワンランク上の工夫が必要です。

山本:若手が議論する場を経験する機会が減っているように思います。

佐々木:今の若い人は素早く有効な情報を集めるのは得意ですね。それはすごく良いことなので、それだけで終わらずにさらに深堀りするノウハウを培ってもらいたいです。どうしても若い人は泥くさい経験がまだ少ないので、そこは熟練した方々とうまく交流して吸収して行ってもらいたいです。

山本:今のものづくりは、機能が高度化・複雑化し、さらにリソースも限られていて、モデルベース開発など新たな知見が求められています。

佐々木:日本の強みであった「現場力」や「すり合わせ」では限界に来ていますね。製品コンセプトの上位側のグランドデザインになるべく思考する時間をかけることが求められていると思います。そのためにも、若手技術者には熟練した方々のノウハウをうまく取り込める学会のコミュニケーションの場を利用してもらいたいです。

山本:現場力といえば、日本のものづくりの信頼を揺るがす話題が続いています。時間をかけられなくて、そういったところも産業界は困っているのではないでしょうか?

佐々木:マネージメントの話になりますが、世界に勝っていくためにはどこかを無理しないといけなくてその歪が出ているのでしょう。競争力と相反して日本の強みである現場力が落ちているのは残念です。技術者倫理や教育は手を緩めてはいけないことだと業界全体で再認識する必要があります。教育は時間がかかるし、最適な答えはありませんが、時間がかかっても続けていかなくてはいけません。

 

魅力度向上の施策

産業界に貢献できる学会に

山本:今期の運営方針に「魅力度向上」に向けた諸施策を一番に挙げられています。

佐々木:産業界の悩みごとはたくさんあります。そういう課題を学会としてニュートラルにサポートすることが課題だと考えています。その仕組みを構築できれば、「機械学会は頼りになるな」と魅力度が向上すると思います。そのためには、①どういう価値を提供するか、②その仕組み・システムをどう作るかという二つの課題があります。それらを解決するために、これまでの政策・財務審議会という組織を「経営企画委員会」に変えて、進めていくつもりです。

山本:「産業界に貢献できる学会に」ということですね?

佐々木:研究が主であることは変わらないと思うのですが、誤解を恐れずに言うと、役に立つ・実用的な研究と学術的にレベルの高い研究は必ずしも一致しないことが多いです。その両方が機械学会にはあるのだとまず知ってもらいたいですね。

山本:産と学ではそれぞれの役割、個々の想いがあると思いますが…。

佐々木:大学では学術的なレベルを上げなくてはいけませんし、企業は製品やシステム、サービスに最終的には直結するものを求めます。シーズとニーズがずれるのは仕方ないと思います。ずれた状態で、どのようにマッチングしていくか…。そのマッチングが今の学会の役割なのでしょう。

山本:産業界の悩みごとの解決という点では、RC研究分科会など、今でもそういった仕組みとしてはありますが、あまり活用されていません。外から見えにくいと言われています。

佐々木:このままではどんどん産業界の人が離れていってしまいます。例えば、表彰はどうしても学術的なレベルが基準になっていると思われがちです。研究者が実用的な研究にも取り組むことをエンカレッジする仕組みが必要だと思っています。研究者の社会貢献度の高い成果に対して、インセンティブを与える仕組みを設けてはどうかと考えています。そういうことを地道にやっていかないといけないですね。さらにそこに地域のイノベーションという視点も加えたいです。大きい学会だからこそ、全国の地域の活性化に貢献できると思っています。長期ロードマップに乗せるような戦略を練っていきたいです。また、会員が新しいことにチャレンジできる、デザイン思考的な仕組みを学会に取り込むことも検討していきたいと思います。

【経営企画委員会】2018 年度重点施策

✓ イノベーションセンターと標準・規格センターの改組
✓ 財政の中長期ビジョンの策定と事業評価方法の検討(財務理事会と連携)
✓ 支部活性化策の検討(支部・部門活性化委員会)
✓ 新規事業などの提案を促進・支援する「チャレンジ制度」の検討
✓ その他組織力強化策の検討

技術者になったきっかけ

工作大好き少年から研究者へ

山本:子どもの頃の将来の夢はなんでしたか?

佐々木:はっきりした夢は持っていなかったのですが、なんとなく研究者になりたいと思っていました。

山本:ものづくりに興味を持ったきっかけは?

佐々木:小学校の頃から工作が大好きでしたね。相当時間かけて作ったりしていましたよ。市の展示会で賞をもらって嬉しかったですね。コンクリートミキサーを作りました。

山本:ずいぶん実用的なものを作られたのですね。

佐々木:何かを真似して作ったのだと思います。バルサ材とプラモデルの部品を使った素朴なものですよ。

山本:工学部に進もうと思ったのは、大学受験の時ですか?

佐々木:正直なところあまり専門分野にこだわりがなかったので、工作好きというのもあって工学部に進みました。その後、大学に残らずに企業に就職しましたが、会社の中で研究所に配属されましたので、半分は研究者の夢が叶ったような感じです。研究だけではものづくりができないのはもちろん分かっていますが、企業の研究部門は、先を見据えるためにも非常に大事だと思っています。

 

コミュニティーの重要性

趣味のサッカー・読書から学ぶこと

山本:休日は何をして過ごしているのですか?

佐々木:趣味はサッカーと読書です。サッカーは今でもやっていますよ。

山本:今でもですか!?

佐々木:研究所のサッカー部の部長です。

山本:ポジションは?

佐々木:年を取るとだんだん後ろの方に下がっていくんですよ。でも、さらに年を取るとバックは危ないので、今は前の方をやっています。最初は前にいて、下がっていって、また年取ると前の方に行けと。今でもサッカーを続けていることは誇りに思いますね。昔は会社公認の部で毎週土日ともやっていましたが、今は体力減退と膝を悪くしてしまったので月1回ぐらいです。

山本:応援されているサッカーチームはありますか?

佐々木:土地柄、柏レイソルと鹿島アントラーズを応援しています。

山本:読書については、どのような本を読まれているのですか?

佐々木:思想的な書物を読むことが多いですね。「いかにも難しいことを読んでいるんだな」と自己満足するような本をよく読んでいます(笑)。何回か読まないと理解できないですけどね。最近はものごとの考え方に通じるデザインの本も好きですね。結構、仕事や生活の役に立ちます。若い頃は推理小説や理系の本を読んでいましたが、今はほとんど文系の本しか読まなくなりました。

山本:仕事の役割が変わったのも大きいのではないでしょうか?

佐々木:読書もサッカーもマネージメントに直結しますね。例えば、サッカーではチームワークの視点が会社でも役に立ちますし、さらにコミュニティーが重要だと気づきました。職場の部署を越えられる横断的組織があると、人脈が形成されて仕事が非常に効率的になると感じます。そういうコミュニティーがある会社は良い会社ではないでしょうか。コミュニティーがなくなってしまうと会社自体の余裕もなくなっている気がします。

 

会員へのメッセージ

山本:では、最後に会員の皆さんに向けてメッセージをいただけないでしょうか?

佐々木:昔のように○〇力学とか単独の分野でやっていれば良い時代は終わりつつあると思っています。個々の分野における高いレベルの学術研究成果に加え、産業界が求めている高い価値の製品やシステム、サービスの思案に役立つ情報や知見が得られる産学共有の場を提供していきたいと思います。そして、産業や社会が抱えている課題解決のためにも、是非会員の皆さんの積極的参加とご協力をお願いしたいと思います。

(2018年3月28日 日本機械学会にて)