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2018/5 Vol.121

【表紙の絵】
空気をきれいにする車
須藤 二葉 さん(当時5歳)
走っても空気をよごさずにきれいにしてくれるから走るとみんなにこにこになるよ。


本誌2017年7月号に、「空気をきれいにする車」のテストプロジェクトを掲載しています。
合わせてお読みいただければ幸いです。

バックナンバー

未来マッププロジェクト 第2弾

ワークショップ「未来マッププロジェクト」

佐藤 勲(東京工業大学)

ワークショップの趣旨と内容

本特集の巻頭稿にもある通り、新しい未来マップ作成小委員会が実施してきた子供たちの描く未来の機械・キカイを機械工学の専門家として真摯にバックキャストする試みを、より広いメンバーで実施してみようとの趣旨で、2018年3月17日に本会関東支部講演会(電気通信大学)にてワークショップ(以下、WS)が開催された。WSには、未来マップ作成小委員会メンバーに加えて20名余の本会会員に参加いただき、前掲の「機械の中部点検」を題材に、小委員会の井上幹事(東工大)の軽妙なファシリテーションのもと、この未来の機械・キカイを実現するための概念やそれに必要な科学技術を議論した。

趣旨説明の後、議論の題材として、「機械の中に人が小さくなって入って目でかくにんできないような小さなトラブルを見つけているところ」との説明がついた絵画が披露された。ほとんどの参加者にとっては初めて目にする「夢の機械・キカイ」だったこともあって、最初はその「奇抜な発想」と「荒唐無稽さ」に意表を突かれた様子であったが、小委員会メンバーからもう一つの対象作品「地球を冷やす機械」の「読み解き方」の一例が紹介されると、押さえるべきポイントと自由に発想できる部分のイメージを掴むことができたようで、安心した顔が見られた。

その後、異なる専門分野のメンバーからなる四つの小グループに分かれて議論を開始した。45分ほどグループ内での議論を行った上で、その結果をグループごとに発表し、それを受けて全体で総合討論を行った。

グループに分かれての議論

バックキャストの結果と将来

WSでの議論の成否は、ある意味で荒唐無稽な子供の夢を実質的に実現するために個々人の発想をどれだけ飛躍させられるかが鍵を握る。この観点からいえば、やはり議論開始当初は、現状の機械工学の「常識」と子供の夢とのギャップに戸惑う参加者が多かったが、比較的想像しやすいコンピュータ科学やマイクロマシン技術の発展を念頭に「将来こんなことだったら実現できるかも」というアイディアが出始めると、とたんに議論が活発になる様子が見られた。

議論の後の発表では、グループごとに個性豊かな検討結果が披露された。今回の題材の絵画で想定されている「機械の中に人が小さくなって入る」ことは物理的に(倫理的にも?)無理があるため、各グループのバックキャストの内容は、「原寸大」の人間が「機械の中に入った」ように認識するためのVR(仮想現実)技術とマイクロマシン・マイクロドローンの組み合わせという点では共通していた。しかし、想定されたマイクロマシンの大きさや数はグループごとにバラエティがあり、検討するメンバーの専門分野構成による個性が出ていて興味深かった。また、一つのグループからは、こうした「道具立て」が他のグループから提案されることを見越して、いかに「目でかくにんできないような小さなトラブルを見つける」かという点に特化した発表が有り、参加者の関心を呼んでいた。

その後の総合討論では、参加者から一様に、こうした取り組みが新しい発想を得るには有効であるとの声があり、これを研究者の観点から活かすには学会内のより広いメンバーで議論を行うことが重要との点で一致した。また、こうした新しい発想を紡ぎ出す取り組みはより若い世代にこそ効果があるとの視点から、本会学生会を巻き込んだ活動の提案や、大学・大学院教育に展開したいとの意見もあった。

最後に、日本機械学会創立120周年記念事業委員会の有信委員長から、「イノベーションはいま取り組んでいることの延長線上にはない。新しい社会を創り出していくため、今回のようなトライアルを是非続けて欲しい。」との講評をいただいた。こうした認識を参加者間で共有できたことこそが本WSの最大の収穫であったように思われる。

今後の同様の企画に際しては、多くの会員諸兄のご参加とご協力が得られることを祈念して、WSの報告としたい。

有信委員長からの講評


<フェロー>

佐藤 勲

◎東京工業大学 工学院機械系 教授

◎専門:熱工学、生産加工、光学計測

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