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2018/5 Vol.121

【表紙の絵】
空気をきれいにする車
須藤 二葉 さん(当時5歳)
走っても空気をよごさずにきれいにしてくれるから走るとみんなにこにこになるよ。


本誌2017年7月号に、「空気をきれいにする車」のテストプロジェクトを掲載しています。
合わせてお読みいただければ幸いです。

バックナンバー

ほっとカンパニー

(株)ササクラ 「水」から世界のくらしを支える地球環境系企業

MED の仕組み

日本にはこんなすごい会社がある

大阪市に本社を置く(株)ササクラ(以下ササクラ)は、海水淡水化装置のメーカーとして世界にその名を知られるリーディングカンパニーだ。これまでに同社が納入した陸上用海水淡水化装置は累計504機。約270万トンの造水により約840万人の生活用水を造ってきた。まさにこれだけの人々の暮らしを支えてきたといっても過言ではないだろう。

1949年、船舶用造水装置からスタートした同社は、1965年に大きなチャンスをつかんだ。通商産業省から補助金の交付を受け、陸上用海水淡水化装置の研究開発に成功したのだ。翌年には、日本初の大型陸上用海水淡水化プラントをサウジアラビアのアラビア石油向けに輸出。以降、積極的に海外進出し、1972年には香港政庁から当時世界最大規模のプラントを受注。当時、まだ円安であったことが追い風になり、活躍の場を広げていった。1970年代に入るとオイルショックがササクラにさらなる好機をもたらした。原油高騰により経済的に潤った中東でインフラ整備が始まり、サウジアラビア海水淡水化公団からの大型受注が続いたのだ。「大型のプラント建設は複数の日本企業と共同で受注しますが、日本国内で考えればその中では当社が一番知名度は低い。それにもかかわらず、サウジアラビア側から『ササクラが入っているなら信頼できる』と言われたほど、現地では名前が知られていたそうです」(山下)

現在同社は海水淡水化装置を応用した領域にも進出。工場排水用の蒸発濃縮装置、省エネ性の高い空冷式熱交換器、騒音防止装置、放射空調システムなどを手掛けながら、環境を守る技術開発に取り組んでいる。

蒸発法を極めて「オンリーワン」の地位を確立

海水淡水化装置の技術は主に三つある。MSF(多段フラッシュ法)、MED(多重効用法)と呼ばれる二つの蒸発法とRO膜法だ。ササクラでも1960〜70年代にはMSFをメインに手掛けていたが、1980年代に入ると、より省エネルギー型の技術に進んでいった。当時生まれたのが、今も主流となっているMEDである。

MEDとは複数の効用缶蒸発室を連結した装置で、効用缶を四つ連ねたものが典型的だ。下図黄色部分に予熱された海水を流し、最初の効用で発電設備などからの蒸気を使用し、海水を加熱。以降は、前の効用缶からの蒸気を順次使用して蒸発させていく。最終的に、海水との温度差で冷却し、淡水を造る。エゼクタースチームコンプレッサーを用いることで、効率の良い熱回収を行い、電気消費量などを抑えた省エネ型の造水が可能になっている。

ササクラでは自らの強みに注力し、今は「高効率」をキーワードに、蒸発法の技術を極めている。現在進行中のサウジアラビア海水淡水化公団向けのプロジェクトは、完成すれば、世界最大規模・最大効率を実現するという。2017年には、石油依存経済からの脱却を目指すサウジアラビアの改革を日本が支援する「日・サウジ・ビジョン2030」が両国間で合意された。ササクラもこれを機に、高効率装置の需要がさらに高まることを視野に入れている。

実は、現在は世界的に見ればRO膜法が9割以上を占めるという。ササクラも1980年代にいち早くバーレーンでRO膜法を手掛けたが、「当時はまだRO膜自体の性能が安定しておらず、プラントメーカーとして蒸発法に強みがあった」と山下は語る。同部海水淡水化技術室長・甲斐伸太郎は「膜法と蒸発法はお互いにメリット/デメリットがある。清浄な海水を処理するには膜法が適しているが、海水の水質悪化に弱いため中東(特にアラビア湾沿岸)などでの海水淡水化には不向き」と話す。とはいえ、次なる海水淡水化技術としてササクラが開発を進めているのは、ナノフィルターを用いたRO膜と蒸発法の「いいとこ取り」を追求したNF/RO+MEDハイブリッド海水淡水化装置だ。「サウジアラビアのアルジュベールでテストしたところ、いい結果を得たため、現在大型化・商品化に向けて動いているところです」(山下)

サウジアラビアのSWCC向けMSF型海水淡水化プラント

(アルジュベールフェーズII)

データとノウハウの蓄積が活きる濃縮装置

「濃縮装置への進出も海水淡水化装置の蒸発法の技術がなかったら実現していなかった」と甲斐は振り返る。1980年代、原油価格の低下と円高が重なり、それまで売上の8割を海外に頼っていた同社が、改めて日本市場に目を向けたのが始まりだった。日本国内は、水が豊かであるため、大型海水淡水化装置の需要はほぼなかったが、その技術を工場から出た廃液の蒸発濃縮に応用し、製品化した。

VVCC濃縮装置

 

濃縮技術には、海水淡水化装置では経験しなかった難しさもあった。「海水は世界どこでも大きく異なるものではありませんが、蒸発濃縮装置が扱う溶液は各社それぞれ。まさにトライ・アンド・エラーのくり返し。とくにスケールと腐食との戦いでした」(甲斐)。現在も処理の難しい廃液への挑戦にも取り組んでいるが、その技術躍進の一翼を担っているのが、2005年に設立された研究開発施設「テクノプラザ」だ。ユーザーがデータやノウハウを組み合わせて開発・実験できる施設で、例えば実際の廃液を持ち運んで試験したり、貸出の研究室として利用されている。ここで得られるデータは年間100件以上。その蓄積があるため、ユーザーにベストな提案ができるようになったという。時を経て、濃縮装置に求められる技術も減容化だけではなくなってきた。現在、ササクラでは濃縮液から有価物を回収し、凝縮水は純粋としてリサイクルして水環境に影響を及ぼさないという循環型社会に最適な技術を実現している。

テクノプラザ外観

主戦場は海外。求められる真のグローバル精神

甲斐と山下の話を聞いていると、2人が世界を飛び回り、異文化の壁を越えて、タフに仕事を続けている様子が至るところから伝わってくる。「机上での設計がそのままうまくいくわけではない。ぶっつけ本番での対応力が求められる」と甲斐が語れば、山下も「納品して終わりではなく、その後に実際に現地へ飛び、動いている様子を見て学ぶことが多い。そういうスタイルを好む人には、いくらでもチャンスがある会社だと思う」と言葉をつなげた。国内を基盤にして海外へ足場を広げるケースと違い、いきなり海外市場の土俵で戦うササクラのような会社こそが、まさにチャレンジ精神にあふれた真のグローバル企業なのかもしれないと感じた。

今回取材にご協力いただいた甲斐さんと山下さん

日本機械学会優秀製品賞を受賞した船舶用造水装置

「ササクラ フレッシュ・ウォーター・ゼネレータ Kシリーズ」の前で

(取材・文 横田直子)


株式会社ササクラ

所在地 大阪府大阪市

http://www.sasakura.co.jp/

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