名誉員から一言
研究成果の世界への発信
「研究成果の世界への発信」の一例として筆者の経験を紹介したい。
筆者が論文を書き始めた48年前、機械学会の論文集に掲載されるのが一つのステータスであった。そのため、研究成果を英文雑誌に投稿するとなると、機械学会の英文誌が関の山でASMEへの投稿など大変に敷居が高かった。
ところが、今では状況が大きく変わり、海外の雑誌への投稿が評価されるようになった。筆者がそのことに気づかされたのは、シンガポール国立大学の友人から「インパクトファクターを知っているか?」と質問された20年以上も前のことである。それまでインパクトファクターを全く知らなかったが、大学でも徐々に話題に上るようになった。機械学会の編修理事を担当したとき、機械学会論文集にインパクトファクターが付くようにいろいろな方策を検討し一部実行したが、残念ながらインパクトファクターは付かなかった。
その当時、論文が機械学会論文集に掲載されても、どの程度読まれているかを把握する術もなかったし、誰の論文に引用されているかも知ることができなかった。幸いにも筆者が専門とする分野には、インパクトファクターが高い英文雑誌(2018年2月現在、IF=3.995)があった。
インパクトファクターについて改めて説明することもないが、インパクトファクターが高い雑誌は、引用文献として参照される確率の高い雑誌ともいえる。筆者は、5軸マシニングセンタの組み立て誤差を評価する新しい方法を開発し、それを国際雑誌に発表した。その反響は、それまで日本語で書いていた論文と比べてはるかに大きいもので、多くの論文に引用された。ちなみに、2018年2月現在で、Google scholarによる引用元は英文では230にもなる。同じ内容の和文は14と少ない。しかもその和文論文は、大部分がいわゆる自己引用である。
筆者は、たまたま三十代後半から工作機械の精度評価に関係するISO規格やJISに関わるようになった関係で、「研究成果を国際標準にする」ことを最終目標にして研究を行ってきた。
幾何精度、位置決め精度などさまざまな試験方法とその許容値が規定されたマシニングセンタの試験規格が1995年頃に相次いで完成した。ちょうどその頃、日本では5軸マシニングセンタを製造するメーカが増えてきていた。しかし、5軸マシニングセンタに適した試験規格がないことから当時のチェアマンであるイタリア代表にその必要性について質問したところ、筆者の考えている規格案は、工作機械の試験規格ではなく2軸制御の傾斜回転テーブルの試験であるので、マシニングセンタの規格にふさわしくないとの回答だった。
そこで、筆者は標準化を意識して5軸マシニングセンタに適した試験方法の調査研究を始めたが、すぐに標準化に繋がるような内容のある試験方法を考案するに至らなかった。
筆者の所属していた大学院生物システム応用科学研究科では、“教授は毎年2人の博士後期課程の学生を確保する”という縛りがかけられていた。そのこともあって、積極的に修士課程に在学する学生や社会人に声をかけ学生を確保していった。ちょうど5軸マシニングセンタを対象とした研究を始めた二人目の博士後期課程学生が幾何誤差を簡便に測定する方法を考案した。その成果を見て、その方法は国際標準にできると考え、即座に国際雑誌に投稿した。その研究を拡張するために、さらに博士後期課程の学生3人を投入し、規格の体系をまとめた。
幸いにも日本工作機械工業会とISO/TC39/SC2(金属切削工作機械)の日本代表委員の理解もあって、原案をISOに提案することができた。しかし、規格内容は筆者の考えが全面的に採用されたわけではなく、各国からの修正が出され、その中でも、開発されたばかりの測定器を採用するよう提案されたことは予想外であった。筆者がその測定器を代替方法とすることを提案したところ、逆に筆者の方法が代替方法にされてしまった。
最初の論文が掲載されてから規格が発行されるまで12年の歳月を費やした。ISO規格が完成した時点で反省すべき点は、海外の関連する研究を行っている研究者に声をかけて国際共同研究にしなかったことである。研究者を招いたり、また派遣したりして研究を進めていれば、もっとスムーズに標準化を進めることができたと思われる。
参考文献
(1)Tsutsumi, M. and Saito, A., Identification and compensation of systematic deviations particular to 5-axis machining centers, International Journal of Machine Tools and Manufacture, Vol.43, No.8 (2003), pp.771-780.
<名誉員>
堤 正臣
◎東京農工大学 名誉教授 国立虎尾科技大学 専任研究員
◎専門:工作機械の性能評価および制御
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