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2018/5 Vol.121

【表紙の絵】
空気をきれいにする車
須藤 二葉 さん(当時5歳)
走っても空気をよごさずにきれいにしてくれるから走るとみんなにこにこになるよ。


本誌2017年7月号に、「空気をきれいにする車」のテストプロジェクトを掲載しています。
合わせてお読みいただければ幸いです。

バックナンバー

未来マッププロジェクト 第2弾

未来マッププロジェクト 未来の社会が求める「もの」「こと」を実現する専門家集団であり続けるために

日本機械学会創立120周年記念事業委員会

新しい未来マップ作成小委員会

未来の機械・キカイ

本会会誌2017年7月号でも紹介したが、「未来マップ作成プロジェクト」は、本会の創立120周年を機に、将来の機械工学が社会に何をもたらすのかを予想し、その実現に向けて今なすべきこと、今から準備をしておくべきことを俯瞰しようとするものである。未来を見通すことは誰にとっても簡単なことではなく、特に現在の科学技術に慣れきってしまっている我々にはきわめて難しいことから、よりフレッシュな感性を持つ子供たちの力を借りて、将来の機械がもたらす社会を予想し、その実現に必要な技術要素を抽出することを目的としている。

本会が2011年度から機械の日・機械週間の行事の一環として実施している「絵画コンテスト」には、幼児から中学生に至る幅広い年代の子供たちが自由な発想で描いた「夢の機械・キカイ」「未来の機械・キカイ」に関する作品が多数応募されている。こうしたアイディアを借りて、その実現に必要な技術要素を抽出することで、将来の機械工学が社会にもたらすものを予想しようというのが「未来マップ作成プロジェクト」の趣旨である。これらの作品の中には、機械工学の常識に凝り固まった我々には想像もつかない奇抜な発想と理念に基づくものがあるが、せっかく子供たちが将来「あったら良いな」と思った機械・キカイであるから、それを実現するために我々に何ができるのか、実現までに何をしなければならないかを真剣に考えてみようということである。そのための手法は、前回のテストプロジェクト同様、まずは描かれた作品から素直な目で子供たちの夢を抽出し、それをゴールに実現するためのステップを現在までさかのぼって考察する、いわゆる「バックキャスティング」を行う。これにより、設定されたゴールに対して現状の科学技術が追いついていない部分を、解決が必要な「ブレークスルー」として仮置きできるため、現状の技術をベースに積み上げ式で未来を予測する方法より自由な発想を取り入れやすい。そして、「ブレークスルー」として残された課題が次の機械工学の目指すべき方向のヒントを与えてくれるだろうと考えている。

今回の対象作品は、図1図2に示した二つの絵である。図1の「地球を冷やす機械」につけられた作者のコメントによると、この絵の趣旨は「地球温暖化を止める為に、雪の花や、氷の花火を出して、地球を冷やします。見ている人も楽しめます。地球も皆も、幸せになれる様にと、願いを込めて、描きました」とのことだ。もう一つの作品である図2は「機械の中部点検」と題された作品で、「機械の中に人が小さくなって入って目でかくにんできないような小さなトラブルを見つけているところ」を描いたものとのことだ。バックキャスティングに際しては、できる限り誠実に、こうした作者の夢や期待をかなえる方策を検討した。これらの検討結果については、次ページ以降の記事を参照していただきたい。

図1 地球を冷やす機械

 

図2 機械の中部点検

 

未来の社会が求める「もの」「こと」を実現するために本会が果たすべきこと

今回の2作品に対するバックキャスティングの結果には十分詰め切れていない部分もあるだろうし、バックキャストの方向性そのものに対してもさまざまな意見があろうことは覚悟(?)している。こうした批判は真摯に承りたいと思うが、本プロジェクトの目指すところがこれらの作品のバックキャストだけにあるわけではない点は是非ご理解いただきたい。

すなわち「未来マップ作成プロジェクト」は、子供たちが想い描く未来を実現するために機械工学の専門家集団である本会が果たすべき役割を、会員諸兄がそれぞれの専門性を持ち寄って「ああでもない、こうでもない」と議論すること、こうした議論を通して我々が次に為すべきことを再認識することを目指している。この意味で、今回のバックキャストの結果を一つの材料に、賛否だけでなく、新しいアイディアを交えつつ、議論を続けていくことが重要であると考えている。

そのため、「未来マップ作成プロジェクト」の次のステップとして、関東支部講演会の場を借りて、今回の対象作品の一つをテーマにワークショップを開催した。その様子は24ページに紹介する通りである。こうした活動を通して、未来の社会が求める「もの」「こと」を実現するために、本会が果たすべきことを多くの会員に考えてもらう契機となること、さらにはこれを通して新しい機械工学の方向性が醸成されることを期待する。

最後に、こうしたことを考える機会を与えてくれた絵画コンテスト応募者の子供たちにも心からの敬意を表す。


新しい未来マップ作成小委員会

佐藤 勲(東京工業大学)、井上 裕嗣(東京工業大学)、坂上 隆英(神戸大学)、

高木 周(東京大学)、高橋 正樹(慶應義塾大学)、村上 陽一(東京工業大学)

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