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2018/10 Vol.121

A mine arms
菅原 紡宜 くん(当時11 歳)
深海の生物と共生して、生態の謎を解き、深海生物の不思議な力を集めて、地上で使える新しいエネルギーに変換できる機械。
地底からレアメタルを採掘したり、海底火山の調査から地震を予知することもできる機械。

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特集 地球環境の変化を知る―技術はどのように貢献するか―

マイクロ流体技術による海洋化学・生化学計測

福場 辰洋(海洋研究開発機構)

はじめに

現場海洋化学・生化学計測の重要性

広大な海中環境のほとんどは太陽光の届かない世界であるため、有索の無人探査機や無索の自律型海中ロボット、有人潜水調査船などに代表される海中観測プラットフォームを活用した各種調査ミッションにおいては、強力な投光器を用いたビデオ・写真撮影や目視観察、水中音響機器による海底地形調査・海底下構造探査などが行われる。また、海中ロボットなどの測位・通信にも音響技術が不可欠である。これらは生物でいえば鋭敏な目や耳を使って情報を取得する活動に例えられる図1。また、水温や水圧(深度)などを計測する物理センサを装備することで、海中ロボットのおかれた環境に関する情報を得ることができる。これは生物の皮膚感覚に相当すると言える。一方で、海水の成分や、カメラで撮影することができない微小な生物を対象とした調査を行うには、かつては調査船などから投入される採水器を用いたサンプル採取と、船上・陸上のラボにおける分析に依っていたが、現在では塩分センサや溶存酸素センサ、植物プランクトン現存量などの指標となるクロロフィル濃度を計測するセンサなど、信頼性の高い現場型センサが市販されており、それらを同時に用いた複合計測も一般的になっている。このような現場型センサによる計測は、鼻で海水の特徴を嗅ぎわける感覚に近いだろう。

図1 自律型海中ロボットと機能要素

 

現場型センサなどを用いた計測の利点は、時空間的に連続した計測データをほぼリアルタイムに得ることができる点が挙げられるが、海洋計測の現場においてそれが可能な計測項目はまだ限られている。特に、サンプルと試薬の反応を含めた化学・生化学分析操作が必要なパラメータの現場計測技術はまだ発展の途上にあり、これが本格的に実用化されれば、いわば海水成分を舌でしっかりと味わって評価するための「味覚」に相当する機能を海中ロボットなどに実装できる。

一方で、近年のMEMS技術を応用したマイクロ流体および関連技術の発展により、マイクロ流体デバイスを組込んだ可搬型装置を用いて、複雑な操作を必要とする分析の自動化が実現可能になってきており、さらにはそれを海中の現場に持ち込むことも試みられている。本稿では、特に小型の現場海洋化学・生化学分析技術に関する研究開発の現状と将来展望について述べる。

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