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2018/11 Vol.121

【表紙の絵】
地球アニマル保ごしせつ
村井 暁斗 くん
(当時10 歳)
動物を地球の中に入れてすみやすいようにしている。
またしょく物も入れているので定期的に水を外から、あたえる。
野生動植物をほごする。

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ほっとカンパニー

(株)タダノ 高松と世界をつなぐ建設用クレーンのトップ

ラフテレーンクレーン GR-1000N

 

ラフテレーンクレーンとトラッククレーンの強みを合体させた「オールテレーンクレーン」

日本にはこんなすごい会社がある

2019年に創業100周年を迎える香川県高松のタダノ。1955年、日本で初めて油圧式クレーンを開発し、以来、日本のクレーンを牽引してきた。事業の三本柱は、建設用クレーン、車両搭載型クレーン、高所作業車。国内トップシェアを誇る建設用クレーンの主な製品は、ラフテレーンクレーン、トラッククレーン、オールテレーンクレーン。いずれも用途が異なり、ラフテレーンクレーンは狭い現場に対応したコンパクトな機動性と操作性を備え、トラッククレーンは、汎用または専用キャリヤに大型クレーンを架装し、トラックの機動力が強み。オールテレーンクレーンは都市開発や高速道路、橋梁などのインフラ整備などの現場で活躍。不整地から高速走行まで対応し、数百トンの荷の吊り上げもできる。

現在、タダノは日本をマザー工場に位置づけながら、ドイツやアメリカ、中国、タイに生産拠点を置き、グローバル生産体制を構築している。日本や北米、中東ではラフテレーンクレーンが多く、欧州はオールテレーンクレーンが中心。東南アジアや南アジアなどの新興国ではトラッククレーンの人気が高いという。

「軽量化」と「ESP機構」がタダノの強み

建設用クレーンにおいて、技術競争の一つが軽量化技術となる。タダノがつくるクレーンは公道を走るため、法規による車両制限がある。その制限の中で、「軽く長いブームで、重たい物を高く遠くへ運ぶ」ことが常に求められている。それを達成する手段が、高張力鋼を使い、強い材料を薄く使うこと。軽量でかつ座屈しにくくするため、かつて四角形だったブームの断面は六角形、そしてラウンド型に変遷してきた。

軽量化技術と並んで、タダノの優位性を後押ししているのが、「イージー・スカイピン(ESP)機構」だ。これは、内蔵された1本の油圧シリンダが、ブーム内でスライドし、各段をブーム固定ピンで連結しながら、順次送り出していく画期的な伸縮システム。「ESP機構を採用することで、長く先の軽いブームとなり吊上げ機能を格段に向上させることができます」(同社執行役員/開発企画部長・合田洋之)。クレーンの持ちうる能力とパワーを最大限に活かす機構だが、ブームを伸ばすには時間がかかる。時間を優先する顧客には、複数のシリンダとワイヤーロープを組み合わせた同時伸縮タイプを勧めている。

ブームの断面の変遷

「安全性」に絶対的なプライオリティを置いて

一方、安全を第一とする同社の“コアバリュー”も、製品の至るところに反映されている。その一つが「タダノビューシステム」。主に三つの機能がある。一つ目は「ワイドサイドビュー(俯瞰映像表示装置)」。車両を上から見たような映像を大型マルチファンクションディスプレイに表示し、安全確認をサポートするものだ。二つ目は「ヒューマンアラートシステム(人物検知警報装置)」。運転席からは確認しづらい車両左側面をカバーし、歩行者や自転車などに乗った人物を検知し、ブザーで知らせる装置である。そして三つ目が「ブーム先端カメラ」。ブームの先端にカメラを設置することで、突出したブームによるリスクを軽減している。

「一般公道も走るクレーンは、安全性の確保が必須。『ワイドサイドビュー』は国内初、『ヒューマンアラートシステム』は世界初と、他社にはないレベルで安全に力を入れています」(合田)。多くの建設業経営者とクレーンオペレータから高い評価を得ているという。

内蔵された1本の油圧シリンダがブーム内をスライドする 「イージー・スカイピン機構」

 

さらに業界特有のニーズに対応した技術開発もある。熟練の技術が必要とされるクレーン操作だが、現場の作業者の高齢化が進んでいる。これを解消すべく、ラフテレーンクレーン「CREVO」シリーズのG4「GENERATION 4」で初採用したのが、ラフテレーンクレーン初のラジコンシステムだ。周囲の安全を確認しながらクレーンの設置準備などを行うことができる効率的なワンマンオペレーションを可能にしたものだ。また高所での作業が必須だったジブの装着・格納も格段に安全で効率的になった。「ジブ装着時のキャリヤへの昇降回数は以前は5往復でしたが、セットアップラジコンを使えば1往復で済む。高所での作業もなくなりました。高齢化に対応するとともに、若い世代がもっと業界に入る助けになればと願っています」(合田)。

このような技術の先行開発は研究所が担っている。「最先端の研究や先行開発は研究所が常に進めています。私どもはそれを盛り込みながら、量産できるベストな製品の開発を進めています」(同社開発企画部企画管理ユニットマネジャー・櫨林幹夫)。

 

ジブ:ブーム先端のエクステンション部材

 

ラフテレーンクレーンで採用する 「セットアップラジコン」

 

売上比率“8割海外”を目指して

現在、タダノが掲げる目標は「LE世界No.1」だ。LE(Lifting Equipment)とは(移動機能付)抗重力・空間作業機械のこと。現在の海外比率は約半分だが、売上比率の8割を海外にするという長期的な目標を持っている。国内市場は飽和状態に近いが、海外ではまだまだ開拓すべき市場が広がっている。この開拓には、クレーンのさらなる性能向上はもちろんのこと、価格競争力も避けられない。「品質を下げずにいかにして世界中のお客様に納得頂ける価格を提示できるか?また、今のクレーンで本当に良いのか?何か新しい機械・アイデアがあるのでは?もしかしたら、AIやIoTの活用でクレーンそのものが大きく変わる可能性もあるかもしれません。いずれにしても今は技術面において大きな変革期にあり、我々も積極的にイノベーションに取組んでいきたいと考えています」(合田)。

仕事のやりがいを尋ねると「1:9で9割しんどいですよね(笑)」と合田。しかし、「具現化するため日夜アイデアの発掘や実現性の検証に確認に苦労しますが、それを乗り越えて、試作機のプロトタイプのエンジンがかかる瞬間ですとか、新製品をお客様に喜んでいただける時は嬉しいですね」と笑顔で語ってくれた。一つのプロジェクトが終わると、横断的に各チームが集まって宴席をもうけ、労をねぎらうことも多いという。

求められることは多いが、それを乗り越えた時の喜びもひとしお。さらには志を同じくする仲間もいて、喜びも苦しみも共有できる。そんなタダノの社風を感じた。

(取材・文 横田 直子)

取材にご協力いただいた合田さん(左)と櫨林さん(右)


株式会社タダノ

本社所在地 香川県高松市

http://www.tadano.co.jp/index.html

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