名誉員から一言
これからも繁栄する「日本のモノづくり」に向けて
私は今まで40年以上にわたり、一企業でモノづくりに携わってきた。日本の製造業は、昭和40年代〜50年代の高度経済成長に支えられ、世界に先駆けて新しい技術や自動化などを取入れ発展してきた。戦後のベビーブームに生まれた、いわゆる団塊の世代の人々の熱意とパワーで、世界をリードする状況を作り出し、「日本アズナンバーワン」と言われるまでになった。
しかし平成の時代、1990年代に入りバブルが崩壊したことにより、経済の低迷期を迎えた。高度化、巨大化した製造業は、その対応として海外展開を図ることで成長を維持してきた。こうして日本国内や海外に展開された製造業の繁栄は、製造業の本質である付加価値を多く生み出し、国富に貢献し現在も続く日本の繁栄の多くを支えてきたと言っても過言ではない。
その日本製造業の競争力が、今大きな岐路に立っているように思える。内なる要因は、人口問題すなわち若者の減少である。加えて高学歴化や社会の多様化から働き場所の多様化も進んでいる。工場の現場を支える人材を目指す若者が少なくなり、モノづくりで一番大切な「現場力」を維持、向上させることが難しくなっている。生産現場は多くの場合、地方に存在するが、若者の都市志向、特に東京へのあこがれなども関係している。情報、ソフトウエアの開発、製造では、大きな設備などは必要とせず、都市部が生産拠点となりえるのであるが、従来からの機械部品や自動車などでは、広大な工場を必要とし、人材が都市周辺にいるとしてもなかなか工場を移転することはできない。
加えて外なる要因、外国勢力の台頭がある。一つは中国やASEANなどの新興国の発展である。これらの国々は、今や「労務費が安い」という認識だけでは不十分で、大きな市場を持ち、若い技術者や技能者が活躍を始めた手強い競争相手である。欧米も、モノづくりは国富にとって不可欠という考えで、新たに挑戦してきている。その代表的なものがIoTやインダストリ4.0である。得意の情報技術を活用し、流通やサービスまで含めて、製造業を根底から変えていこうとする試みである。
現在の情報技術は、スマートフォンやインターネットの進歩にみられるように素晴らしいものがある。最近は人工知能AIやクラウド、ビッグデータの活用なども当たり前のものとなってきている。ところがモノづくりの現場では、これらの技術がまだ十分に活用されているとは言いがたく、これからの課題である。このような背景から国レベルでの成長戦略として「ソサエティ5.0」が提唱されている。これはサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムと言えるが、要するにAIやIoTなどの情報技術活用と現地現物のモノづくりを連携させて実現されるものである。
現在は、情報技術やソフトウエアに注目が集まるが、どんなに優秀なソフトウエアにもそれを最終的に実現するハードウエアが必要である。IoT時代では、情報の出口がディスプレイやプリンタだけではなくなる。自動運転する自動車やロボットであったりする。これら機械装置の機能や信頼性も従来以上に非常に重要なものとなってくる。各種のセンサーやアクチュエータなども高機能で安価なものが大量に必要となってくるが、これらは日本の「モノづくり」の得意な分野であり、世界にも貢献できる。
情報技術も大切であるが、それと同時に機械技術などのリアルな世界も大変重要であり、これらは車の両輪のごとく進展することが必要である。これができるのが日本の強みと言える。さらなるマイクロで超高精度な部品も必要となり、それらを支える設計技術や加工技術なども進化することが望まれる。熱の問題やトライボロジーなどもシステムの信頼性や寿命でますます重要度が増してくると思う。
こういった面で日本が貢献できる分野は多くあり、それがまた今後の日本のモノづくりの繁栄を支えていく一つの要素になると思う。機械技術はIoTやインダストリ4.0の時代でも決して色あせることはなく、ますます重要になってくることを若い研究者や技術者の方々は理解すべきである。
モノづくりを取巻く世界は大きくて広い。特に中国などの新興国は今後も成長していくと思われる。日本が過去の成功体験をもとに、中国などと「綱引き」のような力業で勝負しても勝ち目は期待できない。日本のモノづくりは過去の成功体験から脱却して、さらに先を目指せば明るい未来も見えてくるのではないか?そのためには得意なモノづくりの技術や技能を活かして、オリジナリティのある製品や生産システムを構築していくことである。若い機械技術者諸君の今後の大いなる健闘を期待したい。
<名誉員>
土屋 総二郎
◎(公社)日本プラントメンテナンス協会 会長 (株)デンソー元副社長
◎専門:生産システム、生産加工
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