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2020/1 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。

バックナンバー

特集 プロフェッショナルとしての技術者 -子供たちが夢見る職業か?-

英国のチャータードエンジニアの紹介

蝦名 雅章(Institution of Mechanical Engineers)

チャータードとは

図1 女王エリザベス2世とエディンバラ公

 

英国には二つの統治機構がある。一つは国王と枢密院、もう一つは議会政府で、二つの政府が共存する形となっている。枢密院(Privy Council)は、女王陛下の諮問機関で、宣戦布告など国王大権の行使に関する助言、カリブ海などの一部英領島嶼諸国の統治(行政および司法権)、公益法人格の付与を意味するRoyal Charter(勅許状)の審査などを行っている。審査により認められた法人は女王陛下によりRoyal Charterを授与される。これを与えられた機関あるいは法人はChartered InstituteあるいはChartered Corporationと呼ばれる。

Royal Charterの歴史は古く、13世紀前半より現在まで1,000を超える数の法人が王権により授与されてきた。その中には1231年に設立されたケンブリッジなど多くの大学や教育機関、1600年の東インド会社、近代ではBBC、ロイヤルオペラハウス、多くの病院、教育およびプロフェッショナル機関などが設立されている。

職業としてのエンジニアの誕生

18世紀までは、プロフェッショナルとしてのエンジニアの役割はRoyal Engineersと呼ばれる軍隊の工兵が担っていた。社会の発展とともに社会インフラ整備など非軍事的な分野を担うエンジニアが求められるようになった。1818年に任意団体として最初のプロフェッショナルエンジニアの団体Institution of Civil Engineersが設立され、1828年に国王の勅許により法人化された(Chartered Institution)。

この時代のCivil Engineersは、民生(Civil)のためのエンジニアという意味で、現在のCivil=土木とは違った意味を持っていた。科学技術の発展によりエンジニアリングもより専門化する必要が出てきた。1847年に鉄道や灯台など土木以外の部分を専門とするInstitution of Mechanical Engineers (IMechE) が設立され、土木とそれ以外のエンジニアリングが分離されることになった。時代を経るにつれてIMechEよりさらに電気・情報通信、化学などが分離独立していった。現在Chartered professional Institutionの数は36あり、会員数は22万人となっている。

現在でも、“エンジニア”は社会の一つのクラスを構成し、社会への貢献が求められている。“Improve the world through engineering”を標語に、スポーツエンジニアリングという新たなジャンルを開拓し、身体に障害を持つ人々と健常者の距離をなくすための活動や国際ルール(ISO化)の構築などに貢献している。活動は基本的にはボランティアである。

Institution of Mechanical Engineers(IMechE)について

IMechEは、1847年に設立された。初代の会長は蒸気機関車で知られるGeorge Stephensonである。IMechEは、プロフェッショナルエンジニアの団体としては最大の会員数を誇る。登録会員数は世界141か国にわたり、11万人となっている。そのうちChartered Engineerは4万人程度である。

現在、主要テーマとしてEnergy、Environment、Transport、Manufacturing、Educationの5つの課題に注力し、専門分野としては、宇宙航空、自動車、建設、製造、医療、電力、プロセス、鉄道の8の分科会を中心に、また、複合的な分野に関しては10の分野のグループを運営している。

IMechEの活動内容について

図2 初代会長George Stephenson

図3 Headquarters, built in 1899, at One Birdcage Walk, London.

1)後進のチャータードエンジニアの育成
チャータードエンジニアの育成に当たっては、Mentor制度により直接後進の相談相手となっている。これは一種の徒弟制度であるが技術・経験の共有にも役立っている。

2)大学教育のカリキュラムの認証
Mechanical Engineerとしての基本的な大学教育カリキュラムの認証を行い、大学教育に基礎教育の充実と社会ニーズなどを反映させている。

3)社員教育システムの認証(MPDS: Monitored Professional Development Scheme)
企業の社員のエンジニア教育プログラムの認証を行い、会社内のプロフェッショナルエンジニアの育成をサポートしている。なお日本の場合には各社各様の教育システムを持っており、第3者の目が入ることは無い。

4)学術誌の発行
IMechEの学術誌は以下に示すように18の分野で出版されている。こういった学術誌は、国際機関の環境白書にも反映されるなど、学術誌として国際的な役割を果たしている。

(1)Part A: Journal of Power and Energy, ISSN: 0957-6509
(2)Part B: Journal of Engineering Manufacture, ISSN: 0954-4054
(3)Part C: Journal of Mechanical Engineering Science, ISSN: 0954-4062
(4)Part D: Journal of Automobile Engineering, ISSN: 0954-4070
(5)Part E: Journal of Process Mechanical Engineering, ISSN: 0954-4089
(6)Part F: Journal of Rail and Rapid Transit, ISSN: 0954-4097
(7)Part G: Journal of Aerospace Engineering, ISSN: 0954-4100
(8)Part H: Journal of Engineering in Medicine, ISSN: 0954-4119
(9)Part I: Journal of Systems and Control Engineering, ISSN: 0959-6518
(10)Part J: Journal of Engineering Tribology, ISSN: 1350-6501
(11)Part K: Journal of Multi-body Dynamics, ISSN: 1464-4193
(12)Part L: Journal of Materials: Design and Applications, ISSN: 1464-4207
(13)Part M: Journal of Engineering for the Maritime Environment, ISSN: 1475-0902
(14)Part N: Journal of Nanoengineering and Nanosystems, ISSN: 1740-3499
(15)Part O: Journal of Risk and Reliability, ISSN: 1748-006X
(16)Part P: Journal of Sports Engineering and Technology, ISSN: 1754-3371
(17)International Journal of Engine Research, ISSN: 2041-3149
(18)The Journal of Strain Analysis for Engineering Design, ISSN: 2041-3130

賞の付与

James Watt International Gold Medal賞は、世界のエンジニアリングの発展に貢献した方々に隔年で贈られる賞で、日本人では1969年に島秀雄氏、1991年に本田宗一郎氏、1995年に豊田英二氏が受賞されている。この賞はInstitution of Civil EngineersとInstitution of Mechanical Engineersが共同で運営しているもので、隔年で授与が行われている。

日本のチャータードエンジニア

日本でも資格取得が可能となっており、IMechEの日本支部も相談を受け付けている。現在、日本機械学会、日本技術士会および自動車技術会と、協力に関する覚書を締結し、将来のスマートシティの概念や、地球温暖化への対応などグローバルな課題に関し、共同でセミナーを開催するなど、日本発の国際基準の枠組み作りに貢献をしつつある。

チャータードエンジニアに求められる要件と活動の場

チャータードエンジニアの要件には1)基礎知識、2)応用能力、3)リーダーシップ、4)コミュニケーション能力、5)倫理規範が求められている。チャータードエンジニアは米国のPEのように明文化された権限は無いが、エンジニアのリーダーとしての役割があり、必要に応じ技術系業務資格の設立などを促し、またそれらの制度設計を行う立場にある。現在IMechEは、World Bankなど国際機関に対し白書を作成し、あるいはISOなど国際スタンダードの枠組み作りへの参加を通し、地球温暖化などグローバルな課題への取り組みを強めている。


蝦名 雅章
◎Institution of Mechanical Engineers 日本代表

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