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2020/1 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。

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名誉員から一言

「ものづくり」について思うこと

私は大学において教育、研究に40年の間携わってきた。大学の世界だけしか知らない私であるが、「ものづくり」に関して大学の研究者、教育者の立場で思ったことについて一言述べたい。

専門分野を活かした「ものづくり」

工学とは、自然科学を応用して「ものづくり」の技術を発展させる学問分野であると考えている。工学に携わる者として一度は自分の研究分野を活かし、一つの製品となるような「ものづくり」をやりたいと考えた。

私の専門分野は機械力学で、機械振動を中心に教育・研究を行っている。そこで振動を利用した発電に目を付け、振動の往復運動を回転運動に変換して発電機を駆動する方式を考案した(1)。振り子の支点の往復運動によって振り子が回転するという原理を応用している。支点に一方向クラッチを組み込むことによって回転運動への変換を助長、振り子を2個並列の2自由度系とすることによって回転の停止を防止、といった工夫の結果、支点振幅の大きさの制限はあるものの、往復運動を回転運動に効率的に変換する装置が完成した。発電機の軸にこれを取り付け、大きく振動する構造物に搭載すれば発電ができる。特許も取得することができ、この成果が認められたものと思っている。

特許の申請については、さまざまな人がいろいろなことを考案しているので、思い付きだけではすでに申請されているものと重なることがほとんどであった。自分の特徴ある研究を活かした「ものづくり」を提案できれば、他人の特許と重なることなく特許が成立する確率が高い。是非挑戦されたらよいと思う。

学生の「ものづくり」

学生の「ものづくり」について考えさせられることがあったのでここに紹介する。

以前に勤めていた大学の工学系の学生と近くの芸術系大学の学生とのコラボによる「ものづくり」コンテストを実施していた時期があった。参加する学生グループを双方の大学から募り、共通の課題を与えてまずは全学生グループから課題に沿った「もの」を提案してもらう。それらの提案が審査されて数件に絞られ、工学系からの提案であれば芸術系の学生グループ、芸術系であれば工学系からの参加を募って合同のチームを作る。これらの提案には、ものづくりのために十数万円が支給され、工学と芸術のコラボによる実際のものづくりが始まる。提案の段階では、工学系の学生は自分たちで製作することができるものを提案する傾向が強く、曲がりなりにも専門を勉強した効果が伺えた。芸術系の学生は、「こんなものがあったらいいな」というものを提案し、それを実際に製作するという工程は考えていない。提案の内容は芸術系の学生の方が斬新でおもしろく、工学系の学生の提案はどこかにありそうなものが多かった。これら二つのグループが共同して「ものづくり」を行うので、互いに良いところ、悪いところがわかり、特徴ある「ものづくり」とはどういうことであるかを学ぶ良い機会になったものと考えている。専門の座学だけでは特徴ある「ものづくり」を教えることは難しいと思った。

「ものづくり」ワークショップの提案

日本機械学会の会員、特に企業に所属する会員の退会が多くなっているときく。学術講演会などへの参加は圧倒的に大学研究者が多く、企業の会員にとっては魅力のないものになっているのかもしれない。企業会員は製造業に関係した人が多いと考えられるので、「ものづくり」には興味を持つ人が多いのではなかろうか。

そこで学術講演会において「ものづくり」を紹介するワークショップを開催してはどうだろうか。製作したものを動画で紹介し、製作の目的、主たる機能と原理だけを講演、詳細については後ほど個別に回答する形式で発表会を行う。専門性の高い内容については発表しないので手軽に拝聴できるし、ものづくりに関係する企業人には興味ある内容になるのではないか、と思われる。


参考文献
(1) 岩田佳雄,佐藤秀紀,小松崎俊彦,小川孝吉,往復運動/回転運動変換機の開発,日本機械学会論文集C編,Vol. 71,No. 706(2005),pp. 1797-1804.


<名誉員>
岩田 佳雄
◎公立小松大学 教授
◎専門:機械力学

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