日本機械学会サイト

目次に戻る

2020/1 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。

バックナンバー

特集 プロフェッショナルとしての技術者 -子供たちが夢見る職業か?-

技術と社会をつなぐデザインワークショップ~これからの技術者が知っておくべきこと~

塩瀬 隆之(京都大学)

ごみが捨てられない時代のものづくり

サーキュラーエコノミーがもたらすものづくりの岐路

2023年、フランスではブランドファッションをはじめとして大量廃棄を禁止する法律が施行される。大量生産大量消費が地球にもたらす害悪への反省から多くの賛同を得る一方で、ものづくりを生業とする技術者を当惑させている。我が国においても、2017年12月に中国が廃プラスチック輸入禁止を発表したことで転期が訪れた。海外にごみを輸出して埋めるという図式のリサイクルモデルは破綻し、大量の廃棄品が行き場を失っている。ものづくりは悪なのか。製品のライフサイクルは誰が責任をもつのか。作る―使う―捨てるという当たり前の製品ライフサイクルを根底からリデザインできる技術者はどこにいるのか。

2018年9月、京都大学サマーデザインスクールで大学院生や社会人も参加する人工物のライフサイクルを考えるワークショップを開催した(図1)。まず廃棄パソコンのキーボードを分解し、一つの製品が多様な素材の集合体であることに気づく。次に、それぞれの素材の種類がわかれば二周目三周目でも価値を最大化できることをレクチャーで学び、埋められるまでの時間に猶予をもたせる方法を知る。ワークショップでは、携帯電話や家電製品などの人工物ライフサイクルを想定した絵本づくりがアウトプットとなる。

図1 「じんこうぶつのぼうけん」絵本WSの一コマ

 

丁寧に分解することで次の使い道を思いつく物語もあれば、一人の視点で価値判断をしてしまってすぐに埋められてしまう物語も生まれる。技術者が薄々気づいていながら、言葉にしたくなかった暗黙の前提をあらわにする。モノマテリアルや海洋分解性プラスチックなど、新たな素材研究も増えてきてはいるが、どんな素材を使っているのかを可視化して共有し、共同調達などにより利用素材の点数を減らしていくなど有用で実行可能な方法を知ることができる。

部品点数5,000点時代のリサイクル

平成の妖怪はいかに化ければよいか

モノが生まれてから無くなるまでのライフサイクルを学ぶべきは技術者だけではない。市民が消費者にとどまらず、自らがモノの価値を延命させ、再価値化できることを自覚する必要がある。近年、3Dプリンタなどデジタルファブリケーション装置を整備したFab labなどの施設が普及し、メイカーブームを牽引している。他方、リサイクルについては学校などで用語の意味を覚えるのに留まり、モノをつくる過程と結び付けて、その関係を把握できていない。

2016年3月、「平成の妖怪づくり」ワークショップを開催した。古来、日本はモノを大切にする“もったいない”という言葉を大切にしてきた。壊れても、修理せず、まだ使えるのに手放すと、傘小僧や提灯お化けのような妖怪が戒めにやってくる。では5,000点、10,000点と部品点数が膨大になった時代に、どんな妖怪が生まれるのか。小学生はまずPCのキーボードや液晶画面などを実際に分解し、どれほどたくさんの部品から一つの製品が成り立っているかを理解する(図2)。次にその素材の性質をいかした妖怪の物語を考え、実際にバラされたパーツを組み合わせて具象的な形をつくる。児童生徒は真剣なまなざしで廃棄物を凝視し、表象を特徴づける過程で個々の素材の機能や性質の多様さを理解していく(図3)

図2 PCのキーボードを分解して部品の先行きを考える

図3 多様な素材や何重ものフィルムへの気づきの先行きを考える

未来の図工室

コップが喋る、しゃもじが歌う

ものづくり系企業のCSR出前授業や科学館での体験型学習などで、AruduinoやMESHのような手頃な価格で入手可能となったIoTガジェットを活用したSTEAM教育の機会が増えてきている(図4)。ここでは2014年8月から開催しているMESHを使ったワークショップについて概説する。MESHが小学校の図工室で使う道具箱に入っていたら子供たちの創造性がどのように刺激されるかという設定で実施した。

図4 IoTガジェットで生活用品をアップデートする

LEDやモーションセンサなど複数の電子タグからなるMESHを用いると、コップを喋らせたり、ネットの天気予報と連動させて雨降りを知らせたりするLED傘立てなど、未来を予感させる製品の試作を子供自身の手で作り上げることができる。「コップを持ち上げたら」という条件は、動きを検知するモーションセンサをコップに貼り付けるだけでできる。アプリ上ではGUIで簡単にセンサアイコンとスピーカーアイコンとを連結するなど直観的にプログラムできる。日常生活のさまざまなモノに喋らせたり、動かしたり、光らせたり、いろいろなはたらきを加えることができる。

初等教育においては、思考・判断・表現の力を養うことが教育目標にかかげられているが、学校現場において「絵を描く」「工作する」以外の方法は限定的であった。小学校におけるプログラミングの必修化が始まるが、どのロボット教材でもIoTガジェットでも同様の効果を果たすことは可能である。大切なことは児童生徒自らが手を動かして実際に思い通りに動くかどうか、すぐにフィードバックできて、何かがおかしいという違和感に自分自身で気づける力を養うこと、試行錯誤しながら自分でも改善できるということを自覚することが何より大切である。

おわりに

将来にわたってイノベーションを数多く起こすための理系人材の底上げを狙ったSTEAM教育が盛んである。しかし、その本質は、「創造性がすべての個人において包括的で個性的な特性、かつ教育可能」という前提にたてば、理系も文系も関係なく、児童生徒自身がニーズと課題を洗い出し、解決策を見出す作業こそが重要である。ごみの廃棄から、最先端の技術導入まで、幅広く一通り体験することは、将来、技術が社会に実装される上で、無用な対立を避け、その機能を最大限発揮できる技術リテラシーに貢献しうる。

持続可能なテクノロジーの未来を創造するのは技術者だけではない。政府や企業だけに責任転嫁するのではなく、社会を構成するすべての人々が自らも創造し、廃棄の意味を理解し、テクノロジーがもたらす良い結果と悪い結果の両方を冷静に見極める力が必要となる。そのためには大学や大学院における技術教育も重要であるが、同時に初等中等教育においても、最先端の技術から廃棄、リサイクルに至るまで人工物のライフサイクルを包括的に取り扱い、理解を深める教育教授法、学習環境がより求められる。


参考文献
(1)インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン(2014), ジュリア カセム,平井 康之,塩瀬 隆之,学芸出版社.
(2)「ものづくり民主化時代」を勝ち抜く技術伝承のあり方とは(2018)、塩瀬隆之、コンバーテック、pp.2-7.
(3)MESHをはじめよう (Make: PROJECTS) (2019)、萩原丈博、小林茂、オライリージャパン.


<電子情報通信学会 会員>
塩瀬 隆之
◎京都大学総合博物館 准教授
◎専門:システム工学、インクルーシブデザイン

キーワード: