日本機械学会サイト

目次に戻る

2020/1 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の機械は、本田技研工業が1959年に4輪車用エンジンの歯車を製造するために同社の鈴鹿製作所に設備導入した6ステーションを有するロータリ形のホブ盤で、米国のリーズ・ブラッドナー社製である。この工作機械は、日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たした機械と言える。

バックナンバー

Myメカライフ

技術を通じて社会に貢献する

日本機械学会奨励賞の受賞者に執筆依頼があり寄稿の機会を頂きました。拙文ですが、現在の開発テーマ、現在のキャリアに至る経緯、今後の目標についてご紹介させていただきます。

このたび、改良沸騰水型原子力発電所の3次元有限要素法耐震解析のためのモデル化技術の開発に関し、日本機械学会奨励賞(技術)をいただきました。本開発は2012年ごろから取り組んでおり、改良沸騰水型原子力発電所の原子炉建屋とその内部の格納容器などの大型構造物を一体で、図に示すように3次元有限要素でモデル化する際に適用するものです。構築したモデルを用いた耐震解析は、発電所の耐震設計に用いる地震時荷重などの算出を目的としており、従来、その解析には集中質量、ばね、梁要素からなるモデルが適用されてきました。計算機が発展した現在でも、図に示すような精緻なモデルを用いて構造物の時々刻々の地震時の揺れを実用的な計算時間で解析するためには、モデル化上の工夫が必要でした。そこで私は特に各構造物の減衰特性の一体モデル化法と建屋内部にある大容量流体のモデル化法の開発を行いました。開発に際しては、縮小試験体を用いた振動試験なども行いました。

地震の多い日本においては原子力発電所の耐震安全性は極めて重要です。その維持・向上のための技術開発は社会的意義があり、高いモチベーションで上記開発に臨むことができました。また、新技術の開発に携わることで、エンジニアとしての好奇心を満たすこともできました。加えて、本開発は会社同僚らとチームを組んで進めましたが、チームで議論し協力して進めることの楽しさや、開発スピードの速さをその過程で実感できました。

このように私は現在、耐震工学や計算力学に従事していますが、学生時代からそれらを学んできたかというとそうではありません。大学・大学院修士課程では第一原理計算を用いた材料の研究に携わりました。修士課程在学中には、博士号取得の思いもあり進学と就職で迷いましたが、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念にひかれ日立製作所に入社し、現在の職場で執務しています。

就職後に、耐震工学や計算力学といった自分自身にとって新たな分野に携わりましたので、教科書や会社の技術研修で学習し、上司や同僚の指導も得ながら知識やスキルの取得を進めました。理解度を測るために、日本機械学会の計算力学技術者資格認定試験も活用しました。また、前述のモデル化法の開発を進め、その成果の一つとして、2019年1月付けで、博士号を取得することができました。関係者各位にはこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

最後に今後の目標ですが、日立の企業理念にあるように、技術を通じて社会に貢献するということを目標に、これまで技術の習得や開発を進めてきました。今後もこの目標を追い、より複雑な問題に対応できるようになるためにπ型の知識・専門性をもつエンジニアになりたいと考えています。2019年7月現在では、米国のInstitute of Nuclear Power Operationsに出向中で、原子力発電所の安全性と信頼性に関わる活動を第三者として評価する業務に携わっています。本業務ではさまざまな実践的エンジニアリングに触れる機会があり、この機会を活かし幅広い知識を得ながら、現在の専門性に加えもう一つの専門性を培いたいと考えています。まだまだ未熟ですが、培った技術を通じてよりよい社会の実現に少しでも貢献できるようにこれからも精進する所存です。

図 開発した3次元有限要素モデルの例


<正員>
鬼塚 翔平
◎日立GEニュークリア・エナジー(株) 原子力計画部 耐震計画グループ 技師
◎専門:耐震工学、振動工学、計算力学

キーワード: