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2020/12 Vol.123

表紙の説明:これは、推力5tonターボファンエンジンFJR710形で、右からファン、圧縮機、燃焼器のケーシング部分である。1975年に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によって開発された。ブラッシュアップしたエンジンは、短距離離着陸ジェット機(STOL)飛鳥に4基搭載され500mで離着陸できた。
[日本工業大学工業技術博物館]

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特集 第100号を迎えた「機械遺産」

ロマンと夢を叶えた『しんかい2000』

黒田 孝春(長岡技術科学大学)

はじめに

海への想いを馳せる時、深海の神秘な映像に心躍らせた幼き日に観た映画の記憶がよみがえる。
日本は決して資源の多い国ではない。かつては石炭や佐渡の金銀の採掘が一時的に国を豊かにしたが、現在の産業活動に必要不可欠なレアメタルなどの天然資源が少ない国である。これは日本の国土の狭さと深海に囲まれた地球的立地条件と切り離せない宿命であるが、広範囲な領海と大陸棚は無限の可能性を秘めている。このような思いを馳せている中、幸運にも『しんかい2000』の調査を担当する機会が訪れた。

『しんかい2000』の技術と成果

太平洋を中心に広い海域で、通算潜航調査を1,411回記録し、現在、新江ノ島水族館で常設展示されている『しんかい2000』(全長9.3m,排水量24ton,1981~2004)の最大の貢献は、専用母船『なつしま』〔全長67.3m,国際総トン数1,739ton,定員55名(乗組員37名,研究者など18名)〕との一体的な運用システムの確立である。この一体運用の目標は以下の通りである。

(1)潜航海域の事前調査による効率化と安全性の確保
(2)シーステート3の波浪下でも長期間連続運用と研究
(3)母船の観測機器・航法装置と連動し、位置情報・安全性の確保技術の確立
(4)母船上での整備補給設備と研究設備と健康管理

技術開発と成果は以下の通りである。

(1)浮力材(Syntactic foam;比重約0.5、2,000mの深海で約300㎏の浮力)とショットバラスト(鉄粒:2,000mの深海で約600㎏)の搭載によって、下降・上昇速力毎分約25m(約80分で2000m)の急速潜入浮上を実現し、2000m潜航時に、着水0.5時間、潜入1.5時間、調査観測3~4時間、浮上1.5時間、揚収0.5時間、計7~8時間の急速潜入浮上と1日調査を確立

(2)内径2.2mの耐圧殻は、t30mmの超高張力鋼板(NS90)を熱間プレス加工で半球とし、熟練工によるTIG溶接で製作、骨組み構造は、チタン合金(6Al-4V-Ti),チタン押出形材(ASTMB348),チタン板(TP49)の軽量・高強度化、および耐圧殻内生命維持装置(酸素供給、炭酸ガス吸収、食料など)によって、乗員3名(操縦者2+研究者1)の居住性と安全性を確保

(3)主電池、推進機関、電動機などの油漬け均圧構造で高水圧に対処し、強度/重量比の大きいt5のFRPの外皮で機器保護を確保
(4)水中運動性能として前後進(水中速力:巡航1ノット、最大3ノット)、回頭、上昇、下降の推進器の装備
(5)TVカメラなど観測機器、測定機器やマニピュレータなどの油圧駆動や耐圧化を実現
(6)石油、天然ガス、マンガンノジュール、鉱床などの海底鉱物の調査を進め、沖縄の海底で日本初の熱水噴出域を発見など、現在の海底資源開発の基礎を確立

これらの「しんかい2000」で培われた技術や成果を引き継ぎ、「しんかい6500」(全長9.7m,排水量26ton,1989~現在)は、今も世界の深海調査研究の中核として海洋・地球・生命・資源・環境などの解明に挑戦を継続している。

さいごに

横須賀の(国研)海洋研究開発機構本部に調査訪問した際、幸運にも後継調査船「しんかい6500」が陸揚げされ定期保守している姿に接することができた。さらに、整然と保管されている「しんかい2000」の貴重な設計図や現職の操縦者から熱心な話を伺えた。その際、JAMSTEC広報部長(2017年当時)の田代省三氏から西村一松氏の研究内容を伺ったことである。1929年に最大深度300mの「西村式豆潜航艇1号」を完成させ、ケーブルレス、水中通話機、独立電池搭載でマニピュレータも備えていたという。今後の更なる研究成果に期待したい。
操縦者OBの皆さんが水族館職員と一丸となって楽しそうに整備している「しんかい2000」が青白い光で佇む姿を目にするとき、今にも深海の神秘に抱かれるようなロマン溢れる幼き日に戻った錯覚に陥る。
一度は新江ノ島水族館を訪れてみませんか?

図1 『しんかい2000』と専用母船『なつしま』


<フェロー>
黒田 孝春
◎長岡技術科学大学 特任教授
◎専門:加工学

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