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2020/12 Vol.123

表紙の説明:これは、推力5tonターボファンエンジンFJR710形で、右からファン、圧縮機、燃焼器のケーシング部分である。1975年に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によって開発された。ブラッシュアップしたエンジンは、短距離離着陸ジェット機(STOL)飛鳥に4基搭載され500mで離着陸できた。
[日本工業大学工業技術博物館]

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2020年度「学会横断テーマ」

①少子高齢化社会を支える革新技術の提案

テーマのスコープ

少子高齢化に伴う人手不足、QOLの維持は先進国共通の課題である。特に生物学的な寿命と健康寿命との間にはほぼ10年間の差が存在するといわれ、人生の終末期におけるQOL(Quality of Life:生活の質)の低下を招いているとともに、莫大な社会保障費が必要となっており、若年層への大きな負担となる。また若年期、壮年期における健康状態の悪化は経済的困窮につながるとともに、人生後半でのQOLを著しく悪化させる。また少子化という問題は医療従事者の減少、福祉を支える人材の不足という形でサービスの低下をもたらす。このように少子高齢化がもたらす社会的な課題は極めて多く、またそれらは相互に関連している。本テーマでは、その中の医療、福祉に関する課題にフォーカスを当てることとする。

課題解決に向けて

この課題を解決していくためには、社会システムの変革とともに革新的な技術が必要となる。ICT、AI、ロボット、自動運転、医療、モビリティ、健康等、広範な技術分野、産業分野にわたるテーマである。広範な技術分野を内包する日本機械学会にはこの分野のイノベーションをリードしていくことが求められる。すでにさまざまな分野において数多くの研究が行われているにもかかわらず、社会課題の解決に向けて、それらが十分に有機的に結びついているとはいえない状況にある。また、巨大な市場になるといわれている分野であるが、産業界での活動は未だ模索の段階のものが多い。社会から機械工学はこれらの課題に対してSolutionを与えることが期待されている。

実行可能な適切なSolutionの提案のためには様々なステークホルダー(医療者、サービスを受容者、サービスプロバイダなど)による分野融合的な議論が重要となる。またヒトの生命にかかわる分野であることから安全性に関する議論も科学的に推進する必要がある。技術評価を適切に行って適切なリスクコミュニケーションを社会と進めることも重要となる。このような議論を深めるためには、例えば医工学の分野の人間のみで議論することではなく、人間の住む環境を与えるまちづくり、インフラストラクチャー、交通、物流などの専門家と融合的な議論を進める必要があり、一見この課題とは関係ないと思われがちな分野の研究者との交流を活性化する必要がある。またユーザーとの交流は重要であり、機械工学分野の専門家集団である日本機械学会の中に閉じた活動では適切なSolutionを提案することはできないことも確かである。

また医療、福祉の課題にもとづき開発された技術を社会実装していくためには、産業界を巻き込んでいく必要がある。産業界にビジネスとしての重要性を認識してもらい、早い段階から産学連携に取り組んでもらえるような仕掛けについても検討していきたい。さらに、本分野にかかわる人材の育成も重要なテーマである。工学と医療との架け橋となる人材の育成についても考えたい。一方で、日本機械学会は機械工学を学問として扱う集団であり、機械工学としてどのような新たな学問的な「問い」を出していくのかについても議論する必要があると考えている。

年次大会企画・部門連携セッション

本テーマは、2022年度末まで継続して活動する。工学以外も含めた幅広い分野の専門家との意見交換を通し、社会のニーズと日本機械学会が有するシーズとのマッチングを行い、さらには新たな融合分野の創出につなげていくことを目指して活動を行っていく。そのための少子高齢化にかかわる研究者、技術者の交流の場を提供する。その場において、情報などの相互補完が行われ、新たな人的ネットワークが構築されていくことを期待する。
そのために、2021年度および2022年度の年次大会では、通常の学会参加者とは異なる分野の専門家を招いた議論の場を設けることを企画する。さらに、関連部門のご協力をいただき部門講演会などの場での連携セッションについても考えていきたい。


テーマリーダー
<フェロー>
佐久間 一郎
◎東京大学 大学院工学系研究科附属
医療福祉工学開発評価研究センター 教授
◎専門:診断治療用メカトロニクス

 

 

企画チームメンバー:
佐久間 一郎(東京大学)、安藤 健(パナソニック)、岩崎 清隆(早稲田大学)、太田 順(東京大学)、小林 英津子(東京大学)、松日楽 信人(芝浦工業大学)、山本 健次郎(日立製作所)、和田 成生(大阪大学)

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