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2019/6 Vol.122

【表紙の絵】
ソーラーケータイじゅう電システム

石井 智悠 くん(当時8 歳)

この前あつかったので、ケータイがあっつくなっていたので「そのねつをうまくつかってじゅうでんできたらな。」と思ったのでこの絵を描きました。

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会長対談

社会的課題を解決するための学会連携

学会連携の目的

森下:今回、電子情報通信学会から連携のお話しを頂き、これからいろいろなことを一緒にやっていきたいと思っています。

安藤:会員の減少、研究分野の細分化、講演会参加者の減少など、電子情報通信学会(以下、信学会)はさまざまな課題を抱えています。更にSDGsやSociety 5.0の意義が社会に浸透し、そういった複雑な社会的課題にも対応する必要があります。これを解決するためには、電子情報通信の分野だけでなく、機械や電気などはもとより、異なる分野を扱う他の学会とも広く連携してゆかなければいけないという考えに至りました。

森下:学会連携という考え方は、日本機械学会(以下、機械学会)の中でも以前からアイデアはありましたが、こういった具体的な目的を設定することで動き出せると思います。

安藤:テクノロジーに興味がある一般の人からすると、どの学会に入りたいかという選択は余り意味がないと思います。彼らにとって、機械学会でも信学会でも、問題を考えるときに最適なのはどこかで判断します。学会間の壁を低くすることが我々の役割だと思っています。SDGsやSociety 5.0のような複合的な社会的課題には、一つの学会の専門性だけでは対応できません。学会の立場で縄張りに拘るのではなく、社会や一般の人から課題解決の際に頼りにできる組織になることが、学会連携の目的です。

会員減少で問われる『学会の価値』

安藤:信学会は会員数が1994年から減少していて、特に企業の方が学会から離れていく傾向は間違いなく強いです。身近な技術情報は、インターネットの普及により、学会に入らなくても得られるという感覚が少しずつ広がっていて、それを何とか食い止める施策を考えています。

森下:機械学会もバブル崩壊から会員がずっと減少していて、状況はほとんど同じです。

安藤:会員の構成が高齢化しているので、学生の入会促進とアクティブなシニアの方の活動の場を残す取り組みを行っています。世代のダイバーシティに配慮していこうと。

森下:機械学会でも若手の参加を促すために「若手の会」という組織を立ち上げ、他方でシニア会という60歳以上の会員の活動の場を全国の支部に設けています。

安藤:信学会と似た取り組みですね。

森下:本当に困ったことに、『学会の価値』とは何か、考え直すところにきていると考えています。技術者が学会から離れていった理由にインターネットで情報を入手できることがよく挙げられるのですが、本当にそうでしょうか? 私は、『学会の価値』とは、最新の情報を得ることに加えて、お互い顔を合わせて知り合いになることだと思っています。顔を合わせていないとその後で信用できない。これは人間の性だと思うのですが、一度でも顔を合わせていればお互いの意思が通じるようになる。だから顔を合わせることは大切だと思っています。

安藤:顔を合わせなくてもたくさんの情報が得られるからこそ、逆にFace to Faceでしか得られない情報や交流が重要ですね。

森下:情報に関しても、インターネットで済むわけはなくて、そこは切り返さなければいけない。例えば、インターネットでは、タイトルやISBNの番号を知っていれば本を探せますが、本屋さんで山積みされた本を手にして面白いと思うかどうか。これが本を選ぶ面白さだと思います。情報というのは、技術者・研究者にとって空気のように重要です。学会の場に行くと、空気を吸うようにいろいろな情報が吸えるようにして、インターネットに対して切り返したい。

安藤:まさに文化そのものですね。

森下:若い人がインターネットで探せば何でもできると思い込んでしまっている。そうではなくて、その場に行って初めて吸収できることの方がはるかに多いということを伝えないといけません。それが『学会の価値』ではないでしょうか。

安藤:どうやって伝えるか難しいですね。

森下:これはもう教えていく必要があると思います。学会に参加して、その学問をどう進めるか、それから社会情勢がどうなっているか、社会から求められる情報は何か、それをきちんと吸収しながら自分の研究を進めなければいけません。企業の方もぜひ大学の教員と知り合いになって、上下関係はないのですから、自分の意見をぶつけてほしいです。そういう関係を築かなければいけないのだと思います。

安藤:情報はあふれていますが、真偽を確かめるすべが意外に少なくて、すごく気を付けなければいけない。フェイクニュースという言葉を耳にすることが増えましたが、報道を受けて、調べる人とそうでない人に分かれます。そういう面で、学会の情報発信というのは、お墨付きというくらいに頼ってもらう存在でなければいけないんです。

森下:その手段が便覧だと思います。教科書というのは時々間違えが含まれている場合もあります。

安藤:結構ありますね。

森下学生を指導していると、教科書に書いてあることは全部信用します。教科書は、その著者が書きたいことを書いているのだと言って初めて理解します。便覧というのはいろいろな人が見て、徹底的に吟味した上で学会がこれを認証して出しているわけですから。教科書は力学の基本的なことでさえ間違っていることもあるし、科学に詳しい方のホームページでも解釈がおかしいものもあります。

安藤:学会を利用して、物事を見るときの姿勢も学んでほしいですね。最近はMITからもオンライン講座ですばらしい教育プログラムが出されていますが、先日それを作ったMITの人から「MITの価値は、そこに座ったときに隣の学生がどれだけ勉強しているかが分かること」という話も聞きました。教室に来ないとこの姿勢は学べないわけで、学会がサバイブするためにも会員としてその場に積極的に参加してこそ得られる価値を提供することが重要です。

分野の細分化とディシプリン

森下:機械学会は22の部門(専門分野)と、更に約100もの研究会があり、非常に細分化してしまっています。

安藤:信学会は、五つのソサイエティと1グループに大別され、さらに合わせて約85の研究専門委員会に分かれています。細分化というのは、ある意味では必要なことですが、どうお考えですか?

森下:アナリシスというのは一つ一つを探求するわけで、ものを見極めようとすると必ず細分化していきます。でも、それでは全体が見えなくなる。だからどこかでシンセシスをやらなければいけない。一つの分野を極めるだけでは機械や通信は機能しませんから、そういう意識を持つ必要があります。そういう意味で、22の部門というのは多いと思っています。一人の会員が、自分の興味のある情報を得るために、22もの部門に顔を出さなければいけないのはあり得ない。もっと大くくりに複数分野で一緒にやるという考え方を持ってほしいと、機械学会の中ではお願いしているところです。

安藤:それも全く同じ悩みです。情報通信の分野では、信学会も情報処理学会も電気学会も近いですがそれなりに異なる趣旨を持ってやっていますから、自由に伸びていくという意味では別れて進んでいったのは仕方ないことで、悪いことではありません。ただし、Science for Societyや社会貢献をするとなった途端に、一つのディシプリンだけでできることはほとんどないですね。私の世代は「一つの分野を究めれば、他のことも見えるはずだ」と言われて信じてやってきて、学会としても個々の専門分野の研究が活発であればそれが集まって学会も良くなるという考えでした。しかし、当然壁は少しずつ窮屈になり高くなるわけです。同じ学会でも、ソサイエティや研究専門委員会が異なれば考え方ばかりかサービスの体系まで変わるし、学問が進展すれば分野は増えることはあっても減ることはなかなかありません。

森下:電子情報通信関係で学会は幾つあるのですか?

安藤:情報処理学会、電気学会、照明学会、映像情報メディア学会、信学会で、電気・情報関連5学会と言っています。

森下:機械系は23学会あるんです。

安藤:学会がですか?!工学から化学を除いたものは大体機械に関係しますからね。

森下:そうすると機械とは何かという話になります。そこで、機械のことを社会に発信しよういう趣旨で、「機械の日」というのを制定して、毎年全国で機械関連イベントをやっています。安藤先生は、機械とは何だと思いますか?

安藤:むしろ機械じゃないものを除いた残り全てと考えますね。

森下:そうなんです。ほとんど総合学会に近いイメージなんです。

安藤:電子情報通信の技術も逆に除くものがないぐらい、社会すべてに浸透しすべてを包含するような、空気のようなものになりつつあります。

森下:土木・建築でも、耐震設計に機械の制御系の技術を応用して、耐震・免震が始まりました。同じように、車も船もエレベータもロボットもドローンも、情報通信の速度が変わると機械のあり方が変わるはずです。今回の特集に関連しますが、通信の速度の違いによってどれだけ新しい機械が生まれるか我々は考えなければいけない。その問題意識が機械学会の中で希薄です。

安藤:機械学会としては、関連する分野全部が学会のテリトリーで、これらを包含する総合的な学会になろうという方向性を持たれていますか。

森下:総合的になると総花的になってばらばらになってしまいます。だから、機械工学では四力学(材料力学、流体力学、熱力学、機械力学)を装置・製品に結び付けて学会が成り立っていると思っています。

安藤:それがまさにディシプリンですね。100年ではそう簡単に変わらないですよね。

森下:変わりません。でも、それをやっていると学会の魅力とは何だろうと、『学会の価値』の問題に戻ってきます。学問としては変わらない価値がある。しかし、そこにあぐらをかき始めると社会の流れから置いていかれる。

安藤:今、世の中の動きとして、社会貢献が前面に出てきたので、その流れの中で学会連携を進めるべきなのですが、『学会の価値』はそのディシプリンだという面も確かにあるんですよね。社会貢献、実装を更に突き詰めていくと、現実課題は一つのディシプリンでは解決しないことばかりで、複数のものを組み合わせる、場合によっては固有の補完領域を育ててゆかなければならない場合が多いのです。ディシプリンは普遍的な結果を追求しますが、現実課題は多様な技術を必要とします。大きい学会は、課題ごとに提供するサービスを分けなくてはいけませんので、これも細分化、専門化が進む理由かと思います。

森下:顔を幾つも持たなければいけないということですね。

講演会を健全に

森下:学会の役割の一つに研究発表講演会がありますが、ここでも企業の技術者が離れていっています。大学の先生が参加者の前で学生に練習をさせる形になっていて、それをどうにかしたいと思っています。

安藤:ただ、学生が3回4回と話してはたたかれ、話してはたたかれして良いものができて、その末に学術論文になるということもあります。学会の役割の一つである人材育成としては、それも重要だと思います。ただし、信学会でも先端研究と人材育成とが足を引っ張りあうような玉石混交は良くないことも指摘されています。

森下:質の違う講演会をきちんと対象別に用意しなければいけないのだと思います。

安藤:まさにそれを強く言う大家もいらっしゃいます。徹底的に議論できる講演会が大事だと。我々は講演会で厳しくたたかれた世代ですが。

森下:そうです(笑)。

安藤:今はそういう厳しさはありませんが、それでも学生時代に初めて学会に出た時のあの緊張感は重要だと思います。

森下:例えば、学生・若手のための講演会にシニアの方々にも参加してもらって、頭ごなしではなく、厳しいが前向きなコメントをしてもらう場が必要だと考えています。

安藤:実際にはそういう人が数人でも発表の場にいれば雰囲気が違うでしょうね。ただ、どうしても活動の多くが関東エリアに限られているので、全国の学生世代の人材育成としては支部活動で盛り上げなければいけないです。

森下:年次大会(全国大会)でも、企業の技術者離れに頭を抱えています。

安藤:信学会では、3万弱の会員のうち、総合大会に出席するのは4,500人ぐらいです。

森下:機械学会はもっと少ないです。

安藤:やはり大会は研究会とは差別化し、自分の専門分野と他分野を比べたり、他の活動を見る場にしたいのですが、ほとんどの研究専門委員会がそれぞれのプログラムを作るので、これが並列でプログラムされると、大会でも自分の分野以外のことを聞けるのは、特別に設けられる企画セッションぐらいしかないという課題があります。

森下:全く同じ状況です…。

安藤:自分の専門分野以外にも出られるプログラムを議論しているところです。もちろん今でも分野間で共催しているプログラムもありますが、相当うまく作らないといけません。

森下:講演発表数は幾つぐらいですか?

安藤:大会は4日間で2,200件ぐらいです。

森下:昔は発表数の3倍ぐらい参加者がいると講演会として健全であると言われていました。最近はほとんど1:1なんですよ。しかも自分の発表が終わったら帰ってしまう。

安藤:発表する人が多くて、他の人の発表を聞く会議になっていないですね。例えば、パーティーを用意したり恣意的にやらないとなかなか聞きに来てもらえません。

森下:機械学会の年次大会でも理事会企画で分野横断的なテーマを出すようになりました。年次大会の参加者のうち、企業所属は1割しかいないのが現状です。

安藤:企業の方は忙しいからですか?

森下:年次大会に魅力がないと感じているのだと思います。やはり社会の動きを年次大会に取り入れないといけないのでしょう。

安藤:大会では、融合領域、学際分野に焦点を当て、まさにSDGsなどの社会的課題の解決を議論できるといいですね。

森下:お互いの大会での合同企画を継続していきませんか?

安藤:そうですね、継続的にやりましょう!

学会を通じたSDGsやSociety 5.0への取り組み

安藤:私は会長の就任挨拶でも述べましたが、SDGsはここ数年で黒船のようにいきなり始まりました。例えば、銀行業界の株主総会では、まずSDGsから話さないと企業の社会的責任が問われかねないような状況です。学会がこの流れに対してどうするか。一つの専門分野だけで社会貢献はできないので、いわゆる学際領域をやらなければいけない。信学会だけでなく、ある部分では機械学会と一緒にやらないといけないわけです。ただ、そこを行き過ぎ専門性を失うと、もう後に戻れないことはあります。

森下:バランスの問題ですね。

安藤:学術会議もScience for Societyを前面に出すようになりました。日本の場合には、国の産業育成という意味でアカデミーがイノベーションへ追い立てられ、学会も当然そういう方向に動かなければいけない。我々はその流れは理解するのですが、失ったものは二度と戻りませんから、バランスをどう保っていくかがすごく重要です。

森下:SDGsを先ほど黒船と言われましたが、2015年から急に社会が動き始めました。それ以前は、持続可能な社会と言っても社会に余り受け入れられなくて、企業も嫌がっていました。ですが、2015年にがらっと雰囲気が変わって、この動きに大学はついていけていない。教員や学生にSDGsと言っても誰も信用しない。すごく遅れています。

安藤:自然科学の集まりとして長い歴史を持つ国際科学会議(ICSU)と、社会科学の集まりである国際社会科学協議会(ISSC)が統合され、2018年7月にパリでInternational Science Council(ISC)という社会科学や自然科学を全部含めた組織の設立総会を開催しました。そこで、国によってSDGsを学ぶ機会に差があって、日本では教育に反映されていないと指摘がありました。他の国では若年層を含め多くの分野の人間がこれに敏感で重要だと判断しているようです。本来、我々日本人はSDGsの重要さを世界のどこよりも感じるべきなんです。頻繁に起こる地震、地球温暖化、原発問題、過疎過密という多くの問題を抱えている国ですよね。

森下:具体例が身近にたくさんあるわけです。

安藤:Society 5.0についても同様です。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と言われるように、ソーシャルデータ収集活用では日本は遅れを取りました。けれども、センサ技術やこれから得られる実データ収集、アクチュエータ、ロボット技術などでは負けていないと国は考えています。それを入れ込んだSociety 5.0あるいはサイバーフィジカルシステムを目指せば、日本の優位な土俵が実現する、この概念は、学会が扱うエンジニアリングあるいはサイエンスとしても、すごいチャンスだと捉えているんです。

森下:機械学会は企業所属の会員が半分を超えています。にもかかわらず、企業所属の会員のためのサービスを実現できていないと思っています。そのキーワードがSDGsやSociety 5.0だとしたら、学会でその議論を深める動きをもっとやらなければならない。

安藤:学会としての責任感はすごくありますね。3月に信学会の総合大会で機械学会との合同企画を行い、更に今回、会誌の連携特集を実施し、更に9月の機械学会年次大会でも合同企画をさせていただきます。学会連携が深まり、社会課題解決の糸口が見つかり、それが学会の新しいアクティビティとして、社会や、会員へのサービスに貢献できればと思います。

森下:学会連携を更に深め、具体的な研究会が立ち上がるような活動にしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

(2019年1月16日 機械振興会館にて)


電子情報通信学会 会長

安藤 真(国立高等専門学校機構 理事)


日本機械学会 会長

森下 信(横浜国立大学 教授)

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