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2021/2 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

機構模型:差動歯車

年代未詳/真鍮、鉄、ガラス、木製台座/H310, W245, D235(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ一八五」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]

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特集 日本のモノづくり再興Part2-日本機械学会の役割-

座談会:若手が考えるこれからのモノづくり

社会や産業の在り方はスピードを増して変化している中、コロナ禍で世界は不透明さを増している。機械系技術者として、企業・大学でますますの活躍が期待される若手の会メンバーが集まり、今感じている不安や希望を共有し、若手として何ができるか意見を交わした。

参加者(左から):

若手の会 委員長 平田 祐樹(東京工業大学)
若手の会 副委員長 佐藤 圭峰〔マツダ(株)〕
若手の会 委員 上甲 康之〔(株)日立製作所〕・谷本 貴頌〔(株)小松製作所〕・前田 英次郎(名古屋大学)

Withコロナの今

平田:本日は日本機械学会若手の会として、昨今の状況について皆さんに意見を伺いたいと思います。やはり新型コロナウイルス感染症拡大の影響は避けて通れない話題ですが、皆さんはどのように過ごされていますか?

佐藤:コロナ禍の影響でリモートワークが推進されたとはいえ、対面でのコミュニケーションや出社しての対応が完全になくなったわけではありません。リモートワークと出社対応のバランスを探っているところです。

上甲:家電の開発は試作検証やユーザーインタビューなどの体験を通して発想する部分があって、リモートやオンラインでは代替が難しいところがあります。特にコロナ禍におけるプロジェクトの立ち上げは、新チームの人間関係の構築やモチベーションの共有に難しさを感じました。一方で、これまでは現場に行かないと会えなかった仕事相手やお客様と、簡単にしかもスピーディーに会えるようになりました。良い面も取り込んでいきたいです。

谷本:当社としては、遠隔化・自動化には従来から取り組んできたので、このコロナ禍をむしろ追い風にしていきたいと考えています。働き方としては、ちょうどテレワークの試験導入をしていたタイミングだったので、そのまま本格導入につながりました。バランスを取りながら働いているところです。

前田:私の専門は基本的に手を動かして実験ありきで進める研究なので、大学への立ち入りが制限された時は実験を以前のようには進められなかったです。こういった状況での実験の進め方は課題だと感じました。

平田:企業では以前からWEB会議システムを使用されていたかもしれませんが、大学ではオンライン会議ツールはあまり使われていなかったので、今回で一気に身近になりました。開発チームのモチベーションの共有がオンラインでは難しいというお話がありましたが、アカデミアも同じ課題を感じています。事務的な会議や打合せは進められますが…。

前田:講演会もオンラインによってアクセスは良くなりましたが、例えば懇親会やコーヒーブレイクの時間の出会いはオンラインでは難しいですよね。

平田:実はさっきまで九州で開催中の学会にオンラインで参加していたんです。先日は、主催者がイギリス・講演者がアメリカのウェビナーにも参加しました。時間的費用的にも難しかったことが、今は可能になっています。今回の新型コロナウイルス感染症というのは、ある意味で世界に破壊的なイノベーションを起こしたのではと思っています。

ニューノーマルに待ち受けているものは?

平田:ニューノーマルという視点でどのような変化を感じますか?

上甲:WEB会議が主流になって、若手の立場としてはセッティングや準備が楽になりました。

佐藤:今では多くのことがオンライン、リモートでできるようになったのだと気づきましたね。ただ、ちょっとしたニュアンスの違いによる齟齬が後から判明したことがあって、そういう困りごともでてきました。あの時、横にいたらフォローしたりされたりできたのに…と。

平田:直接じゃないと感じられない部分はありますよね。

谷本:WEB会議は効率的だと思う一方で、熱意が伝わってこないと集中力が途切れやすいと感じています。学生さんはどうでしょうか?

前田:私の大学でも前期の講義は完全にリモートでした。学生は当初はカメラを通して顔を見せてくれるのですが慣れてくるとカメラをオフにして授業を受けるんですよ(笑)。講義をしていても理解してくれているか不安だし、やりがいも感じづらかったです。後期からは密にならないように気をつけて講義や研究室に来てもらっています。

平田:私は後期に実験演習の授業を持っていて対面で行っていますが、密にならないように苦心しています。機器の動作も少し離れたところから見てもらったり、交代で近くに来てもらったりするのですが、躍動感が伝わらない!実験や演習は自分で手を動かして近くで観察してというのが醍醐味ですからね。

前田:こういう事態が長期化して、旋盤やフライス盤といった工作機械に触れる機会のないまま機械系学科を卒業して就職する学生さんが出てしまうと、採用する企業には負担となりますね。

谷本:危険に対する意識というのは現場で育まれるものですが、安全を重視して、若手に現場で作業を任せにくいということはこれまでにもありました。それに加えて、さらに大学での実習不足となるとかなり心配です。

平田:各業界の状況を伺いたいのですが、自動車業界はいかがでしょうか?

佐藤:各国で状況は異なりますが、やはり売上が落ちています。

平田:コロナ以外にも、若者の車離れも問題ですよね?

佐藤:何にお金を使うかという価値観がますます変わっていきそうです。移動手段以上の何かを提供する必要があるのでしょうね。一方で、「まだエンジンをやっているのか」と思われるかもしれませんが、2050年になっても8割はエンジン搭載車という予測もあります。現在の乗用車エンジンの熱効率は40%程度ですが、さらなる向上を目指しております。ただ、いいものを安く作っていくというかつて日本が成功したモデルでは通用しないですね。

平田:家電に関してはどうでしょうか?

上甲:佐藤さんも仰ったように、コスト競争では日本は勝てない時代になりました。今はものが行き渡って、昔の「三種の神器」のような誰もが欲しがる分かりやすい製品はありません。他にはない魅力的な要素を作っていくしかないと思います。

平田:日本の家電メーカーはコスト競争ではなく多少値が張ってでも高い機能性を有する製品を開発するスタンスにシフトしているという理解で合っていますか?

上甲:「低価格以外でご購入いただけるような価値は何か」という意識はあります。かといって、機能を詰め込んで、価格が上がってもお客様にとって魅力的ではありません。

佐藤:自動車ではエントリーモデルからフラッグシップモデルまで揃えてます。お客さんそれぞれがお金を出す価値は何か、ということですね。

谷本:オーバースペックになると、使いこなせなくて、結果的に客離れに繋がってしまうこともあります。でも、一度付けた機能を外す判断は難しいですよね。

上甲:その通りです。機能を一つ失くすと、売り場に並んだときの武器を一つ失うことになります。求められている価値を見失わないようにしないといけません。

佐藤:機能は既存のものに積み上げていく考え方なので、一度導入したものを失くすのは難しいですよね。

前田:本誌2020年11月号「経済産業の動き」の記事に、「日本は国際競争力が低い」とあります。日本では自動車の輸出が目立つため、競争力があると思われていますが、実は各国とGDPベースで輸出比率を比較してみると、EU各国に比べてずいぶん低いという数字が出ています。これからの日本の産業構造の在り方がまさに問われていると思います。日本だけでなく他の国々の消費者のニーズを捉えることがいっそう求められるのではないでしょうか。

谷本:消費者目線での課題はたくさんありますが、ひとつひとつのニーズがそれほど大きくなく、コストメリットがなくて対応できないという側面があります。特に建設現場では、課題はあがってきても日本では現場の人が対応してしまうが国外ではそうではない場合もあるという多種多様な状況で、課題を統一できないところがあります。

佐藤:自動車でも1台あたり部品が約3万点あってそれぞれに課題があって、しかも部品同士でトレードオフの関係にもあるので、なかなか一つの課題解決がブレークスルーに繋がりにくいです。消費者のニーズに加えて、国・地域別の需要を見極めながら、技術で応えていきたいですね。

社会から求められる技術者を育む教育

平田:今の大学・大学院教育の課題について、若手ができることは何があると思いますか?

前田:座学でインプットした知識をアウトプットする練習を増やす必要があると思います。例えば名古屋大学の機械・航空宇宙工学科では学部3年生を対象に昨年度から新しい課題解決型の科目を始めたところです。自分の頭で考え抜くとともにそれをカタチにする経験が必要だと考えています。

平田:せっかく大学院に入っても、M1で多くの授業をこなして就活やって、結局研究はM2の夏休み前から頑張る、なんていうことがよくあります。学部4年生の時に指導して自分から取り組むように意識を変えてもらうのですが、修士課程でまたインプット重視に戻って、受け身になってしまうのが残念です。

佐藤:共同研究で、企業や社会のニーズを理解した途端に学生の目の色が変わる様子をよく見ました。自分の貢献を実感できると、意識が明らかに変わるようので、そこは大切だと思います。

平田:社会で取り組むのは、初めから答えがない問題ですからね。

上甲:自分で課題を見つけて取り組むことは重要だと思いますが、自分が学生の頃にそれができたかというと、そうでもなかったんです。でも今、自分は大学院の博士課程で学んでいます。学びたいと思った時に学ぶことも大事だと感じています。

谷本:問題解決能力を磨いていくことは企業で利益を出すうえでも必要です。実際には時間との兼ね合いで、止めるという判断が必要な場合もありますし、それは簡単に身につくものではありません。

平田:最近は設計開発も一人で完結するのではなく、いろんな人とのかかわりでイノベーションが生まれてくるようになりました。一人でもがく前に、周りも巻き込んでいけるようになってもらいたいです。

前田:新しいことに挑戦する意欲や機会も大事ですよね。私は任期付きのポジションからキャリアをスタートしました。挑戦したいことはたくさんあっても、結果が出やすいテーマを優先してしまうというジレンマがありました。若手のうちは研究費に余裕がないということもあります。日本では一度失敗するとキャリアパスの軌道修正が難しい環境・構造になっているので、時間もアイデアも体力もある若手がリスクをとって新しいことに挑戦する余裕が生まれにくいかもしれません。学生が博士課程に進学するのをためらうのも同様の理由かもしれません。

平田:学生や若手は失敗するチャンスがあるのに、社会から圧力を感じて、保守的なお決まりのキャリアバスから外れることを恐れている印象を受けますね。

佐藤:企業でも新しい価値を生み出せるような人材が必要だと感じています。やはり失敗を恐れている人が多い印象を受けます。失敗をステップアップに繋げられる環境を整えられていないのかもしれません。

前田:自分たちより若い世代が挑戦しながら成長できる土壌を社会に拡げていきたいですよね。

佐藤:若手の会WG2では若手のキャリア支援に取り組んでいます。見学会など学生が現場を見る機会を積極的に企画していきます。

平田:本会のInternational Unionが開催したオンラインイベントは面白かったですよね。

佐藤:専門家が集まって、自分の専門外の人と交流をして、技術の横展開ができるような場があるといいですよね。

上甲:今日のような座談会でも非常に充実感を感じられると分かりました。WG3の広報も担当しているので、コンテンツの充実やイベント開催を考えていきたいです。

平田:実は本会の部門ごとにも若手の組織があったりするんですよね。組織間の交流がもっと活発になるようにしたいのですが…。

佐藤:目的がないとなかなか難しいですが、学会横断テーマのように目的をもって取り組めると良いと思います。

前田:本会は20~30代の会員が少ないと話題にのぼります。卒業後も継続して入ってもらうための付加価値を作っていくのも若手の会が担う役割の一つだと思います。

上甲:例えば、会員同士が気軽に交流できるコミュニティが形成できるといいですよね。

佐藤:学会に頼るときは基本困っているときなので、それは助かりますね。

前田:異なる所属機関同士での測定装置などの貸し借りをコーディネートしてくれると嬉しいです。

平田:装置のマッチングですね。通常であれば伝手を頼っていくプロセスなので、あると便利だと思います!

谷本:企業だと、学会行事に頻繁に参加できるわけではないので、もっと気軽に学会に触れられる機会が増えるといいと思います。講演会ほどの敷居の高さではなく、気軽にコミュニケーションをとれる場があると、魅力を感じますね。

平田:若手の会でそういう気軽なコミュニティを始めましょうか!オンラインサロンのような形式で、気軽に参加いただきたいです。

(2020年11月11日)


委員長 <正員>

平田 祐樹 (東京工業大学)

◎専門:炭素系機能性薄膜の合成と応用


副委員長 <正員>

佐藤 圭峰 〔マツダ(株)〕

◎専門:エンジン周辺機器/モデルベースの製品開発


委員 <正員>

上甲 康之 〔(株)日立製作所〕

◎専門:家電の研究開発


委員 <正員>

谷本 貴頌 〔(株)小松製作所〕

◎専門:建設機械の遠隔操作の開発


委員 <正員>

前田 英次郎 (名古屋大学)

◎専門:細胞・組織のバイオメカニクス

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