日本機械学会サイト

目次に戻る

2021/2 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

機構模型:差動歯車

年代未詳/真鍮、鉄、ガラス、木製台座/H310, W245, D235(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ一八五」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]

バックナンバー

特集 日本のモノづくり再興Part2-日本機械学会の役割-

〈機械技術者への期待〉技術者に期待する資質について

越智 康夫〔三浦工業(株)〕

当社の研究開発組織であるRDセンターは、別法人の(株)三浦研究所となった時期があった。同所創設時の代表は、当時当社副社長であった川人 明美氏(本会 元中四国支部長)で、日本機械学会三浦賞の由来でもある当社創業者の三浦 保氏(日本機械遺産No.075 小型貫流ボイラZP型開発者)が招聘し、三浦氏とともにボイラ事業発展に貢献された方である。その川人氏が同所の創設に際し、若い技術・研究者のために研究所訓として所内に掲げた三訓がある。まずはそれを皆様に紹介したい。

若い技術・研究者に向ける研究所訓

1.『発見とは、誰もが見てきたものを見て、誰もが考えなかったことを考えることである』

(アルバート・セントジョルジュ 1883-1986 ビタミンC発見でノーベル賞受賞)

自然界におけるさまざまな現象は、物体の材料や形状、重力・温度・圧力、物質の流動などの諸条件により起こる。この訓では、りんごの落下とニュートンの万有引力発見が連想される。技術者の方々は、それらがどのように作用してその現象となっているかを見立てられるだろうし、その力量も期待される。それらの現象の原理を利用して世の中に役立つことを発想し実現することが大切だと言っている。当社に、本会技術賞(2012年度)を受賞した減圧沸騰式洗浄という技術を用いた商品がある。温水槽の中にチューブを入れ槽内を減圧してゆくと、大気圧下よりも低い沸点で温水が沸騰して水蒸気に変化し、チューブの中が水蒸気で満たされる。また圧力を大気圧にすると一気に凝縮して水に戻るが、この時チューブの中に急速に水が流れ込む現象を利用して、管状の手術器具などの洗浄に活用されている。減圧下で水が100℃未満で沸騰したり凝縮したりすることは誰もが見てきたことではあるが、これをチューブの洗浄に使うという発想は中々思いつかないもので発見と言えるだろう。もちろん新しい現象を起こすような発見もあるが、ほとんどの発見は誰もが見ているものの中にある新しい発想ということであろう。さまざまな現象をよく観察・理解し、自分のテーマに役立てられないか?ということを日頃より考えることが大切なのではないだろうか。

2.『理論なき実践は危うく、実践なき理論は空しい』

(イマヌエル・カント 1724-1804 哲学者・図1

機械分野には多くの理論が存在するが、過去のさまざまな事故や失敗・欠陥などにおいて、理論の検討が不十分だったために引き起こされたものも少なくない。商品を設計する際には、使用条件での性能・耐久性などの仕様要求適否を理論と実験で確認する必要がある。また、理論にこだわりその追求に終始し、いつまでたっても実現しない研究開発は、世で役立つものを生み出す使命を持つエンジニアにとっては空しいことだとも言える。当社の取締役や技術顧問を長年務められた妹尾 泰利先生は、戦後フルブライトで渡米し、マサチューセッツ工科大学を卒業後、同学助教授、Garrett AiResearch社(現在のHoneywell社)のエンジニア、九州大学教授を歴任された。Dean-Senoo Theoryを発表し、これを応用したLSD(小弦節比ディフューザ)を用いたターボ圧縮機が従来比10%もの吐出圧・効率改善を実現し、世界で多数採用された。後年、日本学士院賞を受賞、平成天皇・皇后両陛下への御前説明で、この技術で世界の発電所13基分を節約できたと説明なさったそうで、先生から菊の御紋入りの招待状を見せていただきながら、まさに理論ある実践でエンジニア冥利に尽きることだと感心させられた。

3.『己の欲するところを人に施せ』

(論語・新約聖書)

己の欲せざる所は人に施す勿れ、の裏であり、自分のして欲しいことを他の人にして差し上げよ、つまり相手の立場や思いを理解して行動せよという意。技術というのはモノに向き合うことが多く、自分の世界で研究開発や設計を進めがちだが、実際はその成果は世の中で人々に利用してもらって初めて価値を生み出すものである。私達の世代は有線電話、ガリ版に始まり、FAX、PC、ポケベル、携帯電話、インターネット、スマホと想像を超えた進歩の時代を経てきているが、人々のニーズから新しい技術が生まれて文明が進化してきた。これからも安全・環境保全・無人化といったニーズもより大きくなるだろうが、商品を使用するお客様、また商品販売や維持に携わる方々がどのような期待やニーズを持っているかを知って、理解し、それをさらに卓越した形の技術で応えられることが望ましい。

以上が三浦研究所三訓だが、若い技術者には以下のことも期待している。

現場・現実に敬意を

技術者が開発や設計をする際には、どのように造られ、お客様に使われ、メンテナンスされるかを知っておくと、その商品がライフサイクルにおいてより良い設計となることに役立つ。また、それぞれの現場で起こっていることは現実であって、都合の悪いことであっても真摯にそれを受け容れて、設計に反映しなくてはならない。それをなかなかできず、無駄を発生させていることはどこの企業にもあり得ることだろう。当社の主力商品として蒸気ボイラがあるが、当社では長年アフターサービスに注力してきており、お客様の省エネで安全な運転管理をサポートするとともに、保守契約を中心にメンテナンスサービスも行っている。一定額で故障修理を完全保証する契約で、突発的な故障を未然に防ぐ予防保全の技術やしくみを成長させてきたが、これにはメンテナンスを行っているフィールドエンジニアからのお客様情報やメンテナンス情報が重要な情報源となった。さらに、30年余り前に開始した通信によるオンラインメンテナンスでのボイラシステムの現場からの通信情報が、現実を認識するのに非常に役立ったとともに、その情報を見つめての改善活動を長年やってきたおかげで、お客様のために役立つ技術を多く実現できたと考えている。

特許

文明の進んだ国では、発明者が世の中に利便性を与えることに敬意を表して、その発明は特許として法律で一定期間の権利が認められる。特許権者は他者を排除して特許を独占的に使用でき、先行者利益の確保や新規市場への他社参入を防ぎ、優れた技術・商品に見合った利益を確保することができるというものである。新たな事業や商品を開発する場合に、まず特許を確認するが、調査によって既存の技術の情勢がわかり、発明者の技術や開発意図まで知ることができる。さらに特許調査の結果を俯瞰することで、各企業の知的財産戦略・事業戦略を知ることができる。特許の出願や権利化には、その分野の技術背景の理解から始まり、権利の範囲や効果を適切に表現できる知識と経験が必要とされるが、自らの発明を特許にすることは、技術を事業活動の武器とするために不可欠なものになる。逆に、先行して他社に特許を取られてしまうと、自分の発明した技術でも利用できなくなることもある。また、時流や技術のトレンドで同時期に類似の特許発明が出てくることも多く、出願が1日遅れたことで他社特許の回避に苦しんだという例もある。開発は技術の追求に走りがちだが、特許取得とバランス良く開発活動を進められるよう特許を読む力(理解力)、書く力(表現力)を身につけることが重要である。

コミュニケーション力とネットワーク力

当社の新入社員集合研修では討議のテーマとして、「社会人と学生の違いは何か?」ということをとりあげるが、その解の一つとして、学生は試験でできるだけ高い点数を取るために勉学を頑張る一方、社会人は100点を取るためにさまざまなことをやらなければならない、逆にやることができるという特徴があるということを学んでもらう。一人でできるだけ良いものを作るのではなく、あらゆる協力を得て完成された商品に仕上げるということである。商品開発には、市場のニーズや収益性、優位性のある商品の実現のための技術的な課題の解決や、品質の検証などさまざまなテーマを行う必要があり、また商品以外の技術活動でも同様に多くのテーマが発生する。これは一人ではできないことが多く、その分野の社内外のスペシャリストに情報をもらったり、相談したりして解決していかなければならない。それを行うには、社内外にネットワークを持つことが必要で、またそれを構築するにはコミュニケーションも必要である。自分なりのスタイルを持ってネットワーク作りやチーム活動を楽しんで活躍していただきたいものである。さまざまな形はあるにしても信頼される幅広い魅力ある人物になることも大切だ。

世の中には技術者に必要な資質を掲載した多くの書籍や書物があるが、今回は当社に因んだ内容を挙げさせていただいた。これから企業で技術に従事される若い皆様に少しでも役立てられれば幸いである。

図1 三浦研究所訓


<正員>

越智 康夫

◎三浦工業(株) 取締役 常務執行役員CTO  ボイラ・電機・水処理・食品機械・メディカル機器 技術担当 RDセンター、  生産部門担当、元中四国支部長

◎専門:環境装置、機械装置

キーワード: