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2021/2 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

機構模型:差動歯車

年代未詳/真鍮、鉄、ガラス、木製台座/H310, W245, D235(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ一八五」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]

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特集 日本のモノづくり再興Part2-日本機械学会の役割-

〈社内風土〉挑戦する意思を尊重する

伊藤 拓朗〔(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ〕

はじめに

(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ(以下HDS)は長野県安曇野市に本拠地を構える機械部品メーカであり、2020年11月に創立50周年を迎えた。

本稿ではHDSの主力製品であるハーモニックドライブ®の紹介とともに、HDS若手エンジニアの業務内容およびやりがいを感じる環境や能力開発制度について述べる。

ハーモニックドライブ®とは

構造と動作原理

ハーモニックドライブ®(一般名称は波動歯車装置)は1段同軸上で大きな減速比を実現できることから、装置の小型かつ軽量化に貢献し、さらにノンバックラッシによる高精度位置決めが可能なユニークな歯車機構である。図1に示すのは代表的な形状のハーモニックドライブ®の構造で、内側から順に、楕円形状のボール・ベアリングである「ウェーブ・ジェネレータ」、薄肉弾性体の外歯車である「フレクスプライン」、剛体の内歯車である「サーキュラ・スプライン」の3部品により構成されている。なお通常サーキュラ・スプラインの歯数はフレクスプラインよりも2枚多い。

図1 ハーモニックドライブ®の構造

減速原理を簡単に示すと、フレクスプラインはウェーブ・ジェネレータにより楕円状にたわめられ、その長軸位置にてサーキュラ・スプラインと噛み合う。サーキュラ・スプラインを固定しウェーブ・ジェネレータを回転させると、楕円形状の長軸位置が移動しフレクスプラインとサーキュラ・スプラインの歯は順次噛み合っていく。ウェーブ・ジェネレータが1回転すると、フレクスプラインはサーキュラ・スプラインとの歯数差分だけ、ウェーブ・ジェネレータの回転方向と逆向きに回転する。例えばフレクスプラインの歯数が200枚、サーキュラ・スプラインの歯数が202枚の組み合わせの場合、減速比は“歯数差2:フレクスプライン歯数200”で計算でき、すなわち減速比1:100を得る。

また、高精度を実現する要因としてフレクスプラインとサーキュラ・スプラインの特殊な噛み合い運動が挙げられる。一般的な平歯車ではバックラッシを必要とするが、ハーモニックドライブ®は専用歯形と特殊曲線運動により歯の連続接触を実現しており、バックラッシレスである。さらに歯の同時噛み合いが多いことから、伝達トルク容量が高いとともに、歯車の加工誤差が平均化され精度が高まる。歯が噛み合い移動していく様子は機械部品にも関わらず有機的で、いつまでも見ていられる。

ハーモニックドライブ®の用途と可能性

ハーモニックドライブ®の用途は幅広く、その特長を発揮できる産業用ロボット、半導体製造装置、フラットパネルディスプレイ製造装置を中心に、石油掘削装置、光学機器、印刷機器、工作機械、航空・宇宙関係、医療用機器などの多種多様なモーションコントロール分野で使用されている。

HDSは創業以来50年にわたってハーモニックドライブ®の可能性を追い続け、更なる用途開拓をするべく研究・開発を進めている。近年リリースした製品では、軽量化と扁平形状を追求した「ULWシリーズ」や、ハーモニックドライブ®の特長の一つである中空穴構造を最大限に追い求めた大中空穴・小外径構造を持つ「FBS-2UHシリーズ」などがある。さらには、外径わずかφ5 mmの世界最小ハーモニックドライブ®を2019国際ロボット展にて参考展示した。歯の大きさは拡大鏡を用いないと確認できないほど微小である。

トータル・モーション・コントロール

ハーモニックドライブ®を突き詰める一方、HDSグループは「トータル・モーション・コントロール」の提供、つまりお客様が求める高度なモーションコントロールを可能とするような包括的な製品展開をしている。ハーモニックドライブ®、ハーモニックプラネタリ®(HDSの薄肉弾性歯車技術を応用した高精度遊星減速機)といった減速機製品に加え、モータ、センサなどを組み合わせたアクチュエータ、さらにはその性能を引き出すドライバ、その他システム要素を組み合わせたメカトロニクス製品を提供している。

挑戦する意志を尊重する

若手エンジニアの業務内容

私は現在メカトロニクス製品を扱う部門に所属しており、主にアクチュエータ製品の開発業務および国内外を問わないお客様の技術対応を行っている。その他、電子部品を多く扱っていることもあり、部品の生産中止に伴う保守対応業務に携わることもある。

このようにメカトロニクス部門では幅広いスキルや知識が求められており業務に対するプレッシャーは高い。しかし、ハーモニックドライブ®の性能や形状メリットを最大限に生かすためのモータやセンサ、出力軸受などを含めたアクチュエータ設計は非常にやりがいを感じる。また、HDSは減速機を有さない製品も手がけており、中空構造を有したACサーボモータやダイレクトドライブモータ、リニアモータなど、お客様からの要望によって専用開発した製品も数多い。

若手に挑戦させる風土

HDSは社歴・専門性を問わず、若手でも挑戦し活躍できるような環境・風土がある。配属直後はアクチュエータ製品の設計・開発について何も分からない状態であった。そのような状況の中、少しでも早く開発業務に携わりたく上司や先輩方に「もっと仕事はないか」と積極的に働きかけ続けた結果、ある日上司から「やってみるか!」と既存アクチュエータ製品の派生開発担当を任命された。派生開発である事から構造上の制約がある中で要求仕様を満足し、低コストかつ短期間で市場投入することがプロジェクトの命題であった。

まず、構想図を部品図へ展開する業務を指示され、上司の指導のもと設計作業を行った。指導は細部にまでおよび、検図と修正を何往復も繰り返した。単純に厳しい加工精度を要求するだけではなく、加工者の視点に立って加工効率が向上するような工夫を盛り込むことが大切で、その工夫が結果的に出来栄えの質の向上とコスト削減にも繋がることを学んだ。製作用の治具も並行して設計し、製造部門の協力を得ながら試作を行った。まだ試作の段階ではあったが、手がけている製品を初めて手に取った時は非常に感慨深かった。

その後も先輩方の指導を受けながら、評価試験を実施した。その種類も量も膨大であったが、何よりも評価結果のプレゼンテーションに苦慮した。他部門の納得を得るべく上司および先輩方と資料の熟考を重ね、最終的には試作評価結果および製品仕様について社内承認を得られた。そして海外安全認証の取得や量産化対応など、他部門や社外取引先と連携を取りながら業務を進めた結果、気が付けば開発プロセス一連の業務を行い、製品化を達成することができた。

このように挑戦する機会を与えてくれ、根気強く指導し続けてくれた上司および先輩方と、若手に挑戦させる社内風土のおかげで貴重な経験が得られた。他部門の方も私を一人のエンジニアとして対等に扱ってくれるような社内環境も、やりがいにつながる要因であった。

当時実施したプロジェクトは既に構想が固まっていた開発業務であったため、自分の思想を盛り込むことができなかった。次のプロジェクトでは是非自分の思想を具現化したような製品開発をしていきたく、更なる知識と経験を得るべく業務に引き続き励んでいきたいと考える。

充実した能力開発制度

HDSは社員の学ぶ意志を尊重しており、それを叶えるための教育制度が充実している。例えば、大学院(修士号、博士号)、MBA(経営学修士)、MOT(技術経営)への通学制度や、アメリカ合衆国内の大学への短期語学留学制度(過去に計7名実施、現在COVID-19により中断)などがある。また希望者にはネイティブの英会話講師によるレッスンを受講することもできる。その他通信教育の受講や社外セミナーへの参加も推奨されており、能力開発の機会は多い。

ユニークな社内制度としては、自由研究制度があり、自分がやりたいこと・実現したいことを会社へ提案し承認されれば研究費用が付与される。常識・非常識にとらわれず、挑戦する意志を尊重する土壌があるからこその制度と言えよう。

おわりに

ハーモニックドライブ®の紹介をするとともに、若手エンジニアの業務内容およびやりがいを感じる環境や能力開発制度について述べた。HDSには若手でも活躍できるような風土があり、挑戦する意志さえあれば思い描くキャリア開発を実行していくことも可能である。

モーションコントロールの要求は年々高度化し続けている。その高い要求に応えるべく、技術の向上を追及するとともに、モーションコントロール分野の発展に少しでも貢献していきたい。


参考文献

(1) 株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ,

http://www.hds.co.jp/(参照日2020 年12 月25 日).


伊藤 拓朗

◎(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ

開発・技術本部 MT開発部

◎専門:情報工学、機械装置

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