『技術革新をもたらす複合材料技術』と題して、特集を企画した。複合材料の範囲は広いが、ここでは特に繊維強化プラスチックに関する技術を紹介する。繊維強化プラスチックの中でも、炭素繊維強化プラスチック（CFRP）は軽量でありながら力学特性に優れ、耐腐食性を有するなど、際立った特徴のある工業材料である。

これからのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの有効利用が不可欠であり、さまざまな機械におけるエネルギー消費量の削減が求められる。特に運輸部門におけるエネルギー使用比率は高く、輸送機器へのCFRPの適用による軽量化により、エネルギー消費量の低減が期待される。一方で、輸送機器などに使用された大量のCFRPをリサイクルしてさまざまな分野で広く再利用するネットワークの構築も必要である。言い換えれば、さまざまな分野へのリサイクルCFRPの普及により、2次的な省エネルギー化も期待できる。

CFRPはすでに航空機構造で広く利用されているが、衝撃損傷によって圧縮強度が著しく低下するという課題がある。衝撃損傷発生後の材料強度を基準に構造設計がなされるため、CFRP本来の性能を発揮させることができず、機体の軽量化を妨げる要因となっている。このように既存のCFRP製品においても軽量化の余地が大きく残されている。CFRPの材料開発と高度利用する技術開発とにより、今後生産量が増えると予想されている航空機によるエネルギー消費量の削減が期待される。

以上を踏まえ、本特集では各分野のエキスパートに下記の記事をご執筆頂いた。（敬称略）

『CFRP製高圧水素タンクの設計革新にむけて』

 　横関智弘（東京大学）

『航空機複合材構造の接着接合技術』

　安岡哲夫（宇宙航空研究開発機構）

『革新的将来宇宙輸送プログラムにおける複合材料研究』

　紙田徹（宇宙航空研究開発機構）

『複合材料の3Dプリンティング』

　松﨑亮介（東京理科大学）

『材料からプロセス全体の最適化による革新的成形技術』

　鵜澤潔、西田裕文（金沢工業大学）

『炭素繊維強化プラスチックのリサイクル材と真空成形への応用』

　長井聡（三菱ガス化学トレーディング）、河井政貴（金井重要工業）、漆原和告（漆原）、淺野友軌（日本大学）

『サステナブル社会の構築に貢献する植物由来複合材料』

　高木均（徳島大学）

これらの記事をお読み頂く前に、ここではその背景を簡単に説明したい。