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2022/12 Vol.125

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日本はものづくりで勝てないのか!?

第12回(最終回) 若いものづくりエンジニアへのメッセージ

思いと志

最近、台湾の鉄鋼メーカーから「棒鋼・線材圧延」に関する講演を依頼された。30人ばかりの若手棒線技術者を対象に、塑性加工・圧延理論・棒線製造技術とその実際について1時間半ほど講演した。幹部との昼食後、辞去しようと思ったら再度講演会場に案内され、その後延々3時間にわたり若手エンジニアから意見や質問が続いた。修了後、疲れよりも講演者冥利に尽きる清々しい気分を味わうことができた。日本では司会者から催促されないと意見や質問が出ないのに、この違いはなぜだろう?

また、上海郊外にある中国地場企業の若者と懇談する機会を得た。彼は米国に留学後、帰国して家業のアルミニウムの押出し加工業を継いでいる。「将来の夢は何か?」と尋ねたところ、目を輝かせながら「米国留学の経験を活かしアルミ製造業の幅広い分野で活躍したい」と滔々とうとうと流暢な英語で語りだした。この種の質問に、多くの日本の若者は伏し目がちに「まだ考えてません…」と答えるのに、この違いはなぜだろう?

筆者の親の世代にあたる甘利祐三氏は、戦時の南方で8人搭乗していた戦闘機が撃墜され、ただ一人の生き残り兵として帰還された。戦後は、“思いと志”(図1)を胸に、圧造機械とエアレス塗装機械(機械遺産No.92)の二つの事業を立ち上げ、残りの授かった人生を日本の産業再興に貢献してきた。

その体験談は浅川研究室の学生にも大きな感銘を与えた。前述の「なぜだろう?」の一因は、「この“思いと志”が有るか無いか」にかかっている。司馬遼太郎も「人間はなんのために生きちょるか知っちょるか!事をなすためじゃ、人間には志というものがある。妄執と申してもよい。この妄執の味が人生の味じゃ」と竜馬に語らせている。連載記事で紹介してきた幕末・明治維新前後の勇士、および戦後の復興に驀進ばくしんした企業人の“思いと志”を、ここでもう一度思い起こしてみよう。

図1 旭サナック(株)甘利祐三 書

若いものづくりエンジニアへのメッセージ

最終章ではこの“思いと志”を背景にその道の識者、および企業に28年間・大学に18年間勤めた筆者のエッセー(テクノ未来塾“モトイズム”より引用)を箇条書きにして綴ったみた。特に若い世代からのご意見ご批判頂けたら幸いである。

1)日経新聞コラムの中国人留学生スピーチコンテストから:あなたの意見を聞きたいと日本の学生に食い下がると、下を向いて黙り込むばかり。日本人は沈黙する羊たち…我々留学生は日本人と交流するのをあきらめている。

2)中国の清華大学では朝の7時には図書館の席は座れないほど埋まり、食事中でも熱心に議論している。ある大学では日曜日に開館していた図書館を閉鎖した。なぜか?夜遅くまで図書館で勉強や読書に専念し、健康を害する学生が続出したため。国際競争とはこんな学生達が相手!(モトイズム)

3)ものづくりエンジニアを多く輩出してきたある東大教授は「学生が真理とする3要素は、①TVや新聞でそう報道している、②学校でそう教えている、③周囲のみんながそう言っている」と。

4)米国で授業参観した。始まった途端に私語はなくなり、教授の話に集中する。少しでも解らない用語・内容が飛び出すと、次々と質問し意見を述べる。講義の3分の1は学生との質疑応答で、大学院では半分以上となる。(モトイズム)

5)米国籍を取得した理由を記者から問われた真鍋淑郎(ノーベル賞受賞者)は「米国では周りを気にせずやりたいことができる。私が日本に戻りたくない理由の一つは、周囲に同調して生きる能力がないから」と。

6)「実験的事実に基礎をおき、人のつくった権威や独断には従わない」は1660年に設立された英国王立協会(Royal Society, London)の標語である。同調する前に、自分の実験事実や考えを大切せよ。(モトイズム)

7)怒りなさい。叱りなさい。どやしつけなさい。言い方に気を配るなどさらさら必要ありません。なぜ叱ると身に付くか。それは誰も辛いからである。辛いものは心身にこたえるし、よく効くのだ。空気を読む必要などさらさらない。(伊集院静の大人の流儀より)

8)上の命令を“正しく疑う”ことが重要だ。トランプ米大統領の下で、テイラーソン前国務長官も含めて直属の部下たちが、すぐ首にされたのは、健全な科学的思考に基づく懐疑主義者だからだ。(元防衛省幹部:伊藤俊幸)

9)「半人前の人」は、自分が半人前との自覚がなく、世を閉じるまで半人前で終わる。「一人前の人」は日常業務を右から左へ仕事をこなすが、それ以上でもそれ以下でもない。「一流の人」は仕事や技術を原理原則まで突き詰め、本質を捉えることができ、一流の人が世の中を実質的に牽引している。(モトイズム)

10)ものづくりエンジニアには「頭の良さ」よりも「頭の強さ」が重要である。頭の強さとは「好奇心」「執着心」であり、一度しがみついたらテコでも離れない「思い入れ」の強さである。「頭の良さ」は生まれつきだが、「頭の強さ」は訓練で鍛えられる。(モトイズム)

11)仕事と私生活を峻別させ、「仕事は生活の糧を得る手段」と割り切る人がいる。これは大変もったいない。仕事はつらいことも多いが、人生で最大の充実感を与えてくれるのも仕事だ。一回かぎりの人生、仕事をエンジョイして欲しい。(モトイズム)

12)誤解を恐れずに言うと、私は生意気な人が欲しい。「欲がない人間」「好奇心のない人間」に用はない。(SONY:盛田昭夫)

13)SONYのあるエンジニアから:「盛田さんは、お前考えろとか、誰かに考えさせろ、とか決して言わない。自分自身が考えるんです。僕らエンジニアはそういうものに非常に敏感ですぐに分かるんです。あっ、この人は自分で考えているな。そうきたか、だったら、こういう提案はどうか。こっちも負けないように、必死に勉強して考えるようになる。

14)いい加減だと言い訳が出る。中途半端だと愚痴が出る。一生懸命だと知恵が出る。(武田信玄)

15)仕事は偏差値試験のように易しい問題から解くのではなく、難しい課題を一日考えてダメなら一週間、それでダメなら一カ月、要は「頭が割れるほど考えたか」にある。考える習慣がつけば、解決の道筋が必ず見えてくる。思いと執着心を失ったとき仕事は失敗しその幕が閉じる。(モトイズム)

16)望みを成就するためには、並みに思ったのではダメ。「すさまじく思う」こと。寝ても覚めても四六時中そのことを思いつづけ考え抜く。頭のてっぺんからつま先まで全身をその思いで一杯にして、切れば血の代わりに「思い」が流れる。そのことが物事を成就させる原動力となる。(KDDI:稲盛和夫(1)

17)人間は本来怠惰なためgoodと言われ続けるとgreatを目指さなくなる。“goodはgreatの敵”である。goodと言われたら「イエローカードを1枚もらった」と思った方が良い。能力は部下や外部の人に助けてもらえるが、“気概”や“やる気”は借りることはできない。散歩のついでに富士山に登った人はいない。(企業コンサルタント:小宮一慶)

18)理研を創設した大河内正敏は「先入観を無くして、あるがままに見よ。工場で座り込む、立ちつくす、 機械と四六時中睨めっこをする、考え込む、数日後にまた見る、今日うまい考えが出なければ、寝て考える、目が覚めたらまた考える、毎日同じことを繰り返せ、これだけ執着すれば夢に見る、夢に見るようになったら解決が近い」と。

19)自分の基準や軸となる専門性を若いうちに高めること が大切。マラソンと一緒で、前半で大きな差がつくと、なかなか取り返せない。ゼネラリストになるのはそのあとでいい。(日本電産:永守重信)

20)例えば週末に90分だけ自分の研鑽の時間として費やしたとする。3カ月強で大学の一科目分、3年で10科目を超える。すると、その分野の造詣が深くなり、周囲からの信頼も高まる。こうなると仕事が楽しくなり、月曜日の朝が待ち遠しくなる。(モトイズム)

21)スキルが足りない若い社員には「会社を辞めるな」と説得している。会社の中での挑戦なら、先輩方がバックアップしでくれるし、何かあっでも会社が守ってくれる。失敗して大きな損失を出しても、自分が破産して路頭に迷うこともない。だからサラリーマンこそ思い切った挑戦ができる。(クオンタムリープ:出井伸之)

22)東北電力の平井弥之助は女川原子力発電所建設の際、貞観十一年(869年)の大津波を調べ、14.8メートルの高台に建屋を設置した。さらに引き波時に海底が露出する事態に備えて取水口も確保した。危機を救うのは組織ではない。一人の人間の「思い」である。(モトイズム)

23)薬師寺の東塔に入ったら、ほんま、不揃いな木ばっかりだ。それでも力強いんだな。あれも不揃いのよさや。外側はちゃんと整っているが、裏では不揃いが総持ちで支えているっていうのは、やはり最高のものだろうな。(宮大工・西岡常一の内弟子:小川三夫)

24)日本の大学はリアルからバーチャルの教育にシフトしている。もっとリアルで泥臭い機械系、電気・電子系の教育を重視してほしい。(ファナック:山口賢治)

25)伊藤博文は自分で肥樋を担いで野菜を作っていた。イギリスへ行く船中で水夫の手伝いをやったり、料理の手伝いをやったりしてね。長英戦争で長州が負けて、旧知の外交官であるアーネスト・サトウに談判をしに行った際、伊藤は下関中を駆け回り、洋食の材料になりそうなものをかき集めて、洋食を作るんですよ。サトウは日本で最初の洋食の饗応に与った。だから、伊藤は日本の最初の総理大臣だけども、洋食を自分で作って出せる、そういう人が、列国の首相の間に立ったとき、自ずから別の風格があります。見る人にはわかる。それは“個人”なんです。(思想家:鶴見俊輔(2)

最後に、全連載(3)にわたり芦遊サロン(元住友金属の私的交流会)の皆様からの資料提供やご支援頂き感謝いたします。


参考文献

(1) 稲盛和夫, 生き方(2004.8),サンマーク出版.

(2) 鶴見俊輔, 関川夏央, 日本人は何を捨ててきたのか 思想家鶴見俊輔の肉(2011.8筑摩書房.

(3) 浅川基男, 日本のものづくりはもう勝てないのか(2021.6), 幻冬舎.


<フェロー>

浅川 基男

◎早稲田大学 名誉教授

◎専門:機械工学、塑性加工、機械材料

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