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2022/12 Vol.125

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やさしい流体力学

第12回(最終回) 乱流

 

 

12.1乱流の性質

第9回に紹介した円管内の非圧縮流れにおいて,層流における管摩擦係数はλ=64/Reだった.しかしこの式は,レイノルズ数が増加して流れが乱流に遷移すると成り立たない(滑らかな管では,おおむねRe>2300で乱流へ遷移する).乱流は実験もしくは数値計算により調べられ,たとえば管摩擦係数は実験的な調査によりMoody線図としてまとめられている.乱流の性質は様々あるが,ここでは広く知られているものをいくつか示そう.

  • 不規則性・・・図12-1のように,乱流において速度は不規則に変化する.圧力も同様である.
  • 高レイノルズ数・・・乱流は高レイノルズ数でみられる.レイノルズ数は慣性力と粘性力の比なので,高レイノルズ数流れでは慣性力が支配的である.
  • 強い拡散性・・・乱流は強い拡散性(もしくは攪拌性)を持つ.たとえば壁面に沿った乱流(図12-2)では,壁近くの領域と壁から離れた領域の間で活発に運動量が交換されるため,大きな摩擦が維持される.
  • 渦構造・・・乱流では,非定常で三次元的な渦構造がみられる(図12-2).
  • エネルギーカスケード・・・運動エネルギーの一つである乱れのエネルギーは,大きな渦から小さな渦へと伝達される.これをエネルギーカスケードという.

エネルギーカスケードについて簡単に紹介しよう.Navier-Stokes方程式の対流項に,ある速度の変動としてて$u=\sin(kx)$を代入する.ここでkは波長の逆数として定義される波数である.非線形である対流項は,

$$u\frac{\partial u}{\partial x}=\sin(kx) k\cos(kx) = k \frac{\sin (2kx)}{2} \label{conv}    (12.1)$$

となり,倍の波数($2k$),すなわち短い波長の変動が現れる.乱流において波長は渦構造の大きさに対応する.そのため式(12.1)は,この非線形の作用により大きい渦構造から小さい渦構造が次々と生み出されることを示している.渦構造は,非線形作用によりコルモゴロフ長と呼ばれる長さ程度まで小さくなる.コルモゴロフ長(lK)とは,エネルギーカスケードによって伝達されたエネルギーが,粘性の作用で熱に変わる(散逸する)運動に対応する長さであり,
$$l_K = ({\frac{\nu^3}{\varepsilon}})^{(1/4)}    (12.2)$$
で表される.ここに$\nu$は動粘性係数,$\varepsilon$は散逸率である.

図12-1乱流の時系列データの例(ここでは速度データを示す)

図12-2数値計算を用いて可視化した,壁面に沿った乱流における渦構造(Re=5600)

12.2 RANS方程式

不規則性を持つ乱流は,図12-1に示すように平均値と変動値に分けるレイノルズ分解を用いると,取り扱いやすい.任意の関数$f$および$g$を
$$f=\bar{f}+f^\prime ,~~g=\bar{g}+g^\prime \label{reyave}    (12.3)$$
に分け、上付きバーは平均値を,プライムは変動値とする.ここで平均として時間平均を想定し、$T$は平均する時間とした.
$$\bar{f}=\frac{1}{T} \int_0^T f dt,~~\bar{g}=\frac{1}{T} \int_0^T g dt    (12.4)$$
この平均操作により変動値の時間平均はゼロ($\bar{f^\prime}=0$, $\bar{g^\prime}=0$)となるが、変動値同士をかけ時間平均した相関値($\overline{f^\prime g^\prime}$)は必ずしもゼロにならない.
他にも例えば下記の性質がある.
$$\bar{\bar{f}}=\bar{f} , \overline{f^\prime g} = \bar{f^\prime} \bar{g}=0   (12.5)$$
速度や圧力は式(12.3)を用いて,
$$u=\bar{u}+u^\prime,~~v=\bar{v}+v^\prime,~~w=\bar{w}+w^\prime,~~p=\bar{p}+p^\prime$$
として平均値と変動値に分けられる.これらを連続の式とNavier-Stokes方程式($x$方向のみ記載する)に代入しよう.
連続の式は
$$\frac{\partial u}{\partial x}+\frac{\partial v}{\partial y}+\frac{\partial w}{\partial z}=0$$
であり,これに$u=\bar{u}+u^\prime$などを代入する.
$$\frac{\partial (\bar{u}+u^\prime)}{\partial x} + \frac{\partial (\bar{v})+v^\prime)}{\partial y}+\frac{\partial (\bar{w}+w^\prime)}{\partial z}=0\label{cont}   (12.6)$$
式全体を時間平均し,$\bar{u^\prime}=0$や$\overline{\bar{u}}=\bar{u}$を用いれば,平均速度についての連続の式が得られる.
$$\frac{\partial \bar{u}}{\partial x}+\frac{\partial \bar{v}}{\partial y}+\frac{\partial \bar{w}}{\partial z} = 0   (12.7)$$
式(12.6)から式(12.7)を引けば,速度の変動値についての連続の式が得られる.
$$\frac{\partial u^\prime}{\partial x}+\frac{\partial v^\prime}{\partial y}+\frac{\partial w^\prime}{\partial z} = 0   (12.8)$$
次にNavier-Stokes方程式について示そう.
$$\frac{\partial u}{\partial t} + u \frac{\partial u}{\partial x}+v \frac{\partial u}{\partial y}+w \frac{\partial u}{\partial z} =
-\frac{1}{\rho}\frac{\partial p}{\partial x}+\frac{\mu}{\rho} \left(\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\right.+\left.\frac{\partial^2 u}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 u}{\partial z^2}\right)   (12.9)$$

それぞれの変数を平均値と変動値に分け,式全体を時間平均する.
$$\overline{\frac{\partial (\bar{u}+u^\prime)}{\partial t}} + \overline{(\bar{u}+u^\prime)\frac{\partial (\bar{u}+u^\prime)}{\partial x}}+
\overline{(\bar{v}+v^\prime) \frac{\partial (\bar{u}+u^\prime)}{\partial y}}+\overline{(\bar{w}+w^\prime) \frac{\partial (\bar{u}+u^\prime)}{\partial z}} =\\
-\frac{1}{\rho}\overline{\frac{\partial ({\bar{p}+p^\prime})}{\partial x}}+\frac{\mu}{\rho} \left(\overline{\frac{\partial^2 (\bar{u}+u^\prime)}{\partial x^2}}+\overline{\frac{\partial^2 (\bar{u}+u^\prime)}{\partial y^2}}+\overline{\frac{\partial^2 (\bar{u}+u^\prime)}{\partial z^2}}\right)   (12.10)$$
左辺の非定常項,右辺の圧力勾配項と粘性項は,平均値のみが残る.対流項は,例えば

 (12.11)

であり,さらに式(12.8)より
$$\frac{\partial \bar{u}}{\partial t} +\bar{u}\frac{\partial \bar{u}}{\partial x}+\bar{v}\frac{\partial \bar{u}}{\partial y}+\bar{w}\frac{\partial \bar{u}}{\partial z} =\\
-\frac{1}{\rho}\frac{\partial \bar{p}}{\partial x} +\frac{\partial }{\partial x}({\frac{\mu}{\rho}\frac{\partial \bar{u}}{\partial x}-\overline{u^\prime u^\prime}}) +\frac{\partial }{\partial y}({\frac{\mu}{\rho}\frac{\partial \bar{u}}{\partial y}-\overline{u^\prime v^\prime}}) +\frac{\partial }{\partial z}({\frac{\mu}{\rho}\frac{\partial \bar{u}}{\partial z}-\overline{u^\prime w^\prime}})   (12.12)$$
となる.これを速度の平均値についてのNavier-Stokes方程式またはRANS(Reynolds Averaged Navier-Stokes)の式という.
RANSの式には,$\overline{u^\prime u^\prime}$などの速度の変動値同士の相関が現れる.これをレイノルズ応力といい,運動量を輸送するという意味で応力のように振る舞うため「見かけの応力」とも呼ばれる.このレイノルズ応力は未知数であるため,式の数と合わなくなり,式が閉じない.さらにレイノルズ応力についての方程式を作ったとしても,高次の相関項が現れ,やはり式は閉じない.これを乱流のクロージャー問題という.クロージャー問題を解決するため,レイノルズ応力をモデル化した乱流モデルが考案され広く用いられる.

おわりに

「やさしい流体力学」の連載は今回が最終回である.流れは身近な現象であるが,非定常,三次元の運動,非線形,粘性,圧縮性,など多くの要素を持っており,本シリーズで全てを取り扱うことはできなかった.さらに流れの現象はわかっていない謎が多く残されており,今なお数多くの基礎研究が行われている.本シリーズが読者の理解を少しでも助ければ大変嬉しく思う.最後に執筆にあたり強力にサポートしていただいた,名古屋大学荒井先生に大きな感謝を表す.


<正員>
守 裕也
◎電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授
◎専門:流体力学,熱流体制御

<正員>
中 吉嗣
◎明治大学 理工学部 機械工学科 准教授
◎専門:流体力学,乱流計測

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