日本の輸出入と機械産業の国際競争力
第1回 日本の輸出入比率は高くない

はじめに
日本の自動車、鉄鋼、半導体製造装置、工作機械などの国際競争力は強く、今後も期待されている産業である。これらの産業が外貨を稼ぎ、多くのの貿易黒字を日本にもたらすので、日本は輸出大国であると思っている人が結構多い。しかしながら日本の輸出入比率は主要国と比較するとかなり低い。そこで輸出入比率の国際比較、各国の輸出入構造や産業の国際競争力比較などを通じて日本の輸出入の実態を見ることにしよう。第1回目は日本の輸出入比率を通して、輸出、輸入とも各国に比べて比率が低いこと、国際競争力のある産業が少ないことなどを説明する。今回から12回に分けて、日本の輸出入と機械産業の国際競争力につき各種データをもとにやさしく説明していく。
日本は輸出大国ではない
日本は輸出大国ではない。多くの人が日本は輸出大国と思っているが実はそうではない。自動車の輸出が目立っていることから日本の産業の輸出競争力は強く、輸出額が大きなものであると思っている。
表1はGDPベースでの各国の輸出入比率を見たものである。これをみると、日本とアメリカが極めて低いことがわかる。アメリカは資源もあるGDPの大きい大国で、自国で多くの生産品を賄うことができるため輸出入比率が低いのは当然だとしても、日本は低すぎる。これに対してヨーロッパ諸国の輸出入比率の高さが目立つ。ドイツ、スウェーデンの4割台をはじめ、日本と同じ島国であるイギリスも3割程度ある。スウェーデンは人口1,000万人程度の人口が少ない国だから国内に多くの産業をワンセットで揃えることができないので貿易が必要となり、当然ながら輸出入比率は高くなる。ドイツについては、大陸で陸続きであるから輸出が容易であるとか、共通通貨であるユーロの存在、中堅企業の輸出力が強いこと、水平分業が発達していることなどから輸出が多くなる理由が挙げられる。しかし輸出額が日本の2倍を超えることから産業の国際競争力が強いことがそれら以上の大きな要因と考えられる。
表1 各国の輸出入比率(2018年)
| 日本 | ドイツ | スウェーデン | イギリス | アメリカ | |
| 輸出 | 17.8 | 47.0 | 45.3 | 30.1 | 12.1 |
| 輸入 | 16.8 | 39.5 | 41.7 | 31.3 | 15.0 |
(注)GDP ベースで財貨・サービスの輸出入
(出所)内閣府資料
日本の輸出比率の推移
日本の輸出比率は、昔から高いと思われがちだが、高度成長期でも輸出比率は10%程度と高くはなく、むしろ当時は民間設備投資主導の経済であった(図1)。内需が極めて強かった1980年代後半の平成景気のもとでは輸出余力は小さく、円高と相まって輸出比率は10%を切っていた。バブル崩壊後の内需が弱い1990年代でも、輸出ドライブがかかったにもかかわらず10%程度であった。

図1 輸出比率の推移(%)
2000年代に入ってからは輸出比率が上昇した。内需が弱いので引き続き輸出ドライブがかかったことに加えて、それ以上の要因として中国をはじめとしたアジアの経済成長率が高くなったことにより同地域向けに輸出が大きく増加したことがある。
貿易理論にはニュートンの万有引力に似たグラビティ・モデルというものがある。二国間の貿易額は二国のGDPの積に比例し、二国間の距離に反比例するというものである。この理論は2000年以降の日本の輸出比率の上昇は、日本が成長力の高いアジア諸国に近いことが大きな押し上げ要因ということをうまく説明している。地理的には恵まれた位置に位置する日本、今後の輸出の拡大が期待されるところである。しかしながら輸出比率が上昇したとはいえ欧州諸国と比較すると今でもかなり低い。日本は輸出する力がなぜ弱いのか、その実態を探っていく。
輸出の成長率は民間設備投資よりも高い
表2は2000年度以降のGDPと最終需要項目である民間設備投資、輸出、輸入の各年度の成長率を見たものである。民間設備投資は経済のエンジンと言われるように、経済を押し上げる力がある。しかしながら2000年度以降を見ると、輸出の方の成長率が民間設備投資に比べてはるかに高く、経済を押し上げる力が強い。
表2 GDP 最終需要項目の成長率

(実質、前年度比、%)
(出所)内閣府「国民経済計算」より作成
2000年度以降、リーマン・ショックの影響があった時期(2008年~2009年)、コロナ禍の時期(2020年度)を除いて輸出の伸びが民間設備投資の伸びを上回っている。
よりわかりやすくするために、5年間毎の年平均成長率を表3で見ると、両者の違いがよりわかる。
表3 GDP 最終需要項目の年平均成長率

(実質、年度、%)
(出所)内閣府「国民経済計算」より作成
表3を見ると、アベノミクス(2013年度~2018年度)に相当する2010-2015年期を除いて輸出の伸びが民間設備投資の伸びをはるかに上回っている。表の最後の行にある2000年度から2024年度までの24年間の年平均成長率を見ると、輸出が民間設備投資の5倍近い伸びとなっていることが分かる。
輸出の寄与度は民間設備投資を大きく上回る
この両者の差異は寄与度を見ることにより、より鮮明となる(表4)。寄与度は各最終需要項目がどれだけGDP成長率を押し上げたのかを見るものであり、個人消費や民間設備投資、輸出等の各需要項目を足し合わせればGDP成長率となる。輸入はGDPの控除項目であるから、輸入が前年度に比べて増加すればマイナス表示となる。いざなみ景気(2002年度から2007年度)にかけては輸出の寄与度がGDP成長率の半分以上を占めており、GDP成長率を超えた2007年度のような年もあった。またコロナ禍以降は輸出主導の形となっている。
表4 GDP 最終需要項目の寄与度(%)

(出所)内閣府「国民経済計算」より作成
各国の輸出入構造
次に各国の輸出構造を見る(表5)。最初にドイツとの比較を見ると、ドイツの輸出額は実に日本の2倍以上(2.2倍)もある。ドイツの人口は8,500万人で日本の約3分の2であるから、一人当たりでは実に日本の3倍となる。また日本とドイツのGDPの規模はほほ同じであるから、ドイツの輸出比率は日本の2倍以上であることが分かる。韓国の輸出額も半導体等の機械類の輸出額が多いことから日本の輸出額に迫っている(日本の0.85倍)。韓国の人口は5,200万人と日本の4割程度だから一人当たりでは日本の約2倍となる。一方、人口が日本の2.8倍、GDPは6.5倍の米国の輸出額は日本の2.3倍にとどまっている。
表5 各国の輸出構造(2021年)(億ドル)

(注)通関ベース。雑製品:光学機器、医療用機器、計測機器及び制御機器、写真用機器、時計、衣類及びその付属品等
(出所)総務省統計局「世界の統計2025」より作成
国別に輸出をみると、ドイツの輸出は機械類、輸送用機器では輸出額が日本の1.75倍ある。ドイツはボイラ・タービンの原動機や工作機械などの一般機械、自動車、航空機の輸送用機器の輸出が多い。自動車については輸出台数が日本よりも少ないが、輸出金額では日本をはるかに上回る。一台あたりの単価が日本と違って高いのである。航空機についてもエアバスでフランスとの分業が進んでおり、輸出額は日本よりも一ケタ多い。さらには食料品及び動物、医薬品などの化学製品、工業製品、雑製品(医療用機器はここに含まれる)の輸出額も多く、輸出構造は日本と異なりバランスの取れたものになっている。
韓国については半導体をはじめとした機械類、輸送用機器の輸出額は日本の8割以上もあり、化学製品、工業製品の輸出も多い。
米国は機械類、輸送用機器の輸出額が日本の1.3倍とGDPが多い割には少なく、食料品及び動物、LNGなどの鉱物性燃料、化学製品の輸出が多い。
日本は機械類、輸送用機器が比較的多いが、ドイツの6割弱にとどまっている。
輸入については(表6)、ドイツの輸入は、日本の2倍近くもある。原材料は日本の輸入額に比べて大差はないが、化学製品、工業製品、機械類、輸送用機器の輸入額が日本の2倍以上もある。どれも競争力の強い商品であるが日本と違って分業が進んでいるために輸入額が多い。韓国は日本と似ており、機械類、輸送用機器の輸入額は日本と変わらないほど多い。米国は工業製品、機械類、輸送用機器、雑製品の輸入額が日本の4倍以上もあるが、ドイツのように分業が進んでいるのではない。米国は、鉱物性燃料、化学製品、工業製品、機械類、輸送用機器、雑製品等ほとんどの業種で輸入が多く、特に機械類、輸送用機器、雑製品で多くなっている。要するに国内需要に対して供給力が少ない(供給力が不足)という経済体質があるため、供給の不足分を輸入で補っている。そのため毎年多額の貿易赤字を出している。貿易赤字の縮小のためには関税ではなく、供給力の強化、別の言い方をすれば製造業の復活が必要である。
表6 各国の輸入構造(2021年)(億ドル)

(注)(出所)は表5 に同じ
日本は機械類、輸送用機器、工業製品を除く多くの産業分野で輸入が多く、全体で見ると国際競争力がそれ程強くはない業種が多く、貿易収支は赤字である。
日本産業の国際競争力
日本の国際競争力の実態を探るために商品別の競争力を見ることにしよう。競争力が強いほど、輸出額は大きいし、輸出額から輸入額を引いた貿易収支額も大きくなる。表7は各国の商品別の輸出特化係数を計算したものである。ここでは輸出特化係数により輸出競争力を見る。輸出特化係数については次の定義式で示され、1から-1までの値を取り、国際競争力が強いほど1に近づく。
輸出特化係数=(輸出額-輸入額)÷(輸出額+輸入額)
これらの輸出特化係数によると、総額ではドイツ、韓国がプラスとなり、米国は大きなマイナスとなる。日本はドイツに比べて化学製品、雑製品では競争力が劣るが、機械類、輸送用機械、工業製品ではドイツを上回っている。しかしドイツは日本と異なり水平分業が進んでおり、輸入が多いために見かけ上、輸出特化係数が低く出る傾向がある。韓国は化学製品の競争力が強く、総額ではプラスとなっている。米国は製造業に相当する化学製品、工業製品、機械類、輸送用機器、雑製品の特化係数はかなり大きなマイナスで、これが米国全体の輸出特化係数を低いものにしている。
表7 各国の輸出特化係数(2021年)

(注)(出所)は表5に同じ
近藤 正彦
◎元中央大学・立教大学兼任講師
◎専門:経済統計学、経済分析、日本経済論
キーワード:日本の輸出入と機械産業の国際競争力
装置製作:高山芳の
(多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 統合デザイン領域 在籍)
金属・磁石・モーターなどの単純なメカニズムを用いた装置は、重力や摩擦を受け入れながら、ある行為を繰り返します。その姿は、私たちが呼吸し、脈を打ちながら生きていることを思い出させます。本誌では、学部の卒業制作である 10 体の装置〈脈拍〉を中心に、全 12 体の作品を紹介します。