日本機械学会サイト

目次に戻る

2019/8 Vol.122

【表紙の絵】
れいにーうぉーくのぱたぱた
長谷川 遥 さん(当時6 歳)

雨の日にブルーになる気分や、ストレスで落ち込む現代の人たちの気分をいやしてくれるとっても自然のいいかおりのするスプレーをまきながらぱたぱた飛びながら空中散歩する人間をハッピーにする未来のマシーン

バックナンバー

ほっとカンパニー

レオン自動機(株) 笑顔とおいしさは、地球をひとつの国にする

笑顔とおいしさは、地球をひとつの国にする

 

日本にはこんなすごい会社がある

食品全般にわたる各種成形機の開発を手がけ、世界125の国や地域に輸出している機械メーカーがある。栃木県宇都宮市に本社を置くレオン自動機(株)だ。スーパーなどで目にする「包む」手法を用いた食品のほとんどが、この会社の機械で製造されているといっても過言ではない。世界で初めて、饅頭やクロワッサンの自動成形機を発明した会社でもある。創業者は食品製造機械のパイオニア・林虎彦(現・名誉会長)。機械で食文化に貢献するために、会社を設立したという。社名の「レオン」は、レオロジー(流動学)に由来している。

機械は人のために

レオン自動機の歩みは、林の功績なくしては語れない。終戦後、林は製パン工場で働いた後、和菓子職人を目指し、1951年に自分の和菓子店を持つ。当時は、餡を餅や小麦粉の生地で包んだ饅頭が大人気で、作れば売れる時代。しかし、包むという作業を1日中続けることは重労働だった。幼い頃から科学が好きだった林は「人間は創造的な事に従事し、単純作業は機械にまかせるべき」と考え、和菓子製造を機械化しようと決意する。そして10数年の歳月をかけ、1963年、ついに世界初の饅頭自動成形機「自動包あん機」を発明したのだ。こうして和菓子業界の重労働問題を改善した林は、この年にレオン自動機(株)を設立する。さらに、パン業界の労働問題も解決しようと、1967年にパンや大福などの弾性の強い生地でも扱える、改良型の包あん機を開発した。機械はアメリカの製パン協会で賞賛され、海外にも知れ渡るようになった。

レオロジーから誕生した包あん機

林が開発を目指した時期は、強圧により切削・プレス・組立などの加工成形を行う機械が主流で、饅頭生地のような流動性のある粘弾性物質の成形には適していなかった。この難題を乗り越えるため、林は国会図書館に通い、レオロジーという分野を知る。レオロジーは物質の流動と変形を扱う科学で、当時は学問としてあっただけで、その理論を具現化した人はいなかった。林は、独学でレオロジーと機械工学を研究し、全く新しい誘導成形理論を発明する。林の描いた設計図を実現化したのは、鉄砲鍛冶の加藤兄弟だ。彼らは1,000分の1mm単位で誤差なくヤスリをかけられるという優れた腕の持ち主だった。この二つの才能の出会いで、包あん機が完成したのだ。

この機械は、餡を芯とした生地を棒状に成形し、それを回転する2枚の包着盤を使って包あんするという仕組みになっている(図1)。包着盤の周囲には特殊な螺旋状の溝が彫られていて(図2)、この曲面が、生地を接線応力の方向に、餡を法線応力の方向に分離して流動させ、その結果、二重の球状層に成形することができるのだ。林が和菓子職人だった経験が活かされ、手で粘弾性の生地を包むという動作を包着盤の摩擦で再現している。

図1 2枚の包着盤による包あんの連続成形

 

図2 包着盤

 

開発設計部長 七原は「大学生の頃、包着盤を見て驚きました。大学で習った機械工学の知識では考えられない形状で、説明を聞いても丸く包む理論が理解できませんでした」と、包あん機(図3)の設計の独創性に魅了され、入社をしたという。

図3 機械遺産に認定された1960年代開発の「包あん機105型」

クロワッサンを救え

1970年代、クロワッサンは大量生産ができず、富裕層だけの高価な嗜好品となり、市場から消えゆく運命にあった。クロワッサンの基になるパイシートの製造に大変な手間がかかるからだ。パイシートはパン生地と油脂を幾重にも折り重ねた積層生地をローラーで薄く均一に伸ばし、さらに折り重ねと伸ばしを繰り返して作る。この時、ローラーが生地に与える圧力が大きいと、油脂の層が乱れたり、グルテン構造が破壊されたりして味が悪くなる。そのため、少しずつ何段階にも分けてプレスしていかなければならなかった。

林はクロワッサンを救うため、パイシート作りの機械化に挑戦した。そして「生地を引っ張って伸ばせば、ダメージを与えない」ことに気づき、包あん機の引っ張り理論を面に応用することで、生地延展機「ストレッチャー」を開発したのだ。コンベヤーベルトの速度差を利用して、生地を連続的に引っ張り、その上をローラーが回転しながら高速で通過することで、生地に振動を与えながら極めて小さな圧力で薄く均一に伸ばす技術だ。これを基に1976年にクロワッサン製造機を開発。比較的安価で量産できるようになったことで、世界的なクロワッサンブームが巻き起こったという。

新たな包あん技術へ

手粉を使わないおはぎや桜餅などは粘着性が高いため、包着盤構造では包あんできなかった。そこで現代表取締役社長 田代が、シャッター型の「非粘着インクラスター」を1986年に開発した。形状がカメラの絞りに似ていて(図4)、シャッター開口を開閉すると、棒状の素材が切断され、包あんできるのだ。この技術の登場で、現在では手粉を使う大福や饅頭も包着盤は用いず、シャッターで包あんしている(図5)

図4 ミックス型シャッター(シャッターは大きく分けて4種類ある)

 

図5 シャッターを搭載した『火星人CN580』

パンの製造工程も改善した。パンはさまざまな形に成形する前に、大量の生地を小口に分割する。この時、ズレ応力で生地のグルテン膜が損傷してしまうため、添加物を加えたり、生地をねかせたりして膜を回復させていた。この工程を、生地吐出装置「V4ドウフィーダー」が不要にしたのだ。生地をグルテンの結合が強化された薄いシートに変え、分割時のグルテン膜の損傷を防ぐ画期的な発明だった。

ニーズに応え、世界の食文化を守る

同社には、菓子職人の技術を持った社員が30人ほどおり、自ら生地をこねるなど常にユーザーの立場を意識しているという。近年は安全衛生面に対する要望が強く、食品に触れても害がない樹脂を使用するなど徹底した異物混入対策を行っている。さらにIoTを活用し、機械に不具合が生じた際はクラウド上の履歴から不具合箇所や状態を迅速に把握し、メンテナンスサービスの向上に努めている。

「世界の食文化を守り続けることが私たちの使命だ」と経営企画室長 渡辺は語る。マーケティング部次長 信賀もここに共感して入社した。「食品機械」を貫き、これからの人材不足の時代も食文化を支えていきたいという。

レオンが食文化のガーディアンであり続けるには、創業者 林のような独創性・柔軟性に富んだ発想の人材を育てることが重要だ。人類が育んできた食文化を絶やさないように、レオンの社員たちは今日も奔走している。

(取材・文 山田 ふしぎ)

左から、信賀丈晴さん、渡辺正彦さん、七原一秀さん。


レオン自動機(株)

本社所在地 栃木県宇都宮市 https://www.rheon.com/jp/

キーワード: